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紙の博物館見学

紙の博物館へ行ってきました。

場所は東京都北区王子にあります。立地場所は第二次世界大戦の空襲で焼け残った王子製紙の一部だったそうで、平成10年(1998年)に現在の場所へ移転したそうです。
最寄り駅は王子駅になりますが、王子製紙があったから王子駅になったのかと思いきや、王子製紙の方が王子の地名からとった社名なのだそうです。逆パターンなのはちょっと珍しい気もします。

王子に製紙会社が誕生したのは紙作りに良質な水が得られる千川用水があった事や製品の運搬に石神井川があった事など場所的に適していたそうです。抄紙会社(王子製紙の前身)の設立が明治6年(1873年)なので運搬は水運が重要だった時代です。
その他に紙の原料である破布(ボロ)の集積地で製品の消費地に近い事もあったそうです。パルプと言えば現在は木材から作られますが設立当時は破布から作っていたそうです。
ちなみに会社設立には渋沢栄一が明治の豪商であった三井、小野、島田組に共同事業を呼び掛けて設立したそうです。渋沢栄一なんでもやってますね。

さて肝心の紙の博物館です。博物館などでは音声ガイドの貸出がある所もありますが、紙の博物館ではスマホにアプリをダウンロードすると詳しい説明が読める仕組みになっていました。建物は4階建てで入口が2階部分になります。
2階が製紙産業の発展で明治期から現代までの製紙技術がどのように変わっていったか紹介されています。こちらは完全に大人向けに作ってあります。

3階に上がると現在の紙作り方やリサイクルの方法、パルプの原材料に関係する植林の話などが紹介されていますが、こちらは完全に小学生向けに作ってあります。急に展示の雰囲気が変わるの「えっ?」と思ってしまいます。

4階は展示室で資料が展示されていますが、正直広くないにも関わらず古く貴重な展示物が結構あるのに驚きました。日本最古であり製作年が明確な印刷物としては世界最古でもある百万塔陀羅尼があったのには驚きました。


百万塔陀羅尼とは高さ20cmほどの小さな塔の中にお経の一部を印刷した紙を納めた物です。

天平宝字8年(764年)に作られた物で、約1300年も前の紙が残っていることが凄いです。和紙は現代の洋紙と違い薬品を使用していないために1000年以上ももつのだそうです。理屈では分かっていても目の前の紙が1300年も前の物とは信じられない程の保存状態の良さです。

あとお札などに入っている「透かし」についての説明もありましたが、透かしの紙を製造する場合は現在でも許可制で財務大臣の許可が必要なのは知りませんでした。

広くはなかったですが、それなりに面白かったです。ですがこれだけではちょっと物足りない感じもします。ワークショップで紙すき体験などもあるので、そちらに申し込むのも良いかもしれません。
また紙の博物館の隣には飛鳥山博物館や渋沢史料館もあるので、それも合わせていくのもあります。

私はあらかじめ浮世絵の手摺り実演会に申し込んでおきました。

実演会は1階のイベントスペースを使用して行われました。
浮世絵は木版で一色づつ色を刷り足していきます。一般的な浮世絵では8回程度色をつけていくそうですが、全てを見せると時間がかかってしまうために二色分の刷り足しの実演でした。

実演をしてくださった沼辺木版の沼辺伸吉さん

浮世絵の肝心なところは各色をずれる事なく刷り足す事です。この時木版には「見当」と言う合わせる位置の目印があり、それに紙を合わせて刷り足していきます。今でも使う「見当はずれ」の語源はここから来ているそうです。また現在の印刷でも色がずれる事を「見当ずれ」などと言います。

見ていて気になったのは、刷ったすぐに大きなクリアファイルのような物に挟んでいたことですが、紙は水分量などで伸び縮みするため刷っている間は紙を乾燥させないためだそうです。実際に触るとかなり湿った感じでした。

実演自体は面白かったのですが進行はグダグダでした。この浮世絵の手摺り実演は今回が初めてだったそうで仕方のない部分もありますが、結果から言えば手摺り実演の時間をもっと少なくして質問などの時間をもっと取った方がよかったと思いました。

質疑応答で所員が答えて質問の答えになっていない回答が帰ってきたり、その応答で話がどんどんずれていってしまうのはどうかと思いました。質疑応答の時間も少なかったのですぐに質問を打ち切られてしまったのもどうかと思いました。
結局実演が終わった後に結構な人数が残って摺り師の方や関係者の方などに質問をするような状態になってしまいましたので。

摺り師さんの話を聞いていると、浮世絵はテクノロジーによって衰退した産業が伝統工芸になった姿なのだと思いました。
浮世絵と言えば絵を描く北斎や写楽などが思い浮かびますが、実際には江戸時代の印刷産業で北斎や写楽にしても印刷工程の一部で今で言えばイラストレーターでしかありません。産業が衰退する事によって浮世絵関係の道具なども作る人がいなくなり困っているようです。

これは現在の印刷業界と似ています。印刷会社と言うのは浮世絵に似ていて、工程の一部だけを請け負う印刷会社がどの町にも沢山ありました。以前は全て人によりアナログ作業でしたが、この20~30年前のデジタル化によってどんどん廃業しています。

その流れに逆行して、昔の活版印刷が「味がある」などと言われて一部では再注目されています。ひょっとすると100年後には手作業で行う印刷は伝統工芸になっているのかもしれません。
今の浮世絵の状態は未来の印刷業界の姿かもしれないとも思ってしまいました。





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