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引用形式請求項(従属項)の内容が適切かを判断する方法

本記事は「自分で特許を出してみるシリーズ」として、特許請求の範囲の書き方についてです。

特許の出願書類の一つである特許請求の範囲には、権利を求める内容(発明)を請求項に分けて記載します。特許公報などをご覧頂くと分かるのですが、例えば以下のように記載されています。

【請求項1】
チタン製のカップ本体と、取っ手とからなる、カップ。
【請求項2】
前記取っ手はチタン製である、請求項1に記載のカップ。
【請求項3】
前記取っ手は、前記カップ本体の側面に設けられる、請求項1または2に記載のカップ。

請求項2と請求項3の末尾、「請求項●に記載の」のように、他の請求項を引用するものを、「引用形式請求項」と言います。「従属項」とも言われます。

●引用形式請求項(従属項)の内容

請求項2は、請求項1の内容をさらに「取っ手はチタン製である」ことで限定したものです。

つまり、請求項2は、以下と同じ内容です。
「チタン製のカップ本体と、チタン製の取っ手とからなる、カップ」、または
「チタン製のカップ本体と、取っ手とからなる、カップにおいて、前記取っ手はチタン製である」

請求項1の権利範囲を大きな丸で描くと、請求項2の権利範囲は、その大きな丸の中に入った小さい丸ということになります。集合の「ベン図」をご存知したら、請求項2の権利範囲は請求項1の権利範囲の「部分集合」と言えばお分かりかと思います。

請求項3はどのように書けるか、ちょっと考えてみてください。

●引用形式請求項(従属項)の内容が適切かを判断する方法

引用形式請求項(従属項)としていろいろな内容を書くことができます。では、引用形式請求項(従属項)の内容が適切かはどのように判断すればいいでしょうか?

引用形式請求項(従属項)の内容が適切かを考えるためには、その内容の「逆を考える」ことです。以下説明します。

<事例>
【請求項1】
チタン製のカップ本体と、取っ手とからなる、カップ。
【請求項2】
前記取っ手はチタン製である、請求項1に記載のカップ。
【請求項3】
前記取っ手は、前記カップ本体の側面に設けられる、請求項1または2に記載のカップ。

(1)他の特徴はないか「逆」を考える

請求項2の「逆」は、取っ手がチタン製でないということです。取っ手がチタン製でないもので、他の特徴がないか考えます。もし他に特徴があれば、従属項を追加する必要があるかも知れないと判断することができます。

一般に、従属項をなんでもかんでも作ればいいというわけではありません。請求項1との相乗効果があるものを従属項とすると効果的です(★)。

取っ手としてチタン以外にどんなものを用いることができるか考えます。チタン以外に相乗効果があるものがなければ、請求項2だけで十分です。この場合でも、この特許出願の権利範囲が、取っ手がチタン製であるものに限定されるわけではありません。取っ手がチタン製でないカップについては、請求項1でカバーできると考えます。

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<参考>(★)相乗効果について
請求項2のチタン製は、単に材質の一例として挙げたわけではありません。「カップ本体と取っ手を同じ材料にする」という「技術思想」です。

他には例えば、取っ手を熱伝導性が高い(けど安い・丈夫など)材質にするという内容の従属項を作るのはどうでしょうか。一般的なカップなら取っ手を熱伝導率の低いものにするのでしょうけど、チタンはそれ自体熱伝導率が低いので、取っ手には熱伝導率が高いものを使うこともできるでしょう。このような点も相乗効果と言えます。

一方、例えば取っ手の色や形状などは、請求項1との相乗効果を言いにくいでしょう。このような従属項は重要度が低いということになります。
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(2)「逆」が存在しない場合

せっかく従属項を作ったのに、表現こそ違えど、引用される側の請求項(被引用請求項(独立項))と実質的に同じ内容になっていることがあります。このような従属項はまったく意味がないとまでは言いませんが、意図せずそうなっていないか確認するといいでしょう。

例えば、上記の請求項3はどうでしょうか。取っ手が、カップ本体の側面に設けられないカップは、存在するでしょうか?そうすると、請求項3は不要と考えることもできます。

●集合で考えてみる

いかがでしたでしょうか。

上記記事でも書きましたが、従属項の権利範囲は、一般には、独立項の権利範囲の部分集合になります。そこで、本記事の内容を、集合(全体集合・部分集合・補集合・空集合など)で考えてみるとわかりやすいです。

絵(ベン図)で説明したほうがわかりやすかったですね。後ほど絵(ベン図)を追加します。本記事は言葉だけなのでわかりにくいですが、頭の体操としてお読みください。

●YouTubeで音声でもご覧いただけます

●元ブログ(+αの情報あり)

(1):https://www.tokkyoblog.com/archives/73563077.html
(2):https://www.tokkyoblog.com/archives/73398111.html

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東雲特許事務所(しののめ特許事務所)
弁理士 田村誠治(元特許庁審査官)
【東京都港区新橋】【東京都中央区八丁堀】【東京都北区田端】
【稀有な経歴】特許技術者→特許庁審査官→特許事務所運営

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