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【 脱税報道 の 闇 】-裏側話します-

《 専門家も誤った解釈をしています 》

 脱税報道は、国税庁がマスコミに対し、発表を行うものなので、悪質性や金額の大きなものが対象となります。

 脱税のパターンもいろいろあります。そして、「脱税」という言葉は、一般用語であり、法律上の文言ではありません。いろいろな意味合いを含んでいます。「追徴課税」もしかりです。
 
 脱漏所得(申告していない儲けた金額)のことか。それとも、納税すべき額のことか、それは、本税、加算税、延滞税のいずれを指すのか。
 加算税とは、重加算税なのか、過少申告加算税なのか。
 故意なのか、過失によるものか、税務当局との見解の相違なのか。
 税務当局の指摘に基づき、申告したのか。修正申告なのか。元々、無申告だったのか。それとも、申告せずに、税務署長から課税処分を受けたのか。
 不服申立てをしたのか。実際に納税した額なのか。納税額に延滞税も含まれているのか。納税すべき額であって、未納や滞納しているのか。

 いわゆる脱税報道における「行間の意味」を理解していただきたい。公認会計士や税理士の方も、ご存知でないというか、報道内容に記載されていないことが多すぎます。また、報道では、国税庁の発表だけでなく、納税者側のコメントも入ったりしますが、当該コメント内容の真偽は不明です。

《 結 論 》
 脱漏所得とは、国税当局が指摘した申告漏れ(の儲けた)額について、調査対象の複数年分を積み上げた額であり、追徴課税額とは、納税者が申告した場合には、当該申告額(本税)であり、加算税や延滞税は含まれていない。
 よって、納税者が「既に納税した。」と言及しても、本税のことであり、加算税及び延滞税を納付(納税)している訳ではない。

《 理 由 》 
 どの記事でも、脱漏所得額より追徴課税額が少ないはずです。記事になった時点では、税務署長は、加算税賦課決定処分を行っていませんし、延滞税は、本税完納をもって計算するので、その確定金額は不明だからです。
 国税庁による記者発表は、一罰百戒を旨とするので、悪質な脱税者が実際に納税しなければならない加算税や延滞税を含めた実際の追徴課税額は、脱漏所得を上回ります。そうでなければ、「税務署にバレても損はない」などと考える輩が出てきてしまいます。
 そして、儲け額(所得)をきちんと申告して、その一部(本税)を納税すべきところ、税務調査の結果、過去に遡って、申告していなかった複数年分の脱漏所得額以上(加算税や延滞税を含みます。)をすぐに納税できますか。使わずに貯め込んでいたとしても、それ(国税)だけではありません。地方税や社会保険料も連動して追加納付しなければなりません。
 報道機関が、納税者が「納税を済ませた。」と取材しても、納税証明書(未納がないという完納証明書)を確認した訳ではなく、また仮に、納税していたとしても「本税」を指しているのであり、加算税や延滞税は含まれていないのが通常です。

《 事 例1 》
 マルサ(国税局査察部)の強制調査により、起訴され、懲役や罰金等の刑事罰の判決を受ける場合

 この場合、起訴前と判決後にそれぞれ報道がされます。追徴税額も多額で、悪質性もあるということです。公判(刑事裁判)では、被告人(悪質納税者)尋問があり、裁判官の心証を良くし、有利な(罪を軽くしたり、執行猶予を付けた)判決を受けるため、起訴状の事実を全て認め、「国税当局の指摘どおりに申告をし、納税を済ませました。」と法廷で述べたとします。
 被告人は、証人ではなく、当事者なので「偽証罪」は成立しません。
 よって、被告人が納税したと陳述するときには、納税を済ませた証拠として、税務署長が発行する「納税証明書(その3)」を裁判所に提出するよう刑事裁判に携わる方々にお願いしたい。傍聴席にいる報道機関も、法廷での陳述だからといって、信用しないでいただきたい。単なる取材ではなおのことであると申し上げたい。
 なお、罰金刑を受けた事案において、罰金の支払義務は生じるのですが、滞納事例も多く、検察当局もご苦労されています。

《 事 例2 》
 所得がありながら一度も申告していないという、いわゆる無申告者に対し、過去に遡って7年間分の脱漏所得を税務当局から指摘され、「期限後申告」を行う場合と税務署長から「決定処分」を受ける場合

1「申告」と「処分」の違いについて
 「申告」とは、税務当局の指摘があったとしても、自己の責任において所得計算を行い、申告書を提出するものあり、申告内容(税額の多寡)を争うことができません(不服申立て等ができません)。これに対し、納税者から申告がないときに、税務署長は、無申告者に対しては「決定処分」、当初期限内申告者に対しては「更正処分」をすることとなり、これらの処分には、加算税も含まれており、本税とともに、不服申立てができます。
 申告したときの本税は争えませんが、後日、税務署長から賦課決定処分のある加算税は、不服申立てをすることができます。
 延滞税については、申告又は処分と同時に納税義務が確定する国税ですので、いずれの場合であっても、不服申立てをすることはできません。

2 除斥期間について
 国税の課税権及び徴収権には時効があります。そして、申告と処分について、「除斥期間」という時効のような「期間制限」の制度があります。
 事例2のように、7年間分が調査対象年分であるならば、国税通則法70条5項が適用された、すなわち、「偽りその他不正の行為」があった訳ですから、同法68条2項の無申告に係る重加算税(本税額に対する40%)が加算されることになります。

【 国 税 通 則 法 】
(国税の更正、決定等の期間制限)
第70条
 次の各号に掲げる更正決定等は、当該各号に定める期限又は日から五年(第二号に規定する課税標準申告書の提出を要する国税で当該申告書の提出があつたものに係る賦課決定(納付すべき税額を減少させるものを除く。)については、三年)を経過した日以後においては、することができない。
(中 略)
 次の各号に掲げる更正決定等は、第一項又は前二項の規定にかかわらず、第一項各号に掲げる更正決定等の区分に応じ、同項各号に定める期限又は日から七年を経過する日まで、することができる。
  偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税(当該国税に係る加算税及び過怠税を含む。)についての更正決定等
  偽りその他不正の行為により当該課税期間において生じた純損失等の金額が過大にあるものとする納税申告書を提出していた場合における当該申告書に記載された当該純損失等の金額(当該金額に関し更正があつた場合には、当該更正後の金額)についての更正(第二項又は第三項の規定の適用を受ける法人税に係る純損失等の金額に係るものを除く。)
(後 略)

3 除算期間について
 延滞税は、対応する本税の法定納期限の翌日から本税納付の日まで、一定の割合(利率)を乗じて計算します。何年も遡って延滞税計算をされてしまうと、通則法に定められた14.3%(現行、特例法により8%台)を適用すると多額の延滞税支払義務が生じるため、悪質性がないとき、すなわち、重加算税の対象とならない本税については、国税通則法61条(延滞税の額の計算の基礎となる期間の特例)により除算期間が設けられており、簡単に言えば、1年分は支払ってください。というものです。
 しかしながら、この除算期間の規定について、当初期限内申告をしていない者(無申告者を含みます。)には、適用がありません。すなわち、悪質性は問いません。
 そうすると、事例2のような場合、複数年分の申告した本税額の全額を対象として、法定納期限(本来の期限)から本税完納の日まで、延滞税を通算した金額を支払わなければなりません。複利計算ではないにしろ、7年前の申告年分の本税を100万円とすると、概算延滞税計算式は、100万円×7年×8.9%=62万3千円となります。6年前だと53万4千円です。これら延滞税全てを加算しなければなりません。完納になるまで、日々加算されますので、すごい金額になります。

《 お得情報 》
 還付申告を期限内にする理由がここにあります。還付申告であれば、期限後でも構わないのですが、仮に、期限後にした還付申告に誤りがあり、数年後、修正申告を行うこととなった場合、納税すべき本税額に対する延滞税計算の考え方は、当初期限後なので、除算期間特例は適用されず、本来の納期限から通算した延滞税額を合わせて納付しなければなりません。
 たとえ、還付申告であっても、期限内にしておくのが得策です。

《 適正な申告と納税を! 》
 自民党の裏金問題を機に、X(Twitter)上での「確定申告しない運動」なる変な煽りに乗っかってはいけません。自分が損をするだけです。
 税務職員は、法律に基づき、課税・徴収を行っています。私が経験したのは、議員さんの威光を借りる場面とか、顧問税理士を通じて訴訟を起こすとか、弁護士を帯同するとの恫喝のようなものとか、税務署内で怒鳴り散らす納税者など、いろいろありましたが、何の役にも立ちません。そんな方々こそ、裁量の範囲内で、逆に痛い目にあいますヨ。
 皆さんの意見や思いは、政府そのものに向け、立法府の国会議員を選出して、法律を変えてください。
 適正な申告と納税は、国民の義務です。


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