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田舎の家探し 完結編

ついに完結です。長かったあああああーーー。

2022年の始まりとともに本格的にスタートした、時生屋の家探し。
当初は四万十川周辺にエリアを絞って探していました。

四万十川下流の町で生まれ四万十川で遊び育った私と、四万十川の雄大さに一目惚れして移住を決めた夫。
そんな2人が暮らす終の棲家は、当然四万十川のほとりだろうと。

けれど探しても探しても、なかなかピンと来る物件には巡り会えません。
だんだんと四万十川周辺で探していること自体に疑問を感じるようになり、四万十川という拘りを捨てて、エリアを広げる決断をします。

その頃書いたのがこの記事でした。

当時はさらっと書いていますが、ずっと拘ってきた大好きな四万十川を諦めるのは、そう簡単なことではありませんでした。
四万十川周辺をいくら探しても見つからない気がするのに、諦めきれず四万十川周辺を闇雲に探す日々。

モヤモヤと先の見えない深い霧の中を進んでいるような、気持ちの晴れない時間が続きました。

霧の先に見えた一筋の光

そんなある日、ふとパソコンの検索に引っかかった不動産屋の物件記事。
高知県佐川町にある古民家物件の記事でした。
そこに掲載されていた写真がなんだかとても良い雰囲気で、すぐに佐川町の場所を調べてみました。
実家のある四万十市からは、車で片道2時間ほどかかる距離。

「片道2時間かあー、ムリだな…。」

そもそも時生屋の家探しは、実家と自宅が片道1時間離れていることへの不便から考え始めたことでした。
日本みつばちの養蜂だけでなく、父から受け継いだみかん畑の管理のことを考えると、片道2時間は現実的ではありません。

がっかりはしたものの、その物件の不動産屋が古民家専門だとわかり、すぐに四万十川周辺の物件はないか問い合せてみました。
残念ながら四万十での物件はないようでしたが、私達の求める理想の物件イメージをすんなり理解して下さり、家探しに協力してくれるとのお返事を頂きました。

深い霧の先にほんのすこーーしだけ、うすぼんやりと光が灯ったような気がして、久しぶりに気持ちが軽くなったのを憶えています。

初めての佐川町

仕事から帰ってきた夫に、古民家専門の不動産屋を見つけたことを報告すると、サイトをまじまじと閲覧しながら「この佐川町の物件はまだあるの?」と。
夫も同じく写真の雰囲気から何かを感じ、とても気になった様子。

佐川町の物件はもう既に成約済みになっていましたが、私達が気になったのは物件そのものよりも、家の周りを取り巻く自然や町の雰囲気。
父から受け継いだみかん畑の管理についても、丁度そのタイミングで最良な解決策が見つかり、まずは一度も訪れたことのない佐川町へ行ってみよう、ということになりました。

そして初めて訪れた佐川町。
そこは、私達夫婦の好きなものが驚くほどたくさん詰まった町でした。

城下町として栄えた佐川町の中心部。

緑豊かな盆地に、江戸時代から残る古い町並みや酒蔵。
田中光顕や牧野富太郎など多くの文教人を生んだ風土。
幕末志士の直筆書状など貴重な史料を多数収蔵している青山文庫や、日本地質学発祥の地と呼ばれるほど豊富な地質。
そして何より、町のあちこちに植えられている多種多様な草花

江戸中期より佐川で酒造業を営んだ旧浜口家住宅。
青山文庫や牧野公園へ続く小路。風情たっぷり。
土佐三大名園の一つで県指定文化財、青源寺。
伝統の酒造り、全長85mもある白壁の酒蔵は圧巻。
酒蔵ロード、国指定重要文化財の竹村家住宅などが並ぶ。
地質館、佐川町は知る人ぞ知る地質のメッカ。
町のあちこちで見かける様々な植物の花壇。


草花でつながり合う町づくり

植物学者・牧野富太郎博士の出身地である佐川町は、植物に携わる活動が盛んで、個人のお庭や地域の花壇、貴重な山野草の自生地など町全体を植物園に見立て、植物を通じて人々がつながりあう植物のまちを目指した「まちまるごと植物園」という取り組みを行っていました。

まちまるごと植物園の看板。

火山の噴火による影響がなく、古い植物が生き残っている地域であるため、町内には貴重な山野草が多く、地域の人々によって大切に守り育てられています。
永続的な山づくりを目指す環境保全型の「自伐型林業」にも早くから積極的に取り組んでいました。

700種類の山野草が四季を通して楽しめる牧野公園。
人工的な花壇ではない、自然で多種多様な山野草の姿。
蝶々や昆虫たちも嬉しそう。


時生屋として、ずっとずっと心に重くのしかかっていた事があります。
日本みつばちの保護について。

日本みつばちは今、絶滅の危機にあります。
原因は、戦後の食糧増産のための農地拡大や、植林などのために雑木が伐られたことによる蜜源の喪失、気候変動による蜜源の喪失、農薬による死滅、国外由来の伝染病など、多岐にわたります。

農薬による死滅や伝染病などは個人の努力でなんとか出来そうですが、蜜源の喪失については個人ではどうにもならないレベルまできていて、一体何をどうしていいのかずっと答えが見つからないままでした。

雑木林を増やすといっても、鹿の食害によって植えても植えても育たないのが現状です。
雑木林を育てるためには鹿が入れないように対策するしかありませんが、山全体に柵をするにはどれだけの費用がかかるでしょう。

時生屋の拠点を探すに当たり、「日本みつばちの蜜源の確保」は最重要課題でした。
ただ花がたくさん咲いているというだけでは、日本みつばちの蜜源の確保は適いません。
単一の花の蜜を集めるのが得意な西洋みつばちとは違い、四季折々の多種多様な花がなければ生き延びられない日本みつばち。

佐川町の「豊富な地質」と「まちまるごと植物園」の取り組みを知った時、ここなら日本みつばちが生き延びられる環境があるのかもしれないと、そう直感しました。

みつばちがいなくなると困るのは、植物です。
植物がいなくなると困るのは、人間です。
そのことを心底理解していたのが、植物学者・牧野富太郎博士でした。
牧野博士のふるさとである佐川町を、時生屋の拠点にしよう。

自ら「草木の精」と名乗るほど植物を愛した牧野博士。


数日後には、役場の移住相談窓口に座っていました。
そこからはひたすら佐川町での家探し。
何度も何度も、片道2時間かけて通いました。

空き家探しの大きな壁

初めて佐川町を訪れてから半年後、役場の担当さんや地元の方々、移住者の友人にたくさんお世話になりながら、ようやく1軒の古民家と巡り会うことができました。

「いずれは売りたいけれど、今はとりあえず賃貸で移住者に貸したい」とおっしゃる家主さん。
なかなか理想的な売家が見つからないこともあって、とりあえず賃貸で越してきてからじっくり探そうと、賃貸物件を探していた矢先でした。
お風呂とトイレはそのままでは使えない状態になっていたので、補助金制度を利用してお借りすることになりました。

佐川町は移住者に空き家を提供する場合、リフォーム費用を1戸270万円まで補助してくれる「移住者住宅改修費等補助金」制度があります。
ですがこの制度、移住者としては大変助かる制度ですが、高齢の確立が高い空き家所有者さんにとっては、申請手続きなどがとても複雑で解りづらく、空き家問題のとても大きな壁になっていることを痛感しました。

補助金制度の細かい条件などは自治体によって異なりますが、佐川町の場合でいうと、「移住者住宅改修費等補助金」は移住者か空き家所有者のどちらでも申請が可能です。
ですが、補助金の交付を受けるには「改修後の上部構造評点が1.0以上であること」が条件になっています。

ほとんどの空き家はこの「構造評点が1.0以下」であるため、「移住者住宅改修費等補助金」と同時に「耐震改修費補助金」も申請する流れになります。
佐川町の耐震改修費補助金は、1戸130万円まで。
移住者住宅改修費等補助金と合わせると、合計で400万円の補助金を交付してもらることになります。
めちゃくちゃ有難い制度ですが、「耐震改修費補助金」は空き家所有者しか申請ができません。

「移住者住宅改修費等補助金」の申請は移住者が、「耐震改修費補助金」の申請は所有者が、でも問題はないそうですが、申請者がバラバラになると手続きが複雑化してしまい、時間がよりかかるのだそうです。

そして役場では、不動産の売却や賃貸契約・改修の提案・管理など実務面を行うことはできません。
となると、高齢の空き家所有者さんが補助金の申請に伴う改修の計画・管理を移住者と直接コンタクトを取りながら話し合い「賃貸借契約書」などの書類も揃えなくてはいけません。
これは高齢でなくても、かなり大きな負担です。

私達がお借りすることになっていた古民家は、この大きな壁に阻まれ、白紙になってしまいました。
無理もありません。
この手続きそのものが困難で、本当は空き家を誰かに貸したいけれど諦めてしまっている方も多いのではないかと思います。

やっっと決まったと思っていた家探し。
引越し予定時期を目処に独立の準備を進めていたので、4年間お世話になった職場を退職した直後の白紙。
途方に暮れました。

あれこれ手を考えて試みるも、全て撃沈。
まさに八方塞がり。
笑ってしまうほど全てがうまくいかない。

捨てる神あれば拾う神あり

白紙になって1週間が過ぎた頃、佐川町役場の担当さんから1本の電話が。
「空き家バンクで交渉中だった物件が流れてしまって。
その物件、広い畑と倉庫もあって、条件ピッタリだと思うんです」

すぐに見に行きました。
そこは佐川町でも一番水のキレイな地域で、初夏には蛍も飛び交うのどかな集落。

築140年の古民家でした。
家の目の前には、四季折々に見頃が愉しめる樹木と広い畑。

陽当たり最高の畑。

江戸時代から続く農家だったそうです。
納屋も車庫も、土間キッチンもあります。
古いけれど、ポテンシャルの高さを感じました。
そして、畑の向こうに流れる清らかな川。

仁淀川支流の尾川川、底丸見えの透明度!

一度は諦めた川沿いで暮らす夢が戻ってきたようで心躍りました。
ここでならきっと、みつばちも鶏も山羊もみんな飼える。
今までにないほど、自分達の希望にピタリとハマる理想的な物件でした。

その日のうちに家主さんと連絡が取れ、そこからはトントン拍子。
今まであんなにうまくいかなかったのが噓のように、スルスルと事が進みました。
今回の家主さんも高齢の上、関東在住。
最大の難関である補助金申請の大きな壁は、賃貸から売買に切り替える事で乗り切りました。

自分達が所有者になれば、面倒な申請作業は全て自分達で負担できます。
いきなり知らない地域に家や土地を買うのは勇気がいりますが、1年以上かけて何度も何度も通った佐川町。
もう迷いはありませんでした。

農地を含む売買になるので、農業委員会にも許可申請。
すんなり許可していただき、家探しを始めて1年10ヶ月後、やっとの思いで時生屋の拠点を手に入れました。

空き家率全国ワースト1位の高知県

高知県にはたくさん空き家があります。
空き家率は12.8%(平成30年総務省調査「住宅・土地統計調査」)で、全国トップです。

けれど、そのほとんどが荷物を置いたまま放置されていて、借家や売家はとても少ないのが現状です。
高知県への移住希望者で、空き家を探したものの見つからずに諦めたケースはなんと毎年200件以上。

高知県ではこの問題を解決すべく、空き家に関するさまざまなお悩みについて、無料で相談できる窓口が開設されました。

  • 空き家を売ったり貸したりしたいけど、どうしたらいいかわからない

  • 相続や登記の手続きがわからない

  • 空き家を持っているけど、そもそもどうしたらいいかわからない

高知で空き家をお持ちの所有者さん、まずは気軽に相談してみてください。
高知で空き家を探している人はたくさんいます。


借りたい人が発信する新しい不動産

空き家ポータルサイトは、空き家を持っている人のための窓口であって、空き家を探している人が相談できる窓口ではありません。

高知県空き家ポータルサイトを通じて活用される空き家は、各市町村の空き家バンクなどに登録され、高知県移住ポータルサイトにて閲覧や検索ができるようになっています。
ですが、地域によってはとても物件数が少なく、なければじっと待つしかない。

地域の不動産屋へ出向いても、仲介手数料で利益を得ている不動産屋にとって取引価格が低い空き家物件はビジネスにならず、取り扱っていないことがほとんど。

空き家を探している側は、なんだかとても受け身な道しかないことがずっとストレスに感じていました。
もっと借りたい人と貸したい人が直に繋がれるようなサービスはないものかと、色々調べているうちに見つけたのが「さかさま不動産」というサイト。

従来の不動産システムは、貸したい人が情報を発信して、借りたい人が問い合わせをする流れでした。
さかさま不動産は、まさにそれを「さかさま」にした目からウロコの新しい不動産システム。

空き家を借りたい人が、どんな空き家を探しているかやその空き家を活用して何をやりたいのか、やりたい想いを発信します。
その想いに賛同してくれる貸したい人が問い合わせをする。

なんて面白い逆転の発想!

仲介手数料はないので契約は各自で行う必要がありますが、これなら借りたい人が受け身ではない形での空き家探しが可能です。

高知ではまだ支局がなかったので利用はできませんでしたが、やりたい事はあるけれどどこでやるかはまだ決めてないって人なんかには、とても利用価値のある不動産サービスだと思います。

全国的な社会問題となっている空き家。
時生屋の家探しはこれで完結しましたが、1軒でも多くの空き家が次の世代に大切に住み継がれていくことを切に願います。


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