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欲求をスライドできるか!? 心のバランスを崩さないコツ

先日、グループホームで生活する男性(A君とします)の面会に行ってきました。コロナによる面会制限もあり、会うのは10ヶ月ぶりでした。

A君は数年前まで、「15年にも及ぶ長期ひきこもり生活」を送っていました。「コンビニには行ける」ひきこもりではなく、一歩も家から出ていない“ガチ”のひきこもりです。

弊社が介入して医療につなぎ、その後も紆余曲折ありましたが、今ではすっかり元気になりました。グループホームに居住し、就労継続支援A型を利用して働いています。

そんなA君も、やはりコロナ禍により心身の調子を崩したそうで、一週間ほど仕事も休んだそうです。持病の精神疾患の服薬も、主治医に相談して少し増やしてもらったとのこと。「このまま職場に戻れなくなるかも……」と思ったそうですが、職場の方が連絡をくれて「今はみんなそうだよ」「気にしないで戻っておいで」と言ってもらえたことで、気持ちが楽になり、短期間で職場復帰することができた、と話していました。

実はA君は一年ほど前から「そろそろ一人暮らしがしたい」「今、働いている職場で、正社員になりたい」と話していました。たしかに働きぶりについては、職場から高い評価をいただいていることを、わたしたちも聞いていました。

しかし「一人暮らし」となると、家賃負担など生活のコストはあがり、車の免許も必要になってきます。ことにA君は、「長期ひきこもり」経験者には珍しく、人との他愛ないおしゃべりが好きで、かかわりが苦にならないタイプです。持病のことを考えても、完全な独居より現在のシェアハウスのような暮らしが向いているのではないか、とわたしたちは考えており、本人にもそのように伝えていました。

しかし本人の決意は頑なで、「今の職場が正社員にしてくれないなら、別の仕事を探そうと思う」とまで話していました。A君には理想とする一人暮らしのスタイルがあり、どうしてもそれを成し遂げたいようでした。弊社としては、金銭的な負担や、独居でも症状の安定を維持できるのかなど、現実的な話をして、それでも本人が「やる」と言うなら、見守るしかないのかな……と思っていました。

ところが先日の面会では、コロナ禍もあったためか「しばらくは今の生活でいいかな~と思っています」「また時期が来たら考えます」と自ら話していました。

A君の中で、「一人暮らし」の夢を諦めたわけではないと思います。でも今は、世の中のタイミングも、自分の状態もよくない。だからいったん棚上げする。これを自ら判断・決断できたことに、A君がここまで回復できた理由があると思いました。

「叶えたい欲求を先にずらす」「欲求をスライドする」

これは、簡単そうで難しいことです。欲求をコントロールすることは我慢を強いられることでもありますから、弊社の携わっている患者さんたちは、とても苦手です。いったん、「あれがやりたい」「これがほしい」となると、誰が何を言っても、聞き入れられなくなってしまうのです。時期的に無理なことや、そもそもそれが叶うだけの能力や金銭的余裕もない、という健全な判断力さえ欠如してしまうこともあります。

無理に遂行すれば他人に迷惑をかけ、大切な人が離れてしまう事態になることが目に見えていても、本人は「こうしたい」という欲求を抑えることができません。

強行すれば結局は本人が痛い目にあうことになるのですが、そうなると本人はますます気持ちが歪み、果ては、「(他人が)わざとできないようにした」「意地悪されている」などと被害妄想を抱くことさえあります。

だからといって、いろんなことを諦めるだけの人生というのも面白みがありません。A君のように、「今は難しいから、いったん横におく」と、欲求をスライドする。それを自分でコントロールできるようになると、心のバランスを崩すことはありませんし、崩れることがあっても短期間で持ち直せるものです

欲求には際限がありません。気持ちに折り合いをつけるためには、周囲にどんな人がいるかも重要になってきます。A君の事例は、本人の努力はもちろん、支援者や職場の方々など、人間関係としても恵まれた状況にあると言えます。そのことをとても喜ばしく思った面会でした。

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