マガジンのカバー画像

トキワレポート(コラム)

46
メンタルヘルスにまつわるあれこれや、家族・子育て、コミュニケーションについて、弊社の経験をもとにつづるコラムです。有料noteでは、より踏み込んだノウハウについてお伝えします。
運営しているクリエイター

#子供の問題

♯036 10~20年間ひきこもっていた人と、どう人間関係を育むか

『「子供を殺してください」という親たち』(新潮文庫、コミックス)のタイトルが象徴するように、弊社には、子供の精神疾患から派生する問題に疲弊し「もう限界」という相談が数多くあります。 そのような境地に至る家庭の多くは、問題を「家族」だけで受け止めています。言葉を変えると、対象者(本人)が「家族」としか接点をもっていない、とも言えます。たとえば長期ひきこもりは、その最たる例です。 中には、子供が10~20年単位で一切外出せず、家の中だけで過ごしていた、という相談もありました。

有料
980

「束縛コミュニケーション」の背景にあるもの

前回のnoteでは「子供自身に考えさせるコミュニケーション」について述べました。続いて、親子間のコミュニケーションがないがしろにされたまま大人になった場合に起こりうる事例について、述べてみたいと思います。 弊社で携わる患者さんたちは、その時点で、家族以外との接点がない状況がほとんどです。そして家族とも、暴力や暴言、束縛、依存による関係になっているため、とても健全とはいえません。 家族が暴力を振るわれて身の危険を感じていたり、金銭の無心など経済的負担が限界という、のっぴきな

子供に考えさせるコミュニケーションを

弊社が携わる対象者の方々の特徴として、「人付き合いは苦手、他人とは接せずに自分の好きなように生きていきたい。…でも自分の話は聞いてほしい」という傾向があります。 実際に、第三者に敵意をむき出しにしながらも、面会に行くと「もっと話したい」と言ったり、長い手紙を書いてきたりします。それでいて、彼らの共通点として挙げられることに、「自分の“気持ち”を言葉にするのが苦手」ということが挙げられます。 この“気持ち”とは、感情(喜怒哀楽)のことではありません。その瞬間の喜怒哀楽を言葉

♯035 子供を追い込む親たち

「子供を追い込む親たち」というタイトルで一冊、本がつくれてしまうのではないかと思うほど、子供に関する相談において、「親が子供を追い込んでいるなあ」と感じられるエピソードは多いです。 しかし、お話をうかがっていくと、親自身もまた追い込まれている、という事実が見えてきます。本noteではそのことについて、弊社の経験も含めて考えてみたいと思います。 子供を追い込む親たち「子供を追い込む」といってもいろいろあり、典型的なのが「うちは代々○○(医師など)の家系だから、この子にもそう

有料
330

♯030 入院治療中に「欲求の肥大化」を修正する

弊社では、説得移送による精神科病院への入院後、家族に代わって患者さんと人間関係をむすび、長期的なサポートを行っています。(※対象となるのは、重篤な精神疾患がありながら病識がなく、家族との関係も悪化するなど、いつ親族間事件が起きてもおかしくない方です)。 入院当初は精神的にも興奮しており、易怒性や粗暴性などが際立っていますが、投薬治療がはじまり、家族とも物理的に距離をもつことで、徐々に落ち着いてきます。ここまでは治療の範疇です。 急性期の症状が落ち着いたあと、社会復帰を目指

有料
220

♯029 家族こそ、精神科病院を上手に利用できるようになる必要がある

弊社に寄せられる最近の家族の問題は、ほとんどが複合的です。多くは精神疾患に起因していますが、それだけでなく、パーソナリティの問題や親子関係、生育歴、それまでに出会った人との関係など、さまざまな事柄が絡み合っています。 精神科に通っているのに「よくならない」 すでに精神科を利用しているケースも増えていますが、肝心の本人が受療中断してしまったり、不定期にしか通院しなかったりすると、家族も含め健全な生活ができず家庭内がすさんでいきます。 親は「病院(クリニック)がちゃんと治療し

有料
220

♯027 子供の問題に、「祖父母」を巻き込む際の注意点

6月2日、東京都江東区で29歳の孫が祖父の首を刺すという殺人未遂事件がありました。 70代男性刺される 孫か「人を殺した」 東京・江東 2日午後7時35分ごろ、東京都江東区北砂の民家で、「家の前に『人を殺した』と話している血だらけの男がいる」と住人から110番通報があった。警察官が駆けつけたところ、家の前に右手から血を流した20代の男が立っており、警察官と救急隊を200メートルほど離れた共同住宅2階の一室に案内。室内からは、首や背中などを刃物で刺された70代男性が見つかった

有料
220

♯026 きょうだいの問題を放置した結果、起こること

きょうだいの問題を放置した結果、本人も親も高齢化してしまい、切羽つまった他の子供たちからの相談が増えています。 このnoteでは、以下に当てはまる方に向けて、この先、現実的に起こりうることを述べてみたいと思います。 ・きょうだいに精神疾患の疑い(「長期ひきこもり」含む)があるが、精神科未受診である。 ・きょうだいが精神疾患だが(受診歴あり)、長く受療中断している。 つまり、本人(きょうだい)は、本来であれば、適切な治療や支援が必要でありながら、なんら対応がとれていないケ

有料
220

親の責任とは

親の責任とは何か。考えさせられる機会が多くあります。 子供が心の病気になったり、人間関係でつまずいて就労(就学)が難しくなったりすると、「かわいそう」という感情を前面に出して、子供に対応してしまう親がいます。子供はすでに成人しているのに、「不憫だ」という気持ちが先走ってしまい、「〇〇のことは、お父さんとお母さんが一生、面倒をみてあげる」などと言い聞かせて過ごしているのです。 本人との関係が良好で、親も元気で安定した収入が得られている間はそれでよいかもしれませんが、弊社の見

親と子供の共通項

精神疾患の有無にかかわらず、子供がなんらかの問題を抱えるときには、家族関係もこじれている場合が多いように思います。このとき親が陥ってしまいがちなのは、親自身の人生の歩みや人間性と、いま起きている子供の問題を別々に捉えてしまうことです。 もちろん親も過去を振り返り、「自分の子育てが間違っていたのかも」「もっとこうしておけば良かった」という思いは持っています。しかし親へのヒアリング(聞き取り)を行っていくと、子供の抱える問題が根深いほど、それを評する親の口調は厳しく、ときに他人

♯021 家族(子供やきょうだい)が違法薬物に手を出しているかもしれない!?

「家族(子供やきょうだい)が、違法薬物に手を出しているかもしれない。どうしたらいいか」という相談を受けることがあります。警察に捕まるなどして、所持や使用が明らかにされている場合を除き、家族は「半信半疑」の心境で相談に来られることが多いです。 薬物乱用の幻覚妄想と、統合失調症の症状は似ている違法薬物の乱用によって、幻覚や妄想が引き起こされることがありますが、これらは「統合失調症」の症状によく似ています。家族はもちろんのこと、本人に関する情報がないと、精神科医であっても誤診

有料
220

精神疾患と家族(きょうだいの関係)

押川の著書「子供の死を祈る親たち」でも引用していますが、社会福祉法人横浜博萌会 子どもの虹情報研修センターによる「「親子心中」に関する研究(2)」では、後半の講義録に、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の松本俊彦医師が登場し、自殺対策について述べています。その中に、以下のような記述があります。  三十代くらいの比較的若年者の自殺を見ると、「親が精神障害」「兄弟が精神障害」という人が目立ちました。実際に私が面接を担当した事例では、兄弟が精神障害で、親の関心がそっちば

家族の問題の本質はどこにあるのか

精神疾患をもつ子供の言動に振り回されている家族が相談に来られた際、「あの子さえいなければ……」とおっしゃることがあります。その後につづくのは、たとえば、「他の家族は皆ふつうなんだから、(あの子さえいなければ)一家で仲良くやっていけるのに」とか「もっと仕事に注力できるのに」「夫婦仲がこんなに悪くなることもなかったのに」……などといった言葉です。 本人の言動が家族を困らせるものであることは事実ですが、「あの子さえいなければ」の結果にまで目を向けてみると、「家族の問題」の原因は、

「病気」を除いたところで子供のことを見なおしてみる

精神疾患は、病識(自分が病気であるという認識)をもちにくい病気と言われています。とくに重篤なケースにおいては、「病態失認(anosognosia)」と呼ばれる症状があり、これはアルツハイマーや脳卒中でも見られるように、脳の特定箇所が解剖学的ダメージを受けたときに起こることだと指摘する神経学者もいます。 幻覚や妄想の付随する精神疾患(統合失調症など)をもつ方は、この傾向が強いのではないかと思います。また、アルコール依存や薬物依存のように、依存症であることを認めたがらないことも