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トキワレポート(コラム)

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メンタルヘルスにまつわるあれこれや、家族・子育て、コミュニケーションについて、弊社の経験をもとにつづるコラムです。有料noteでは、より踏み込んだノウハウについてお伝えします。
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記事一覧

母と息子の"恋人のような"関係

先日、グループホームに入所しているB君の面会に行きました。B君には学習障害があり、いわゆる一般的な人とは、会話も生活もペースが異なります。最近、親元を離れて、自立訓練のためにグループホームでの生活が始まりました。 30分ほどおしゃべりして最近の様子などを伺い、帰り際に「何か必要なものはありますか?」とお尋ねしました。11月も末になりだいぶ肌寒くなってきたので、冬服など足りないものがないか、確認したのです。 ところがB君から返ってきた“必要なもの”の返答は、まさかの「お見合

家庭における危機管理

子供自身が判断できるように近年、セクハラだけでなくパワハラやアカハラなど、「〇〇ハラスメント」という言葉をよく耳にするようになりました。強い言葉は即座に問題視され、糾弾の対象となることがありますが、その結果、安全で快適な世の中に進化しているかと言えば、そうでもないように思います。 インターネットを開けば、有益な情報が得られる一方で、悪意に満ちた言葉が目に入らない日はありません。道ですれ違っただけの人から理不尽な怒りをぶつけられたり、知り合いであっても、小さなトラブルから恐怖

♯039 子供の言う「不安」と「不満」を混同しない

弊社が関わっている患者さんで、「不安」が口癖の方がいます。 この方(Xさんとします)は、病院や施設内での些細なトラブルや、担当の職員が変わるなど環境の変化が起こると、すぐに「不安だ」と口にして、誰かに話を聞いてもらわないと気がすみません。もちろん、話をしたい気持ちは否定しませんし、思っていることを吐き出す行為は大切です。しかしXさんの場合、同じ話を何人もの人に話してまわり、なおかつ自分の納得できる答えをもらうまで話を切り上げない、という特徴があり、職員の方々を疲弊させてしま

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子供との関係が悪いかも!? 今すぐできること

このnoteや連載中の漫画(「子供を殺してください」という親たち)宛てに、「いつも参考にしてます」「楽しみに読んでいます」とメッセージをいただくことがあります。 そのメッセージに、ついでのように「最近、子供とのコミュニケーションがうまくとれなくて……」という言葉が添えられていることがあります。とはいえ質問や相談ではなく、「気をつけます」と結ばれています。 おそらく、まだ専門家に相談するほどでもないけれども、子育てにおいて少々、不安なことがあり「このままいくとあぶないかも…

♯036 10~20年間ひきこもっていた人と、どう人間関係を育むか

『「子供を殺してください」という親たち』(新潮文庫、コミックス)のタイトルが象徴するように、弊社には、子供の精神疾患から派生する問題に疲弊し「もう限界」という相談が数多くあります。 そのような境地に至る家庭の多くは、問題を「家族」だけで受け止めています。言葉を変えると、対象者(本人)が「家族」としか接点をもっていない、とも言えます。たとえば長期ひきこもりは、その最たる例です。 中には、子供が10~20年単位で一切外出せず、家の中だけで過ごしていた、という相談もありました。

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「束縛コミュニケーション」の背景にあるもの

前回のnoteでは「子供自身に考えさせるコミュニケーション」について述べました。続いて、親子間のコミュニケーションがないがしろにされたまま大人になった場合に起こりうる事例について、述べてみたいと思います。 弊社で携わる患者さんたちは、その時点で、家族以外との接点がない状況がほとんどです。そして家族とも、暴力や暴言、束縛、依存による関係になっているため、とても健全とはいえません。 家族が暴力を振るわれて身の危険を感じていたり、金銭の無心など経済的負担が限界という、のっぴきな

子供に考えさせるコミュニケーションを

弊社が携わる対象者の方々の特徴として、「人付き合いは苦手、他人とは接せずに自分の好きなように生きていきたい。…でも自分の話は聞いてほしい」という傾向があります。 実際に、第三者に敵意をむき出しにしながらも、面会に行くと「もっと話したい」と言ったり、長い手紙を書いてきたりします。それでいて、彼らの共通点として挙げられることに、「自分の“気持ち”を言葉にするのが苦手」ということが挙げられます。 この“気持ち”とは、感情(喜怒哀楽)のことではありません。その瞬間の喜怒哀楽を言葉

♯035 子供を追い込む親たち

「子供を追い込む親たち」というタイトルで一冊、本がつくれてしまうのではないかと思うほど、子供に関する相談において、「親が子供を追い込んでいるなあ」と感じられるエピソードは多いです。 しかし、お話をうかがっていくと、親自身もまた追い込まれている、という事実が見えてきます。本noteではそのことについて、弊社の経験も含めて考えてみたいと思います。 子供を追い込む親たち「子供を追い込む」といってもいろいろあり、典型的なのが「うちは代々○○(医師など)の家系だから、この子にもそう

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「ハマりやすい」タイプの子供は、ここに注意!

先日、薬物依存症から回復したK子さんから定期報告がありました。弊社は長く彼女の回復と自立をサポートしてきましたが、すでに違法薬物を断って10年以上が経ちます。現在は某外食産業で管理職に就いており、その目覚ましい活躍ぶりに、かつての面影は一切ありません。 彼女は夏冬の節目ごとに、近況を報告してくれます。今の仕事は、アルバイトも含め十数回もの転職の上にたどり着きましたが、半期ごとに示される本社からの評価は高く、コロナ禍でさすがに売り上げは落ちたものの、それでも高い利益率を出して

♯034 「子供のため」という言葉に甘えてはいけない!

弊社では子供の問題行動に悩む親御さんからの相談を受けていますが、よく耳にする言葉に「子供のため」があります。とくにこちらが「(子供への)その接し方はどうなのか」「その対応は誤りだったのではないか」と指摘した際に、必ず返ってくるワードでもあります。 子供への愛情を否定するわけではありませんが、深堀りしていくと、その考え方(思い込み)こそが、子供の問題行動を肥大化させる原因であったりします。 とくに、子供の問題に悩み第三者のサポートを得ようとした際、この「子供のため」思考があ

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家族(親)との距離感

コロナ禍により、「ソーシャルディスタンス」という言葉がすっかり生活の一部となりました。「3密を避ける」「人と接するときは距離を十分にとる」……、コンビニでの買い物一つとっても、人との距離感に注意を払うようになっています。 ところが自粛期間中、家庭内では、真逆の事態が起きることになりました。リモートワークやオンライン授業により、家族が揃って家にいる時間が増えたのです。今までにないほどの「家族密」です。 「家族との時間を思う存分にとれた」と喜ぶ方がいる一方で、想像以上にストレ

♯031 精神科「早期退院」が前提の今、入院継続の交渉のために何ができるか

精神科医療の仕組みが急速に変わる中で、「やっとの思いで本人を精神科医療につないだ(入院できた)のに、短期間で退院となってしまった……」というご家族からの相談が続いています。 家族は、「本人が退院を強く希望したから」「主治医から退院を促されたから」などとおっしゃいます。入院形態が「任意入院」(退院も本人の意思でできる)の場合は別として、「医療保護入院」や「措置入院」で、家族からみて退院は早いと感じるのであれば、入院継続に向けて交渉の余地があるはずです。しかしその交渉は放棄し、

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♯033 精神科医療・精神保健福祉分野の現状(ver.2020/02)

精神保健福祉分野においては、地域移行・地域共生のスローガンのもと、この数年の間に大きく状況が変化しました。繰り返しお伝えしているように、本人に病識があり、治療を受ける意思がある(つまり、初期の段階の症状の軽い)患者さんにとっては、すばらしい環境が整いつつあります。医療機関は早期退院を推進するため、患者さんが福祉制度を受けられるよう助力してくれますし、自前の(あるいは連携している)グループホームや作業所をもつ病院も増えています。ただしこれらのサポートを受けるためには、「本人が望

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介護と障害のダブルケア

「実家に精神疾患(あるいはその疑い)のある当事者と高齢の親が同居しており、相談者であるきょうだいは自立している」という家族構成からの相談は年々、増加しており、今後も増えていくことが予測されます。 とくに、相談者(きょうだい)がさまざまな問題に直面するのが、親に介護が必要になったときです。 当事者が医療や福祉の支援につながっており、大きな問題なく日常生活が送れていたとしても、同居する親に介護が必要になれば、生活のバランスは崩れることになります。これまで当事者の生活を親が支え