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奇怪一家

バーントアンバー色の空。劫初の刻からの澱んだ大気が宙を満たす。立ち込める霞の遥か向こう、地平の果てより天を衝いて屹立するは、頭に巨大な篭を載せた裸の女性の姿。乳房は硬く萎み、茶褐色の肌は樹皮の如く節くれ立ち、踏みしめた両足は大地に深く根を張り、左右に広げた手指の先からは幾千本もの枯れ枝が伸びている。頭上の篭に積まれているのは夥しい数のキャベツ。上へ行くほどその量は級数的に増加する。そのシルエットは、さながら逆ピラミッド。重みに耐えるかのように潰れ果てた憤怒の如き渋面には、深い皺が刻まれていた。

私は知っている。あのキャベツの一つ一つが私達の暮らす宇宙一個分であり、彼女こそがこの無窮の暗澹にありて永劫に世界を支える女神なのだと。

彼女の名はスージー。私の叔母だ。

ウォォォォォォォォォォン……

数億年間発せられたことのなかった、艱苦と哀悼の入り混じった唸り声が大気を響もす。

——そして次の瞬間、キャベツの一つが爆発した。

眼を焼く白光。私は消し飛んだ。

ドォン……! ドォン……! ドォン……!

音と震動が身体を伝う。

自室のベッドに寝ていたことに気づくまでに時間を要した。なにか異様で壮大な夢を見ていた気がするが、覚えていない。

断続的に轟く爆音は、最果ての海の方角からだ。それにしても、最近多い。

ここは世界の北限。これより先に世界は無い。しかしながら、その向こう側から我々の世界は攻撃を受けており、砲弾がときおり飛んでくる。海に建つ《灯台》が砲撃を悉く防衛しているが、霧が深くその様子までは見えない。

最果ての海を臨む崖の上の家で、私はたった独り暮らしていた。家族はない。人界から隔絶されたこの地に届く手紙もない。

しかしその朝、私は郵便受けで信じがたいものを目にした。

手紙だ。

封の中から出てきたオレンジ色の紙にはこう書かれていた。

『私はお前の母です。カンフーの塔へ来なさい。頂上で待つ。
カンフーマスターより』


【続く】

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