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第2期 #V名人戦 三番勝負 第二局 観戦記

 現在開催中のV名人戦について、三番勝負の観戦記です。

V名人戦について

 Vtuberの、Vtuberによる、Vtuberの一番を決める棋戦「V名人戦」。将棋が指せるVによる棋力別総当りリーグ戦行い、最上位リーグの優勝者がV名人への挑戦権を獲得。V名人と三番勝負でタイトルを競います。詳細は公式サイト、Twitterをご確認ください。

12/13 第二局 川山一誠挑戦者 - 真澤千星V名人

 中継

 総譜

観戦記

 お互いの正念場

 本局は三番勝負の第二局。リードしている側には勢いがあり、劣勢側はここでこらえれば弾みをつけてタイに戻せる意味があります。
 鍔迫り合いの第二局の立ち上がりは、3手目▲6六歩対角道オープン四間飛車でした。

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 ここで一誠さんの作戦選択に注目されました。
 一つは相振り飛車で、向かい飛車を目指す展開。これは前局とは違う将棋ながら、負けた相振り飛車でリベンジという格好でもあります。
 もう一つは対抗形で、角道を止めた居飛車。こちらはやや損とされるものの、かつては大山康晴先生の好んだ指し方でもあり、受け棋風の一誠さんとしてはそれほど苦にしない戦型と思われます。
 本局は▲4八銀△9四歩▲5六歩△3二銀▲5七銀で居飛車に確定。角道が通っているだけ後手がはっきり得ですが、これだけで決まるものでもないため油断はできません。

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 居飛車持久戦vs藤井システム調

 以下、千星さんは玉の移動を保留して右桂を跳ねる藤井システム風の積極的な駒組みに。対して一誠さんはじっくりと居飛車穴熊模様へ進めます。

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 上図は難しいところで、積極的にいくなら△6三銀のような手もあったかもしれません。ただ、先手玉が角のラインに入っておらず、飛車の使い方が難しい点が懸念です。ということで、ここで△4四歩と止めてノーマル四間飛車へと合流します。
 一誠さんはそれを見て▲3六歩。桂馬の活用や▲5九角~▲3七角、▲2六角などの展開、▲3八飛などの様々な狙いがあり、どこかで突いておきたかった歩です。△4三銀で後手は角頭をカバーし、▲1六歩。意味は難しいですが、後に▲5九角と引けば▲1五角とぶつける手があったり、△1五角を消して▲3七桂の活用や▲2五飛のような手をやりやすくし、さらに1手様子を見たということでしょうか。

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 上図から△4五歩なら▲6五歩のような仕掛けがありそうで、以下△同桂▲3三角成△同桂▲4八銀のようにして後の2筋突破を楽しみに受ける展開です。
 それは不満と見たか、数秒の考慮でV名人は△6二玉と居玉を解消します。あまり深く囲うと後手から△6五歩や端を絡めて攻めたとき当たりが強い意味もありますが、△6二玉型や△7二玉型であれば薄いながらも意外に耐久力があります。

 サムライミレニアム

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 ここで一誠さんはなんと▲8八銀。穴熊を目指していたように見えたため、壁銀のひどい手にも思えます。しかし、実際はそうではありません。これはミレニアムという対藤井システムで一時期多く指された形を目指しており、ここから▲5九角~▲7七桂~▲8九玉のように囲います。以下▲7九金と引き締めるか、▲7八金~▲3七角~▲6八銀~▲7九銀右のように固めるかのが一例で、難しい比較です。
 対して後手は色々な作戦がありますが、千星さんは△8四歩~△5四銀~△4五歩で積極的な駒組み。

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 ▲3七角は好位置で、後手からの仕掛けである△6五歩を牽制し、遠く9九の香まで睨んでいます。直前に△5四銀と出ているため△3五歩のような攻めはやりにくくなっているのも好材料です。
 はたして図は後手の分岐点。△6三銀引で固めたり、△6三金で高美濃にするなどの方針もありましたが、△6三銀上とバランスを取りつつ攻め味の強い陣形を維持する現代調の将棋に。
 V名人はここで勝てば防衛ということで慎重になりそうなところですが、本局は攻めへの積極的な姿勢を見せており重圧を感じさせません。

 開戦前夜

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 駒組みが進んで上図。先手はミレニアムの堅陣に。後手は右雁木+地下鉄飛車のバランス陣形に組み上げました。
 ここからお互いに仕掛けとカウンターを模索する駆け引きが始まります。
 お互いに長考、小考を入れつつ△8一飛▲5八飛△4一飛▲5九飛△1二香。いずれも難しい手で、先手はすぐに▲5五歩が、後手は△8五歩がありそうなところでしたが本譜は見送られました。

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 ここでついに▲5五歩。△4三銀▲5六金△4四銀はこう進むところ。ここで先手の手が広く、悩ましい局面です。

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 一誠さんの選択は▲6九飛。次に▲6五歩から後手玉の攻略を直接目指します。
 今度は後手が選ぶ番。ここは後手のパンチにカウンターを狙う作戦もありましたが、▲4六歩と軽く仕掛けました。
 ここの選択はお互いの棋風が出たところという印象で、結果的にV名人が攻め、一誠さんが受ける将棋です。

 攻めるV名人

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 △4六歩に▲同歩は角のラインを閉じて消極的すぎるため▲同角ですが、△4五銀と突進します。
 ▲4五同金△同飛▲3七桂に△4六飛と飛角交換でさわやかな攻め。▲4六同歩でできた空間に△4七角と打ち込み、▲5九飛に△7五歩▲同歩の交換を入れてから△5八金で重たく攻めます。

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 ここが先手の分岐点でした。本譜は▲3九飛で一誠さんらしいじっくりした展開でしたが、ここは堅陣をいかして▲5八飛と切り▲3一飛を詰めろで入れるのが勝ったようです。
 図より▲3九飛以下、△5五角▲4一飛△7六歩▲2一飛成△7七歩成とV名人が食いつきに成功します。

 おっとり刀の斬り返し

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 しかし、ここから粘り強いのが一誠さんの強さです。
 図から▲同銀△8五桂▲8六銀△6六角とV名人の流れるような攻めが続きますが、そこで▲7四桂といきなり放り込みます。

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 △同銀▲同歩△同角成に▲7五歩が勝負手。

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 KENTO先生によるとここでは△7七桂打という見えにくい決め手があったようです。▲9八玉なら△9六歩が詰めろで、▲9九龍と香車と取っても△9七桂成▲同銀△同歩成▲同玉(▲同龍は△8九銀▲8八玉△7六桂まで)△9六歩▲同龍△同馬▲同玉△8五銀以下の詰み。ということで△7七桂打に▲同銀ですが△同桂不成▲同金△同角成が詰めろとなり、後に△5四馬と詰めろや王手で出られるため後手が良いようです。
 しかしこれをこの大一番でプレッシャーのかかる中発見するのは難しいところです。本譜は△6五馬▲6三歩△同玉▲7四銀△同馬▲同歩で若干よりが戻ったでしょうか。

 意地と執念と覚悟と秒読み

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 図より△7七桂打が厳しい攻め。▲同銀に△同桂不成なら▲同金しかありませんでしたが、△同桂成だったため一誠さんに手番が回ります。
 ということでまずは▲4五角と受けにも効かせた王手で対応を尋ねました。

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 △5四銀▲7五桂△7四玉▲8一龍。一誠さんさすがの勝負術で後手玉に圧力をかけ、楽にさせません。

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 ここでは△7八成桂▲同角△8八銀▲同銀△同角成▲同玉△7六桂▲7七玉△6八銀以下詰みがあったようです。
 しかし、大一番の有利な終盤で、持ち時間はなくなってすでに秒読み。自玉も怪しく読む量は大変なことと思います。本譜は△7一歩と固く受けました。

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 ▲5六角△6五歩▲8三銀△6四玉に▲7二銀不成△同歩▲8四龍と猛攻。そして△5五玉に▲6七角がいかにも妖しい終盤術です。

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 しかしここは踏み込むしかないでしょうか。△7八成桂▲同角△7七桂▲8八玉△8九金▲9八玉と決めるだけ決めて△4六玉と入玉模様で捕まりにくくします。

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 手番が渡って今度は一誠さんが攻めます。▲4七歩に△5七玉が怖い手。▲5九歩が厳しく、△4八金に▲5四龍と切って▲5八銀と打つような手順があったようです。
 しかし本譜は惜しくもそれを逃し▲4九桂。

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 ついに決着

 以下、△4八玉▲3八金△5九玉▲5七桂△4九銀▲5四龍△7九金と王手や詰めろが続きますが詰みには至らず。
 しかたのない▲8六歩で入玉を見せます。
 △7六銀と退路を封鎖し、▲6九歩で最後のお願いですが△7八金引かれては後手玉に詰みはなく、先手玉の受けもないため投了となりました。

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 初参加にして初挑戦を果たした川山一誠さんにとっては悔しい敗戦で、タイトル奪取には届きませんでした。来期もまた激戦が予想されますので、さらなる活躍が期待されます。
 一方、真澤千星V名人は本局の勝利で防衛を達成。前評判では苦しい戦いになるのではないかと危ぶまれた三番勝負でしたが、ストレートでの防衛はまさにV名人としての貫禄を示した格好です。来期も強敵が挑戦することは間違いありませんが、今期同様に魅せる将棋を楽しみにしております。

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 今期のV名人戦もこれにて終幕。週報や観戦記もお楽しみ頂けたのであれば幸いです。来期のV名人戦も是非ご注目ください。

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