第2期 #V名人戦 三番勝負 第一局 観戦記
現在開催中のV名人戦について、三番勝負の観戦記です。
V名人戦について
Vtuberの、Vtuberによる、Vtuberの一番を決める棋戦「V名人戦」。将棋が指せるVによる棋力別総当りリーグ戦行い、最上位リーグの優勝者がV名人への挑戦権を獲得。V名人と三番勝負でタイトルを競います。詳細は公式サイト、Twitterをご確認ください。
12/06 第一局 真澤千星V名人 - 川山一誠挑戦者
中継
総譜
三番勝負、開幕
いよいよ冬らしい寒さとなった12月。第2期V名人戦三番勝負が開幕致しました。
対局前日にPVが公開され、両対局者へのエールが含まれるなど非常に豪華な内容となっており必見です。
V名人戦三番勝負はリーグ戦の持ち時間15分と比べて倍の長さである持ち時間30分制となっています。時間をより多く使って読める反面、ネット対局ではなかなか実現しない持ち時間ということで、時間や体力の配分が難しい印象です。
事前の戦型予想は色々ございましたが、千星さんの振り飛車vs川山さんの居飛車が人気だったでしょうか。
駆け引きの結果
先手の千星さんは角道オープン型の四間飛車に。V名人が得意とされている角交換四間飛車を目指した格好です。
対する後手の一誠さんは端歩を打診。基本的には端を受ければ相振り飛車、受けなければ居飛車という狙いです。千星さんはノータイムで受け、一誠さんは四間飛車に振って戦型は相振り飛車に確定しました。相四間飛車というのが珍しいです。
陣形整備を進めて、千星さんは端を突き越し、川山さんは玉を寄ってから三間飛車に構える4→3戦法での対抗となりました。端歩の関係と、飛車の位置、後手の手損などの要素があり、類型の少なそうな局面です。お互いに経験値のある戦型か気になるところです。
16手目、歩がぶつかる
千星さんは囲いを進めるのに対し、川山さんは「まずは」という感じに△3六歩と突っかけます。直接的な狙いは一歩交換ですが、角交換から△5五角や7六の歩をかすめ取る含みがあって容易ではありません。
図から▲3八金△5二金左▲4六歩△4四歩▲4七金左△3七歩成▲同銀と進んで下図。
千星さんが淡々と矢倉を目指したのに対し、川山さんは矢倉に組ませて4筋からの仕掛けを見ています。こうなると先手は3手目▲6六歩から矢倉を目指した場合に比べて角道が通っており、後手が将来4筋や3筋に振り直して手損を重ねることになりそうな点は大きなメリットです。その反面、攻めの形ができていないのが懸念で、後手としては素早く動いていきたいところです。
矢倉の完成
先手の千星さんは矢倉へと入場してから7筋へと飛車を振り直し、堅陣を背景に軽く攻めるイメージでしょうか。
後手の川山さんは四間へと振り直して△4五歩の開戦を狙います。
進んで上図▲3四歩が2分半の読みが入った軽手。後手の攻めがこれで遅くなりました。ここで川山さんが5分の長考に沈み、悔しいながらも△2二角と引きます。
「やってこい」と小さな種火
千星さんは▲9七桂と端から桂馬を活用して端攻めを狙いますが、川山さんは「やってこい」の△7二銀。いよいよ本格的な戦いが始まります。
V名人はノータイムで▲8五桂と軽快に跳ね、川山さんは1分使って△8四歩で桂馬を捕まえて上図。
▲9三桂成△同玉▲9四歩△8二玉▲9三歩成△同桂▲9二歩△同香▲9四歩と一直線の攻めです。途中▲9二歩が手筋で、単に▲9四歩だと△9二歩と受ける余地を与えます。
上図から△8五桂▲8六歩で駒損を取り返しに行きますが、△9八歩が手筋の反撃。
侍の受け
▲9八同香は△9七歩で、以下▲同香は△同桂▲同角△9四香のようになると取れそうだった桂馬に働かられた格好ですし、▲8五歩△9八歩成だと手順にできたと金が角当たりです。ということで本譜はここで手抜いて▲8五歩△9九歩成。一歩の代わりに一手の猶予を得たような格好です。
図の▲8四歩が大きな取り込みで、次に▲8七飛となればかなり受けにくい攻めです。しかし後手は受けに定評のある川山さん。そうそう簡単に攻めを決めさせません。
図から△8九とが角銀両取り。▲6六角と逃げたいところですが、△6五銀の飛車角両取りが見えていてやりにくいです。
千星さんの選択はそれでも▲6六角! 当然△6五銀と両取りに出ますが、▲8七飛と回られてみると△6六銀▲同歩は▲8三銀などが厳しく容易ではありません。
△7九とで銀を拾いますが▲9五桂と力を溜めます。
星火燎原
上図以下、△9一桂▲9三桂成△同桂▲同歩△同銀▲9五桂のおかわりで、△8四歩▲9三桂成△同玉▲8四飛と取られそうな角がここで生きる厳しい攻め。
端桂の小さな種火から始まった攻めが大きな炎となり、美濃を焼き尽くします。千星V名人の揮毫の通り、まさに「星火燎原」の攻めです
図より△7二玉▲8一銀△6二玉▲8二飛成△5一玉に▲5五角。取られそうだった角が攻めては▲7三角成、受けては△4五歩の牽制にと八面六臂の活躍です。
しかし、こうした厳しい局面から粘り強いのが川山さんです。先手の持ち駒も少なく、どこかで余裕を得ることができれば豊富な持ち駒を生かした反撃が厳しく入りそうです。
まずは△4一玉と早逃げで受けやすい形をつくります。▲7二銀不成と絡みますが、△5一金寄で致命傷をかわします。攻め駒不足の千星さんは▲9二龍で駒を補充。はたして正念場。千星さんがまだ10分近く残しているのに対して、川山さんは秒読みに入ります。
突然の終幕
川山さんの次の手に注目されていましたが、ここで痛恨の時間切れ。川山さん初のタイトル戦は、時間切れという苦い黒星でのデビューとなりました。V名人戦初の持ち時間30分、初のタイトル戦、そして難しい局面など重圧のかかるところで、いつも通りとはいかなかったことと思います。
千星V名人はこれで先勝。押されている時間は少なく、優位に立ってからは逆転を許さない指し回し。貫禄の内容で防衛に王手をかける最高のスタートを切りました。
次戦、千星さんが魅せる将棋で押し切るか、川山さんが立て直して踏ん張るか。期待が高まります。
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