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うたふるよる第十夜 はゆき咲くらさん

打ち合わせメモを公開します。
万が一不適切な表現や箇所がありましたらいつでもご連絡ください。

スペースのための打ち合わせメモ

常盤みどりが選んだはゆき咲くらさんの短歌
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デパートで黒子に徹す制服を似合うと言った先輩の口は赤くて

(毎日お題短歌作ろう2023年9月27日「制服」*テーマ)

 デパートで働く主体とその先輩の日常・会話を切り取った一首と読みました。一首の中にある最も彩度の低い、無彩色の黒色から最も彩度の高い赤への移動・強いコントラストと言えば良いのでしょうか、表現が鮮やかだと感じます。
 状況を考えても素敵ではないでしょうか、語弊があるかもしれませんが余程の事情や状況を除いて小売業界ではお客様が何よりも優先される、その優先されるべきお客様のサポーターとして縁の下の力持ちに徹する主体、私は販売員さんよりも百貨店のインフォメーションスタッフさんのお仕事風景なのかなと感じました。
 見方を変えると黒子に徹するインフォメーションスタッフの方と華々しい装いの販売職の先輩とのコントラストの歌とも読めるかもしれませんが、私は先に申し上げた読みをしたいです。どちらにせよ毅然とした主張をし過ぎない力強さを感じます。

あの月に連れて行ってと恋をした今宵くらいはカノジョにもどる

(毎日お題短歌作ろう2023年9月28日「月」*テーマ)

 咲くらさんがツイートの際に既に言及されていますがジャズスタンダードのFly me to the moonを彷彿とさせる一首。「今宵くらいはカノジョに戻る」の部分が微笑ましくて好きです。これも歌の中にある“言い換えるなら手を繋いで、キスをして、素直になって、愛している”じゃないでしょうか。シンプルに好きです。
 めちゃくちゃ余談ですがこの曲はヴァースを省略している歌が日本では某アニメで有名になっていますが、私はヴァースの部分がとても好きです。短歌もこんな感じで作れたらなと思うことがあります。ぜひ調べてみてください。

あこがれなんてしてもされても【ぼくはぼく・あなたはあなた】にんげんだもの

(毎日お題短歌作ろう2023年11月17日「あこがれ」*読み込み・即詠)

 77577の一首と読みました。結句は相田みつをさんのつまづいたっていいじゃないかにんげんだものでしょうか。一首全体が平仮名なのもそう感じる要因です。励ましの一首と読みました。
 私自身はあまり他者に憧れを抱かないのですが、例えば、もう追いつけない話を聞けない歌人に焦がれることはあります。目標としているうちは良いのですが「何故あの人のように」と思ってしまうとなかなか深みに嵌って出られない。他と比べても仕方がないのですが。

このせかいうそそのものときみがいうならみえてくるみえないものも

(映画短歌会より)

 シックスセンスの短歌です。です、で済ませるつもりはないのですがこの映画の結末に関わるので、うーん、でも好き。
ゆうさんは観たことがありますか?

 作中のメインキャラクターのとある事情でストーリーの「見え方」が大きく変わるのですが、その一瞬とその事情を知った後、つまりある場面〜2回目を観た時の様子をとても上手に表していると感じます。

泣きながら腕のかさぶたもてあそぶ消せなくなると分かっていても

(毎日お題短歌作ろう2024年2月9日「泣きながら」*読み込み)

 被る可能性があるならこの一首。文字上の話をしますと、「うでのかさぶたもてあそぶ」の韻律が心地よい、心地よいのだけれど切ない。瘡蓋って同じ場所に何度も何度も作ると後に残って消せなくなるんですよね。その行動に至るまでの主体の心情を考えると何とも言えない気持ちになります。

みさきゆうが選んだはゆき咲くらさんの短歌⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

あれなんか仲直りした風だよねコロナ禍ぶりのパフェと寿司屋で

2023.5.9『 あれ 』

「仲直りした風」が面白いです。ありますよね、こういうこと。相手が特に何か言うこともなく終わった風にしてくる感じ。コロナ禍ぶりの外食ということはわりと時間が経っています。相手もいいきっかけになると誘ったのでは。パフェとお寿司屋さんは主体の好物やお気に入りのお店なのかもしれませんね。「仲直りした風だよね」と思っただけなのか、ツッコミっぽく伝えたのか。主体もまんざらでもない感じなのが微笑ましくて良いです。ふふっあるある!と共感できる一首で好きです。

「お元気にお過ごしですか?」「悲しくてまだ泣いてるの?」そうですよ 夏至

2023.6.21

「」での問いかけはお手紙、またはメッセージでしょうか。それに対して、主体はあっさりと答えています。「そうですよ」の「よ」が、少し冷めた言い方にも取れます。「」が付いていないので相手に送ってはいないのかもしれません。
 親切のつもりでも、悪気はなくても、素直に受け取れない言葉ってありますよね。「お元気にお過ごしですか?」だけなら大丈夫かもしれないけれど「〜まだ〜」はどうでしょうか。心配してる率直な気持ちだとしても、言われた側の主体には「まだ悲しいの?「まだ泣いてるの?」…とまだ気持ちを切り替えられていないことに触れられたように感じられたのかもしれません。一字空けて、夏至。一年で一番日が出てる時間の長い日。一字空けはため息のようにも思えます。「まだ」と言われてしまうほど日が過ぎていて、こんなに明るい日。心はまだ明るくないのに。
 日常にある言葉のやり取りと、一字空け、夏至…のシンプルな表現ですが、主体の心情に共感しました。好きです。

手のひらの短かな生命  いち、に、さん 走れメロスとピーカンナッツ

2023.11.15『命』

以前、咲くらさんに好きとお伝えしたことがあるのお歌なのですが、感想では無かったので改めてお伝えしたいと思いました。
 初句と二句で、手のひら全体と短かな生命線が浮かびました。手のひらを丘と道に見立てているのだと思います。絵を描く時によく思うんです。「いち、に、さん」以降はとてもリズミカルで、メロスの走っている様子が伝わってきます。一生懸命走らないといけません。なんせ邪智暴虐の王様の手に握られたセリヌンティウスの生命なので。生命と短かな生命線、面白いです。
そしてピーカンナッツは何だろうと考えていろいろ関係を調べてみたのですが、見つけられませんでした。ですから以下は私の想像です。まずピーカンナッツという音の響き。半濁点、長音と促音の組み合わせとリズム。最後のツの着地がメロスの到着と重なります。そして「いち、に、さん」はピーカンナッツにもかかっていて、主体が食べてるのかもしれない。物語の想像と主体の状況のリンクしているのではないでしょうか。この混ざり具合の面白さが咲くらさんの歌の魅力の一つだと思います。(次の歌も)

付き合うの? 3分以内フタをあけ箸でつついた あともう少し

2023.12.19『以内/以外』

「付き合うの?」は主体に対する質問だと読みました。結句の「あともう少し」が質問への答えと即席麺の食べ頃の両方の答えになっていて面白いと思いました。恋愛はお互いのちょうどいいタイミングがありますよね。主体にとっては3分以内のまだ少し早い時期に聞かれてしまったのですね。即答はしないで、どんなもんだろうと自分の心をつついてみる…けど、まだちょっとその気にはなれない、あともう少しなんですよね。
 スペースの時にお伝えしたもう一つの解釈・感想もメモに残します。
「付き合うの?」を主体が相手に投げかけた質問とも読めると思いました。「付き合うの?」と質問しながら、相手の視線や表情などの反応を見極めようとしている…ことを即席麺に例えて「箸でつついた」として、その結果「あと少し」だと思った主体を想像しました。
見立てだけでもお上手なのですが、同時進行で主体の状況も進んでいて(スペースでみどりさんが二軸進行と仰っていました)、メロスとピーカンナッツと同じような感じで好きなんです。

泣きながら腕のかさぶたもてあそぶ消せなくなると分かっていても

2023.2.10『泣きながら』

被りましたね‪‪☺︎‬
 なぜ泣いているのかは詠まれていませんが、主体はその原因から離れた方がいいとわかっているのに、そうできない本人なりの事情や気持ちがある…切ない一首だと思います。

 かさぶたをもてあそぶことと重ねているのがとてもお上手です。ちょっと痛かったり、でもまだもう少しいけそうってやめられなかったり。消せなくなるとわかってるのに。
 しない方がいいのはわかってるのにしてしまう、歳を重ねていい大人になってもあります。子供みたいだなって私もよく思います。
このお歌の「かさぶたもてあそぶ」が開いてるところに子供っぽさを表してるのかなとも感じました。みどりさんも言及されていますが、全体としても声に出した時の韻律がとても心地よくて、その良さを含めて、切ないと思いました。当たり前のことを言いますが、短歌は歌なんだなと改めて思いました。

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