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講師インタビュー:川上晃先生①

1. 高校時代の話

土岐田 今日はよろしくお願いします。
川上  よろしくお願いいたします。
土岐田 川上先生は長くウチの会社でも働いていると思うんですが、意外と「高校時代の話」はわからないなと思いまして。どんな高校時代を過ごされましたか?
川上  なるほど!高校時代ですね。そもそも僕は出身がだいぶ辺鄙な場所だったもので、少し変わった環境なんですが。
土岐田 ちなみにどちらですか?
川上  熊本県の天草というところです。
土岐田 天草っていわゆるキリシタンとのかかわりが強い土地だと思いますが、そういう文化が見られたりするんでしょうか?
川上  海沿いにキリスト教徒の墓地があったり、キリシタンの資料館が高校の近くにあったり、わりと身近に感じてはいましたね。
土岐田 どんな学生だったんですか?
川上  演劇部に入って、目立ちたがりな学生でした。勉強も真面目にやっていた方でしたが、島に高校が一つしかなくて、しかも大学進学する学生も半分くらいと、学校全体に「勉強する雰囲気」が無かったのを覚えていますね。高校2年生の秋ごろから受験勉強に身を入れ始めたんですが、周りからは結構浮いた存在だったと思います。
土岐田 なぜ勉強を頑張ろうと思ったんでしょうか?環境的には勉強が難しそうな印象を受けました。
川上  家庭教師の先生に勉強を一時期見ていただいていて、その先生が阪大の外国語学部の出身でして、かなりできる方だったんですよ。それから、学校で高3のときに教わった先生が筋金入りの英語マニアで、学者の書いた分厚い文法書のアラ探しをしたり、辞書の誤植を出版社に報告するのが趣味のような濃い方でした。
土岐田 それは僕の本の校正でご協力願いたいくらいですね!
川上  もともとは上の大学を目指す気はなかったんですよ。お二人に教わりながら、「この人たちのような境地にはどうしたらたどり着けるんだろう」という純粋な興味から志望校が変わっていったような気がしますね。

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2. 高校時代の勉強法

土岐田 そういった先生方との出会いに感銘を受けたのが原体験としてあるわけですね。高校時代に使った英語の参考書で良かったものはありますか?
川上  高校時代は、情報がそもそも手に入らなかったので、学校からもらった参考書、『速読英単語』と桐原の『英頻』をひたすらやりこんでいました。それ以外の勉強法を知らず、本当に端から覚えていくような勉強をしていました。
土岐田 ド定番のラインナップですね。「覚える」というのが学習の根底にあると。川上先生流の覚えるためのコツってありますか?
川上  「常にその中に身を置く」というのがありますね。聖書にも「絶えず祈りなさい」というフレーズが登場しますが、勉強しよう!と思って勉強するのではだめで、生活の一部として暗記がある、こういう状態にするのがベストだと思います。
土岐田 「習慣化」が重要だということですね。受験生に伝えるとしたら、日々の生活の中でどういう風に暗記の時間を取るように言いますか?
川上  生徒にも普段言うんですが、結局1時間や90分という時間は、1分や2分が集まったものなので、1分や2分で勝負ができなければ授業時間や試験時間で勝負もできない、と思います。移動時間、寝る前など、1分2分を使って暗記に励んでほしいですね。
土岐田 大学受験で辛かったことはありますか?
川上  周りに仲間がいなかった、というのは一番つらかったかもしれません。塾や予備校も周りに無かったので、良質な授業や情報を得る機会もなく、「孤立」をすごく感じていました。
土岐田 もしかするとそれは、「独立して勉強する」というのが勉強の基本姿勢であると考えるきっかけになったかもしれませんね。
川上  そうですね!むしろ大学入学後の勉強や大学院での研究生活など、一人で探求を深めることに抵抗が無くなっていたかもしれません。
土岐田 たしかに勉強って、独立していくプロセスでもありますよね。
川上  そう考えると、逆境だと当時思っていたことがプラスに働いていた面もあるかもしれません。
土岐田 予備校に入らず、自宅で受験勉強をすることに決めた学生にとっては、勇気の出る話ですね。
川上  境遇をマイナスにとらえすぎずに、孤独の中だからこそ深められる勉強があるというメッセージを送りたいです。

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3. 大学時代の話

土岐田 それでは、次の質問に移りましょうか。川上先生とは、僕が院生、川上先生が学部3年生のときに出会いましたよね。大学生活の序盤はどういう感じでしたか?サークルとかはやっていましたか?
川上  ほんの少しだけ、バンドと演劇をやっていました。劇団ではシェイクスピアの英語劇もやったんですよ。


土岐田 ほう!ちなみに何の演目ですか?
川上  『冬物語』です。ボヘミアの王子、フロリゼルの役でした。似合わないったらこの上なく……
土岐田 演劇って実は、学習との相関性が高いですよね。
川上  それはありますね。台本を受け取った瞬間は覚えるのが大変なんですが、読み合わせをしていくと、「こういう感情の動きがあるんだ」と気づき、セリフが自分の中に染み込んでいきます。感情の起伏と記憶は結びつきが強いのを感じます。
土岐田 バンドもやってたんですか?
川上  ギターをボーカルを……マキシマム・ザ・ホルモンのコピーバンドで、「マキシマム・ザ・くまモン」というバンドで活動しました。
土岐田 ちなみに川上先生って僕の中で声がめっちゃ良い先生だと思っていて、講師を続けていくうえで声が大きな武器になるんじゃないかと。何か特別なトレーニングはしていたんですか?
川上  実家がお寺なんですよ。小さい時からお経の練習をしていたときがあって、ボイトレにすごく効果的らしいと後から知りました。
土岐田 たしかにお坊さんって声がいいし、話もうまい人が多いですよね。まさに、予備校講師の仕事と被る部分が大きいかもしれません。しかも、人生において一番大切な、「生」や「死」に関する話を聞き手にしっかり伝えるという。それにしても、お寺から上智に進学するとはユニークですね。
川上  曽祖父が青山学院の英文科の出でして。もしかしたらそれが無かったら反対されていたかもしれません。
土岐田 面白い関わり合いですね。上智はカトリック系の大学で、カトリックは厳格なイメージがありますが、たとえば神父さんが禅の授業をやっていたりする。ルートが違っても、たどり着く場所は同じなんだなと思います。キリスト教と仏教の両方を学んだことで、何かメリットがありましたか?
川上  そうですね。今土岐田さんがおっしゃったように、「見た目は違っていても、たどり着く場所が同じ」という考え方が心の深い場所に根付いたというのは大きいと思います。勉強なり学問なりで、「見た目は同じだけど、実は違う」「見た目は全然違うのに、底では繋がっている」という考え方ができるのは大事なことだと考えます。
土岐田 それは面白い観点ですね。結構僕も苦手な科目とかあって、古文が苦手だったんですよ。あるとき、古文も語彙・構文・文法と、「外国語の学習」と共通しているということに気づいてから、ブレイクスルーがありました。
川上  共通点に気付き、点と点が線になる瞬間は純粋に「面白い!」と思えますよね。
土岐田 川上先生に関して印象的だったのは、上智の英文学会で、川上先生が伝説的な発表をしてくれたときがあって。
川上  (笑)
土岐田 何人か学部生の発表があったんですが、川上先生は飛びぬけて「話すことを楽しんでいる」と思いました。作品中の"grasp"という単語に着目した部分で、川上くんがドヤ顔で、ジェスチャー込みで力強く話をしていた。
川上  しばらく"grasp"があだ名になりました。
土岐田 とにかく話術や人前で話すスキルが目について、それで本格的なスカウトに踏み切りました。

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4. 卒論・大学院の話

土岐田 卒論は何で書いたんですか?
川上  J.D.サリンジャーの短編を中心に研究しました。禅仏教の観点から、作中の「教え」という行為を分析しました。
土岐田 サリンジャーは禅仏教に強い興味を持っていた作家ですよね。キリスト教の観点ももちろんあるでしょうから、まさにさっき言っていた「共通点を探る」が軸になっていたんですね。サリンジャーの作風はどういうものでしょうか?
川上  そうですね……一言で言うととにかく繊細で、自意識が強い(笑)
土岐田 "I"がたくさん出てくる。僕もソール・ベロ―の研究を一時期やりましたが、アメリカの一人称小説は特にそういうイメージがありますね。
川上  『ライ麦畑でつかまえて』がやはり代表作ということになるでしょうが、主人公のホールデンがずっと言い訳をする小説なんです。社会と折り合いをつけられなくて……僕は人前で話すのは好きなんですが、対人コミュニケーション自体はあまり得意ではなくて。そこに共鳴してしまいますね。修士課程の時はサリンジャーを「友達」のように感じていました。
土岐田 大学院の話も聞きたいですが、それはまた別の回に取っておきましょうか。ちょっとだけ、進学を決めたきっかけだけ聞いてもいいですか?
川上  僕の場合はいずれ実家に帰ろうという意識があったので、「勉強するだけしてから帰ろうかな」というのが一番強かったですね。最後の一押しになったのは実は土岐田さんの一言で……
土岐田 僕ですか??
川上  「進学しようか悩んでるんですよね」って言ったら、0.1秒で「川上君は行った方がいいですよ!」って即答されました(笑) そこまで断定してもらえるのであれば、行ってもいいんじゃないかと。
土岐田 言ったかもしれない・・・。 文系で院進をほのめかすと、社会人の方は眉を顰める人が多くて、僕はそれがあんまり愉快じゃないんですよね。悩んでるってことは行きたいってことだし、それなら背中を押してあげればいいじゃないかと。僕は川上先生の学問への意欲を信頼もしていましたし。
川上  ありがとうございます。

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編集後記

今回は川上先生の高校から大学院進学までの話をお聞きしました。非常に魅力的なバックグラウンドが垣間見えて、楽しいインタビューでした。今回は「共通点」を見つける話が印象的で、サリンジャーの研究テーマも面白く聞きました。

川上先生の次回インタビューにも期待大です。



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