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ショクニンカタギに惹かれてしまう

この2ヶ月ほどの間に
最寄駅から自宅までの10分ほどの道程に
タピオカミルクティーの店が3店舗開店した。
オープンして数日だけは行列ができていたが、
今は並んでいる人を見ることはほとんどない。

飲んでみたいなと興味はあるのだが、
おっさん一人だとなんとなく気後れして
毎回横目で見ながら通り過ぎてしまう。
・・・カモフラージュになる友達が欲しい。
これから紹介する二人はとてもその役目を担うことはできないけれど、
タピオカミルクティーよりも心を惹かれている存在である。


伊藤さんは顔が恐い。
初対面の人はその筋の人と勘違いすることもしばしばである。
基本的な顔のつくりは俳優の國村隼にどことなく似ている。

伊藤さんは老け顔である。
顔が恐いだけでなく、かなりの老け顔である。
とても46歳には見えない貫禄がある。
初対面の時は60歳近い大親方だと思っていた。
仏頂面をしているから尚更老けてみえるのだろう。

伊藤さんは機械に弱い。
携帯はガラケーでパソコンアレルギーである。
奥さんの妙子さんがいないと仕事の見積書や発注書が作れない。
奥さんを怒らせると仕事に支障が出るので、
なるべく怒らせないように気をつけているらしい。

妙子さんは伊藤さんとひとまわり近く歳が違う。
初めてあった時は伊藤さんの娘さんかと思っていた。
伊藤さんが老け顔のせいだ。
現場では伊藤さんが仕事をしやすいように段取りや掃除を手伝ってくれる。

伊藤さんは曲がった事が大嫌いだ。
必ず筋を通す。
仕事においてその姿勢を全く崩さない。
仲間にもその姿勢を要求するので、
関わる職人さんは皆、下手な仕事は絶対にできない。

伊藤さんは意外と人懐っこい。
朝からマメに電話をくれる。
そして年頃の女子のように最近あった面白いことを私に報告してくれる。
週に一日は伊藤さんからのモーニングコールで私は目覚める。
心を開くまでは無口で仏頂面だったのが嘘のようだ。

伊藤さんは大工である。
私の仕事の大事なパートナーだ。
大工を本職としながら、地元のネットワークを駆使して、
職人さんたちを集めてくれる。
そして現場監督のように現場を仕切ってくれる頼もしい存在だ。


伊藤さんとの初めての仕事は、
築40年以上の団地の一室のフルリノベーションだった。
デザイン関連の仕事をしている奥様はかなりのこだわりを持っていた。
しばしば現場を訪れては、伊藤さんにいろいろお願いをしていた。

「キッチンのデッドスペースに追加で棚をつけてほしい」
「収納の中の棚板の配置を持ってる家具の寸法に合わせて変更してほしい」
「トイレに埋め込み式の収納をつけてほしい」

伊藤さんは伊藤さんなりに精一杯の笑顔で対応していく。
そして私には追加の費用を請求しない。
「お客さんが喜んでくれるんだからそれでいいじゃねえか」
不器用にはにかみながらそういって話を終わらせる。

実際に喜んでくれたお施主様は追加の工事を依頼してくれたり、
知り合いを紹介してくれたりする。
そして私は伊藤さんにその現場をお願いする。

建築業界は意外と狭く、
昔お世話になった人に別の仕事で再会することも多々ある。
私はまだまだ「あの時はご迷惑をお掛けしました」と
言いたくなることもあるけれど、
1つ1つの仕事が未来へつながっていくことを
身をもって教えてくれた伊藤さんに感謝している。


今度伊藤さんとバーベキューに行くことになった。
いろいろトラブルもあったが、一緒に携わった現場の打ち上げだ。
できれば妙子さんにも来てほしい。
でもたまには男二人で飲むのもいいかなぁ、と私は密かに期待している。



巣山さんは顔が恐い。
初対面の人はその筋の人と勘違いするかもしれない。
基本的な顔のつくりは井筒和幸監督にどことなく似ている。

巣山さんはお酒が大好きだ。
地元の酒屋でも数十本しか入荷できない限定酒を手に入れたりする。
そして可愛い女の子にねだられると惜しげもなくそれを振舞ってくれる。
私は毎回それに便乗してご相伴にあずかる。

巣山さんは若者に優しい。
同じ集落に移住してきた若者たちに山菜の天ぷらを振舞ってくれたりする。
そして地元の話や仕事の話を聴かせてくれる。
若者たちの新しい取り組みにも協力してくれたり、
惜しみなくアドバイスをしてくれる。

巣山さんは蕎麦打ちの腕も名人級らしい。
まだご馳走になったことはないのだが、地元ではかなりの評判だ。
本職の仕事の話をする時と同じぐらい、蕎麦の話をする時は熱が入る。

巣山さんは漆塗りの伝統工芸師である。
職人さんの中でも特にこだわりが強くて、
自分が塗る器の木地づくりから自分で行う。
漆の精製方法も手間ひまかかる昔ながらの技法にこだわっている。


巣山さんにお会いした機会はまだ片手ほどしかない。
でもなぜか昔からお世話になっているような気がしている。
それは心の底から相談ができる相手だからかもしれない。
そして私は巣山さんの仕事に尊敬の念を抱いている。

他の職人さんたちも自分のオリジナルのかたちを持っていたりするのだが、
巣山さんのつくるスプーンを初めて見たときに衝撃が走った。
ものづくりに対する愛情が、信念が、情熱が伝わってきた。

驚かされるのは自分の仕事に対して、
「まだまだです」と常に言い続けていることだ。
そしてうまくいった事例よりも、
少し失敗した事例の話をよく聞かせてくれる。
「ここをもう少しこうすれば・・・」と常にさらに上を目指している。

新しいかたちをつくることにも余念がない。
「このかたちは他にやってる人ほとんどいないんだよ」
「これはまだ秘密なんだけどね」と言っていろいろ教えてくれる。

私が試作中のプロダクトについてもアドバイスをくれる。
「かたちになったら面白いことになりそうじゃん。
 まあ俺は忙しいから自分から塗らせてくれとは言わないけどね」
「そんなこと言わずに是非お願いしますよ〜」
「さあ、どうだかな〜」
といった具合にはぐらかされている。

巣山さんに認めてもらえるように私もプロダクトに愛情を注いでいきたい。
まだまだハードルはいろいろあるけれど、1つずつクリアしていきたい。
8月の初めにまたお会いできる予定なので楽しみにしている。


二人の「素敵」な人に共通することは、
自分の仕事に愛情、信念、情熱を持っている職人さんだということだ。
「素敵」だと思う感情は、見習いたいと思う気持ちからきているのだろう。

お会いして話していると、
自分の現在地が浮き彫りになってくるような感覚になる。
仕事に対する姿勢を感じて、自分の甘さに気付かされる。
そして前に進む力を与えてくれる。

「この人と一緒に仕事がしたい!」
「自分も愛情、信念、情熱を持って人生を生きたい!」

まだちゃんと想いを伝えられていないから、
今度しっかり告白しないとダメだな、と書きながら気付いてしまった。

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