どす黒く甘い煮え湯を飲み下して、甘美な一時と同時に腹を壊す。映画『JOKER』ネタバレ感想

昨日映画館で見た私にとってJOKERとは、タイトル通りの映画でした。
彼の笑い声が、今でも頭から離れない。

私のアメコミ知識は、MCUシリーズを一気見して、エンドゲームからファーフロムホームを見る程度、そしてデッドプールを見たくらいですか。

バットマンがいる、DCコミックス系列の話はさっぱり分からないのが正直なところです。だからこれがバットマンの宿敵であるジョーカーの物語とあって、「バットマンどころかゴッサムシティも知らんのだが」という超にわか。強いて前知識を上げるなら、しきりにニコニコ動画に上がっている『ジョーカーさんシリーズ』くらい。

そんな私が見に行って無事「面白かった!」と言える内容なので、全くの不勉強でも大丈夫です。ただ、R15指定なので、そういう内容も多分に含まれています。あとカップルで見に行く映画かなと聞かれたら盛大に首を横に振ります。視聴後に「面白かったねー!」と言い合うタイプの映画ではないので、これは致し方なしです。

さて、そんな映画の感想とか気付きとかを記事にしますので、当然ながらこの記事ネタバレが酷いです。既に視聴したよって人が、時間に暇があったら読んでほしいという内容ですので、未視聴の方は速やかに劇場へ行くかブラウザバックを進めます。

彼を縛り付ける6つの鎖

人間には1人1人、その人で成り立つための鎖があり、アーサーにとってもそれがありました。アーサーをアーサー足らしめていたのは、大きく分けて以下の6つ。

・体が不自由な母の介護
・自身の病気、それを抑えること
・隣人への恋心
・父親への憧憬
・承認欲求
・上手くいかない仕事

これら全てのタガが外れたことにより、人ならざる怪物へと変貌してしまったのが、今作のアーサーであり、JOKERです。

これら全てが備わっていた序盤、アーサーが長い階段を上るシーンを覚えてますか? あの時、空模様は暗澹としていました。未来への展望もなく、浮かれることが出来ない彼の心境をそのまま表しています。
「それでもいかねばならない」という辛さが画面一杯に広がっています。

ですが、全てのタガが外れた後、警察に追いかけられる寸前、軽快な足取りで階段を下る彼を、日の光が照らしています。雨は晴れ、遮るものが何もない。「これから始まるんだ」という希望に満ち溢れています。

鎖について、1つずつ紐解いてみましょう。

母の介護

自分は体の弱い母を助けてあげねばならない。
恐らく彼が彼として成立する上で、最も重要な部分が母の存在です。しかし、そんな母が自分に対してついていた嘘が発覚し、殺めてしまうシーン。

実のところ彼は、もっと前に母への殺意がありました。
初めての銃を貰って、撃つ真似をしているシーンです。あの時、テレビ、そして椅子に向けて銃を構えていました。母がいつも座っている椅子です。

彼女という足枷がなければもっと自由になれるのではないか? という、潜在的な疎ましさが溢れた、印象深いシーンでした。

誰しも、疎ましいと思う人物は存在します。愛しているけれどもそういう思いを抱くこと、「可愛さ余って憎さ百倍」という言葉が存在するように、どこにでもありふれた感情です。アーサーにとってはそれが母親でした。

母を守るという最大の枷を外した彼の心境、天気は、晴れていました。

自身の病気

先天性の病気ではなく、虐待によって受けた笑病。それは彼の人生において大きな影を落としています。これをどうにかしたかったから、福祉センターに通って薬を貰い、抑え込むという日々を送っていました。

ところが、ゴッサムシティという町がそれを許さなかった。予算の大幅カットにより、福祉センターが廃止。薬を入手する術が失われたのです。

母に次いで重要な問題は、JOKERになったことでようやく解決します。周りに合わせるための薬に頼ることを捨て、周りに合わせる必要がないと吹っ切れたからです。狂人になればいいやという最後の一押しになりました。

隣人への恋心

マンションの同じ階に住むシングルマザー。何故かアーサーにその気がある素振りをし、彼の愛を受け入れ、いつも心の支えになる。しかし、その愛をはぐくむ時間の全てが彼の妄想からできたものであることが、終盤で明かされる。

この恋人というものに、私は中盤辺りから違和感を感じていました。
あまりにもアーサーにとって都合がよすぎるのです。ストーキングしても笑って許してもらい、誰からも笑いを取れないライブで笑ってくれて、娘がいるのにデートを重ね、いきなり自宅に押し掛けてキスしてもすぐに受け入れる。

「こんな彼女が欲しい」というアーサーの欲望丸出しの、実に都合の良いキャラ。娘が一切登場しない、それを気に欠ける様子もない、母親としてどうなのだろうかとさえ思っていましたし、何事かをする時彼の行動を肯定する毒婦だと感じていました。(地下鉄殺人ピエロに対する称賛など)

結局は彼の妄想。自宅に上がり込んだアーサーへの反応は、恐怖と怯え。
その後アーサーが彼女をどうしたのかは定かではありませんが、明確な描写がないので「殺していない」と判断することにします。そう思う具体的な理由は後述します。

父親への憧憬

アーサーにとって父親とは、最後に残されたおぼろげな希望です。
ですが本当の父親は分からない。ウェインも実の父親ではなく、母の妄想がでっち上げた偶像である。

トイレでウェインと話した時、アーサーはしきりに自分の事をアピールしました。まだ彼が父親だと信じているからこその行動ですが、それはウェインにとって頭のイカレタ男の妄言にすぎず、拳一発で黙らせました。当然。

承認欲求

コメディアンとして大成したい。
多くの人に知られたい。
自分の存在を認めてほしい。
アーサーの中に渦巻く卑屈な劣等感が、【ここに居ていい理由】を欲している。しかし、上述の通り彼を救うものは存在しない。

コメディアンとして生きたいが、笑病のせいで叶わない。
多くの人に知られたが、それは見世物小屋の動物を見るかのような笑い。
自分の存在を認めてほしい父親も恋人も存在しない。

大衆に知られて有名人になりたいという彼の願いだけは、歪な形で叶えられたが、それが彼にとってどれだけの絶望だったかは伺い知れない。
憧れのテレビ、司会者の人に馬鹿にされ、真っ当なコメディアンとしての道は閉ざされた。彼の中にあった真っ当な承認欲求が、黒く染まってしまった瞬間である。

上手くいかない仕事

ゴッサムシティは人心が荒廃・腐敗している。ゴミがたまり、放火や殺人が当たり前になり、治安は最悪だ。与えられる仕事も隙間産業でしかなく、ピエロとしての職務も全うできない(病院慰問の銃落としは自業自得だが)。

元より要領がいい人間とは言い難いアーサーだが、その原因は恐らく虐待の後遺症。福祉が充実した場所なら別だが、ゴッサムシティでそれは望むことが出来なかった。

「自分は真っ当に頑張っているのに、電車内の音痴どもみたいなのが世間でいうエリートで良いのかな」という思いはあったはずです。

ちなみに彼が仕事を辞めたとき、意気揚々と外へ出ると光で満ちていました。心がドンドン(駄目な方向に)明るくなっています。

斯くして、6つの鎖は解き放たれた

失うものもない、後悔しかない人生、彼という怪物を生み出すのに必要な条件は、「愛」1文字が足りないばかりに生み出された。

狂気と踊る狡猾な男、JOKERとして。
彼が行った殺人は、劇中7人。いずれも彼の、その時の気分で殺められた。

・エリート3人
見知らぬ女性に絡んでいる人心腐敗した3人。この時JOKERは、女性から自分に標的を移すために笑ったのか、本当に音痴だったから笑ったのか。ともかく、彼の心境は最悪だった。電車内が灯と闇で交互に移り変わる映像は、まだここで踏みとどまれるぞという心の葛藤があったのだろう。結局2人を射殺し、足だけを撃ち抜いた男も逃さずに追いかけ、射殺。恐ろしいのは、銃を扱うのが初めてなのに、AIMがばっちりな事であろうか。はたまた、執拗に絶命した相手に、追い打ちをかけることだろうか。
因みに殺人をする彼に、私の口角は釣り上がっていました。
彼の殺害により、ゴッサムシティではピエロへの神格化が始まります。

・母親
自分への嘘をついていた母親への報いは、窒息死だった。銃殺、刺殺と、血の吹き出るのが常な彼の殺人手法の中で、唯一流血を伴わない方法だ。これを慈悲と捉えるべきか、「もう話(絶叫など)も聞きたくない」という嫌悪の発露なのか。

・仕事仲間1人
人気司会者の番組出演前、彼の自宅を訪れたのは、かつての同僚であるノッポとチビの仕事仲間。ノッポが警察から調べを受けたことを明かしますが、彼はそもそも仕事場にてアーサーに拳銃を渡し、仕事場での立場を悪化させ、エリートへの衝動殺人の切欠を与えた人物です。恨みは少なからずあったでしょうが、別段殺害リストにはありませんでした。「拳銃を渡したことで立場が危うくなる」という保身を言ったからか、それが引き金となってノッポを殺害します。首をハサミで切って、眼孔をハサミで突き、何度も執拗に壁に打ち付けて。劇中で最も入念に殺しています。
居合わせたチビも口封じに殺すかと思いましたが、あっさり見逃しました。仕事場で優しく接してくれたからだと言います。こういう義理人情ある人間なのにJOKERになってしまったのは、数々の運が巡らなかったからとしか言えません。

・司会者
自分を嘲り、世間から笑い者にされる原因を生み出した相手。憧れが全てひっくり返り、憎しみしかわかない相手に、JOKERは口論と銃殺で報いました。会場を笑いではなく悲鳴で染め上げ、やはり絶命後に一撃心臓を撃ち貫いています。この映像が速報で流れるや、ゴッサムシティは燃えました。汚物が汚物を燃やす地獄絵図、ピエロの頂点に君臨したJOKERは、連行されるパトカーへ向けられる、畏敬の念と興奮、歓喜の雄たけびを聞いて、自分が彼らの感情をここまで沸き立たせたのだと満面の笑みを浮かべます。

・ラストシーンの女性
退出後に、スリッパにべっとりと付いた血が物語っています。しかし、本当に殺したかは不明。
福祉センター時代は、自分のジョークを聞いてほしい、自分の事を理解してほしいと訴えかけていたアーサー。しかし、ここでは話を聞いてくれる、乗り気な女性に対して「理解できないさ」と突っぱねる。彼にとってはもう、他人が自分をどう見ているかなど、些事なのでしょう。

・恋人は殺した?
殺していないと思います。理由は、チビを逃したこと。ラストシーン以外のアーサーには無差別殺人というものが存在せず、理由あっての殺人が殆どです。妄想の恋人は彼を裏切ったわけでも、糾弾したわけでもありません。ただ、恋を失った文字通り失恋をしただけであり、彼女への失望などがあるわけではない。また、殺した場合は明確な「血」や描写があるので、いずれもない彼女は生きていると思います。

最後に。

ちまたでは、この映画全てがJOKERのジョークではないかという考察などもあるようですが、私はありのままを信じるという事で、上記の感想を書きました。嘘でも真でも、どちらでもJOKERという存在が狂気に身を落とした悪魔であることに変わりはないのですから。

続編に関してはない方が良いかなと思っています。綺麗にスッパリ終わっているので、もうお腹いっぱいで胃もたれしています。

この上は何か別の映画で口直しをしなければいけないので、
次は話題の「すみっこぐらし」で汚泥を吐き出したいと思っています。

それでは、読了ありがとうございました!

サポート1人を1億回繰り返せば音霧カナタは仕事を辞めて日本温泉巡りの旅に行こうかなとか考えてるそうです。そういう奴なので1億人に到達するまではサポート1人増える度に死に物狂いで頑張ります。