機動戦士ガンダム 水星の魔女 15話感想「進んで何も得ずとも」

OP

 エリクト…

進み続けて全てを失った男

 進めば2つ手に入る。この言葉はいつだって、勝者だけの特権だ。「負けても手に入る物がある」だなんて、今のグエル君には口が裂けても言えない。

 スレッタに進路を向けて進み続けて、ホルダーを失い、ジェターク寮を追われ、学生という身分を失って、名前を捨てて、最後は父を手に掛けることになった。

 精神をやってしまった後、呆然自失のグエルを拾ったのはフォルドの夜明けのMS隊指揮官『オルコット』。

 いざとなったら盾にするために拾ったとは言うし、3日も物を食べないグエル君に無理矢理飯を流し込むように食べさせようとするなど、一見非情な扱いとも取れる行動の数々。……だが、オルコットの過去を鑑みると、盾にする気は半々なのかもしれないと思った。グエル君が「父さん」とうわ言のように呟いていたとしたら、放っておけなかったのかもしれない。

 それにGAND技術が(アゴを掴むという)乱暴ではあるけどグエル君の命を繋いだ。


綺麗事に当たり散らす

 にかにハラスメントをするノレアさん。現実を舐めてますよねとニカへの当たりがきっついお方。

 ぶっちゃけニカにあれだけ酷いことしておいて同士でいろというのが「現実舐めてますよね?」という話だわ。そもそもニカ姉に強烈なアーシアン万歳思想とかそういうのがないのは分かりきっていた話で。

シャディク「あの子?ただの連絡係、兼トカゲのしっぽ」
シャディクガールズ「多少暴力振るわれても仕方ない存在」
ノレア「13話で踏み殺そうとしました」
ソフィ「13話で焼き入れた」

 何でこれで自分らに協力してもらえると思っているんや???? 恐怖で支配しようってのならば大失敗だ。

 離反の可能性をシャディクガールズのスピリチュアル担当さんは見抜いていたわけだが、特にフォローしたわけでもないので、こりゃあノレアさんやフォルドの夜明けも、体の良い鉄砲玉でしかないんだなと思うよ。

 ニカの裏切り行為によって同士や避難民が危険に晒されるとノレアさんは恨み節、そして反論するニカ姉に「どのくち」ラッシュと冷静さが一切ない。君たちの目指す理想の先には現実(今)以上の幸福があるとして、そこには管理整備された綺麗事がのさばる。結局今のまま突き進むと、後述する戦争シェアリングの良い餌のままで希望は幻でしかないし、欲しい物など一切手に入らないまま生涯を終えることになる。

 先週エラン(5号)から「似た目のヤツがいた」と評価を受けていたが、エランさん(4号)はそもそも自分の生涯に希望を一切抱いていなかったし、死ぬ寸前になって初めて希望を抱いてこの世を去った。ノレアはこのままだと「一見悲観的な現実を受け入れてはいる、が。最終的に幸せになれると夢想している」一番現実の見えていない子になってしまう。

 この子の言う現実とは過酷かもしれないが、ソフィや親しい同士の一緒に生きてハッピーエンドな世界を欲しているなら、まだ現実(MSの性能差、敵の資産力、軍事力等)を直視できていない。直視しているなら感情的にニカを踏みつけまくるなんて生産性のないことをしない。

 そもそもソフィが死んだのニカ姉関係ないし。ソフィが勝手に突っ込んでエリクトを目撃して自滅しただけだし。ソフィに文句言ってくれよ!

戦争シェアリング

 今現在、宇宙企業が不可侵として取り扱う「戦争シェアリング」なるもの。まあ要するに定期的に戦いの火種を適度なタイミングで引き起こして、軍需拡大をして利益を得るという仕組みなんだろうよ。

 13話でペイル社が、テロ事件にジェターク社MSが用いられていたことを詰る際、

「顧客管理がなってない」と言っていた。つまりはテロ組織(反乱分子)と相反する治安維持、或いは戦争の火付け役への客がいるということ。そりゃあわざわざ弱い立場のアーシアンに強い機体を売ろうとは思わんよね。大富豪ってトランプのゲームでもそうだけど、強いやつは強いカードを持っていつまでも強い存在のままでいようとする。

 宇宙から戦争をうまい具合に引き起こして利益を得る。その利益を生むためにはMSのテストが必要になる。だからMSを扱う学園がある。テスト用の「決闘」システムが有る。そこにアーシアンが入学できる理由はよくわからないが、まあシャディク辺りが上手いこと取りなしていたんだろうよ。

 そいでシャディクさんは今回常に「サリウスの上から」物を言ってた。戦争シェアリングの取り潰し、代わりに抑止力をアーシアンに与えて均衡状態にすれば、軍需はそのままにアーシアンも大人しくなり平和で良いという理想論を突きつけた。

 この計略を知ったサリウスは青冷めるとか、観念したとかの表情ではなく

「失望したよ」と心底がっかりした表情だった。それは裏切られたからとかではなく、現実をまるで理解出来ていないこと、理想主義を装っているようで全く隠しきれていない野心。そして「それを実行できれば全てが解決する」と本気で思っているのだろうと悟っての溜息だ。

 あれだけアーシアン差別や抑圧が激化した世界で、アーシアンに同程度の武装を与えた場合、スペーシアンへの挑戦、その後スペーシアンを撃破しても、アーシアン同士での主導権を巡る内乱で、血で血を洗う大混乱が巻き起こるのは火を見るよりも明らかだ。そりゃあもうエゥーゴとティターンズが地球連邦軍同士での内乱をしたように。

 この仕組み自体を変えるというのは、本当の意味で取り返しがつかない。そしてその結果はアーシアンにとっても劇毒になりうる。

父よ

 箱庭の中でしっかりと育てられたグエル君だが、今はトイレの中に拘束されても一切抵抗しないほど心身ともに最底辺の状況下にある。

 鎮圧目的にドミニコス部隊……ではなくセキュリティフォースが、フォルドの夜明けアジトを攻めるという情報を掴んだナジ。避難民の移動を最優先にするが、殿はMS部隊となった。

 夜。

 拘束されたままのグエル君に向けられる凶刃が光る。が、オルコットによって阻止された。

『シーシア』は例のテロの日、父がそこにいた事。そして帰ってこなかった事への憤りをグエル君に言葉で吐きかけた。「父さん」という子供にとって唯一無二の存在。厳しかったし色々強引な手法を取る親だったが、どんな目にあっても決して父への恨み言は吐かなかったグエル君。

 もう良いんだ終わってもと半ば自分の生きる先に希望がないと諦めたような無抵抗っぷりで、拘束が解かれたあともしばらくは動かなかった。だが、会社が潰れるかもしれないと聞くと、「家族」のことを思い出して必死の表情へと変わる。序盤あれだけイキり散らかしていたグエル君の面影はもうないが、私は今のグエルくんが断然好きだ。

勇み足のミス

 先に手を出し、交戦したこと。「MSの性能の差が、戦力の決定的差ではない」とはかの有名な赤い彗星も言ってたが、実戦経験も乏しいとなったらもうこれは無理。戦争シェアリングによって入手できるMSの性能差に開きがありすぎるし、1機ならまだしも4機の小隊だ。ドミニコス隊よりは格下とは言え、元ドミニコス隊のオルコットがいても真正面から勝てる戦力差ではない。それなのに恐怖で正しくない引き金を引いたことが最大のミスだった。

 そのままなし崩し的にミスを積み重ねてしまい。結果、本来死なずに済んだ命が数多く死に、代わりに敵部隊を壊滅させることができた。……一矢報いはしたが、次が来たらなすすべがないだろう。


見捨てる覚悟

 施設爆撃目的のミサイルで学校が爆破。衝撃で天井が崩落し、シーシアの友人セドだけとオルコットだけは無事で、シーシアは頭部から酷い流血。グエル君は押しつぶされた状態で生死不明。

「もう助からない」と早々にシーシアの命に見切りをつけるオルコットだが、薄情だとは思わない。既に敵機がいて交戦中、同士達は避難中で、治療器具や輸血キットなどあるはずもない。止血しても間に合わないしこの環境下では死ぬしかない。半端に助けようとして、オルコットが戦場に出なければ仲間たちが死に、避難民たちもどうなるかわからない。

 出来ることなら助けたかっただろうが、無理なものにはすぐさま見切りをつける覚悟。指揮官としての責任を伴う見捨てる覚悟。これがないとフォルドの夜明けとして活動できないんだろうな。

 しかしGAND技術の義手があって実戦慣れしているオルコットはともかく、セドが無傷に近い状態だったのはきっと直前にグエル君が庇うように助けたからかもしれない。


その気持につける名前をまだ知らない

 自分を殺そうとして、散々詰ってたシーシアが「父さん」と息も絶え絶えに呟いたのを聞きつけたグエルくんは、彼女を背負って銃弾爆風百花繚乱の戦場に飛び出す。

 

何でそんなことをするのだろう。

 先程オルコットの下した判断通り、シーシアはもう助からない。今から駆けつけても失血死する。仮に間に合っても輸血キットが有る保証はない。

 それでも。自分が何をしたいのかわからなくても、動き出した。絶食すること3日、食事と言っていいかわからない流し込みで心身ボロボロの状況下、当て所もなく避難民たちを探すため走る。

「何がしたいんだ俺は」

 スレッタに負け。自分の気持ちを伝えても避けられ。父から勘当を言い渡され(たと思っている)。何かを求めて名前も立場も捨てて学園を去って。気づけば父親を殺していて。流れ流れた地球の地獄に降り立った。

 名前も知らないアーシアンの少女が「父さん」と呼んだだけ。それだけのために。

「助けてほしい」という微かな希望に手を貸すためだけに。

 偶然見つけた死体付きのMSに嘔吐する、でも死にかけのシーシアを見て乗る決意を下す。死体を取り除いて、血まみれのコクピットに電源を吹き込み、空を飛んだ。向こう見ずな行動によって撃たれてもおかしくなかったが、一瞬出来たスキを無駄にしなかったオルコットによってその場は救われる。

 取りこぼしたくなかった少女の命が手に届く範囲で息絶えても、グエル君は少し憔悴しただけで精神をやられることはなかった。

 見捨てる覚悟はない。失うと半ば分かっていても、見知らぬ誰かの命だとしても、一縷の望みに全身全霊で挑む。グエル君……否、グエル・ジェタークはそういう男なんだ。


覚醒

 1期OP主題歌『祝福』。

 歌詞を振り返ると、空を飛んだし、答えを知らないことやら、掴むものをなんとか見つけたなど、グエル・ジェタークのことを歌っているようにも聞こえてくる。

 シーシアの墓を作って「失ったことを忘れない」と心に刻んだ彼は、オルコットに軌道エレベーターへの道を聞いた。捨てて失って逃げ出した先に楽園など無かった。その先に何が待っていようとも、進むことを選んだ。他ならぬ彼自身の意志で。名もなき意思に答えを見出すために。
 ……あれ?? 本当に誰が主人公なのかわからなくなってきた。


サポート1人を1億回繰り返せば音霧カナタは仕事を辞めて日本温泉巡りの旅に行こうかなとか考えてるそうです。そういう奴なので1億人に到達するまではサポート1人増える度に死に物狂いで頑張ります。