【短編小説】Vtuberがしたのか、Vtuberの魂がしたのか

「夢を見ている奴には悪いけどな。実は私は非処女なんだわ」

 Vtuber綾瀬川晴美。かつて大手Vtuber企業に所属していたが、自身に課した期日をもって引退する。その後熱烈なファンの支援により、新たなる体を得てVtuberを続けるに至り、魂の姿でのYouTuber活動も開始した。姿を変えると同時に本名なども変えたが、ファンの間では一切定着せず晴美だ。

 その晴美が定期的に行う飲酒雑談配信。旅行した場所の写真やそこでの珍事などを話していくもので、赤い髪の美少女Vtuberとして配信している。

「やー、配信を見てくれる人は分かってくれるんだけどな。そもそも私の性格で処女だったらそれはそれでおかしいだろって。思うわけさ。処女好きな人にはマジで、マッジで申し訳ないんだけどな―」

コメント欄『マジかよ』『知ってた』『解釈一致』『何人と?』

 登録者数8万人、同時視聴人数3000人超え。深夜の酒飲み雑談にしては多めの人数で、彼らを前に酒を飲みながら配信している。

「そういう夢を破壊しておいて、もう一回夢見せるってお話なんだけど、興味あるよな? よおし今日はそれについても話そうか」
『はい??!??!!!?』『俺たちの意見一切なくて草』『俺も百〇梅酒飲もう』

例えば晴美が結婚した場合

「私がTwitterで、結婚報告をしたと仮定してな」

『結婚したのか…俺以外の奴と』『わたくしと結婚してください』

「それって、実写の私が結婚したわけであって、今皆が見ているこの姿の私が結婚したわけじゃない……ってのは分かるな?」

『それはそう』『うん』『当然んじゃろ..!』

「しかしおかしなことに、この姿の私が結婚したんだと騒ぐような奴がいるんだ。こっちの私は、あっちの私とは違う。ダンスとか踊るときとか、目の保養には便利な体だけども、私が魂……で合ってるかな? そう、魂を入れて動くし喋る」

『幽体離脱?』『ほうほう』『つまりこっちは処女なんだな(ニチャア』

「キモいコメントあったけどそう、こっちの私は……もしかしたら処女かもしれんぜ。魂の方は非処女だが、こっちはどうか分からない。明言はしないシュレディンガーの猫って奴だな」

『おほー』『苦しい言い訳で草(500円スパチャ)』『初体験は誰と?』

「おっ、スパチャありがとうな、って言い訳じゃねーし。まああれよ。Vtuberにどこまで夢見るのかってお話さ。魂の方の私には夢抱くのが既に間違っているけど、こっちの私に夢抱くのは別に良いと思うよ」

例えば晴美が良からぬことをした時

「まあ、解釈の仕方は色々あるんだけどな。あともう一つ。私が例えば…非道な事をした場合は、多分この姿の私も多少の損を被る」

 持っていたレモンハイをぐびぐびと喉を鳴らして飲む晴美。男らしい飲みっぷりにコメント欄が乙女になっていた。

「道端の1000円をねこばばしたとか、理由なく人を殴ったとか、そういうことを中身の私、魂がした場合。実写・2D・3D全部一纏めに【私】が責められるわけだ。2Dの私も、3Dの私も悪くないのにな。だが魂が汚染されると汚れが移るって考え方もあるわけ。そこを切り分けられることが出来ないって人が結構多いんだわ、それを否定はしないけど面倒くさいと思う」

『でも全部晴美だし』『全員悪役』『アウ〇レイジ』

「まあでも、私の場合はまだいいよ。実写でも活動しているから、切り分けやすい。そうじゃない奴は、躓くとキャラのイメージが酷いことになる。Vtuberが魂次第とか言われるのはそういうこったろうな」

 控えてあったつまみを取ってほお張る晴美。特に深刻な顔はしていない。

人によりVtuberの解釈範囲が違う

「私生活でも配信でもキャラを通せって人もいるし、切り分けてもいいって人もいる。私は面倒くさいから切り分けているけど、別にキャラの押し付けだってそう悪いこっちゃない。その方が妄想も膨らむってもんだから。何をもってVtuberと認めるのか、その解釈のヒック範囲ってさ、皆違うんだわ」

『ルールを守って楽しくデュエル!!』『難しい』『そういうの面倒くさいんだよなVtuber界隈』『しゃっくり助かる』

「……気を付けてほしいのは、『そうあるべき』と思うのは勝手だけれども、それを発言して指摘するのはまた別問題だからな? 仲がいいVtuberとか、私の場合はアリアか。アリアと一週間くらい会ってないけど、晴アリてぇてぇ民としては供給がないわけで、辛いだろ。そう思うのは良いけど、『またコラボしてください!!』とか『不仲なんですか??』とか聞くのはやめといた方が良いぜ。特にアリアには。未だにアイツ、結構気にするんだよ。自分の中にある常識の範囲は、他人の常識の範囲とまるで違うことを覚えておこうぜ。じゃないと、独りよがりで迷惑な主張になるからな」

まとめ

キャラクターとして見るVtuberと、一人の人間として見るVtuberと。楽しみ方は様々だ。生きているんだと思っているなら猶更大切に扱ってやれ。何か文句言いたくなったりしたら私の配信に来な。スパム以外なら色々話すからさ。あとよっぽど、罪犯していない限りは、自分の推しを信じてやれよ。思い通りには動かないけど、見てて楽しいのは確かなんだからさ」

 その後も配信は続いたが、真面目な話はこれを最後に途絶えた。コメントとの喧嘩と突発ゲーム配信で彼女の配信は終始賑やかだった。

サポート1人を1億回繰り返せば音霧カナタは仕事を辞めて日本温泉巡りの旅に行こうかなとか考えてるそうです。そういう奴なので1億人に到達するまではサポート1人増える度に死に物狂いで頑張ります。