【短編小説】Vtuberへの支援について
※この小説はフィクションです。
2ヶ月前にVtuberが好きになった。YouTuberとは違う、アニメキャラみたいな見た目で動画投稿や配信をする人のことをVtuberっていうらしい。僕も詳しくはないけど、楽しいから別にいいかって思ってる。
たくさんいるVtuberの中で最も好きなのは、女性Vtuberの『窯うさみ』ちゃんだ。登録者数8万人で、配信同時接続人数(同接)は最低でも2000人。噂によれば「登録者数の1%以上が同接にいたら大人気」らしいので、うさみちゃんは大人気Vtuberなのだろう。設定年齢は18歳と、僕と同年齢ではある。でも絶対に、最低でも干支一周分は離れているってわかるほど話題がズレてる。皆そこは濁す程度に触れるばかりだったから、僕もそれに倣って言葉を謹んだ。
SNSで好きな絵師さんがその姿を手掛けたと呟いていたから、興味本位で見続けてドはまりした。トーク力が軽快で、ゲームも緩めのRPG配信が主。激しいFPSゲームが苦手な僕には本当にありがたかった。だって殆どの人がFPSメインでやっているんだもの。
噂によれば、窯うさみになる前は、登録者数30万人もいた有名Vtuberだったらしいけど、引退してしばらく経ってから復活デビューしたらしい。その当時のファンは一様に「初めまして」と言うばかりで、前の姿について言及しなかった。僕は最近Vtuberの文化に触れたばかりだから、何で「復活嬉しい」と普通に言わないのかわからなかった。そしたらSNS上で親切なファンが教えてくれた。
「引退には色々と理由がある。それは本人や関係者じゃなければわかり得ないことばかりだ。いつか君が社会で働いたりすると、過去の詮索をしないことの重要性も分かってくるはずだ。円滑な関係は多少の気遣いも必要だ」
大人になってわかればいい。でも、最初からたくさんのファンが付いてきている以上、以前も素敵な配信をしていたんだろうなってわかるから、今はそれでいい。
金銭支援
そうして彼女の配信を見ていると、勢いよく流れていくコメント欄に色付きのコメントも流れていく。スーパーチャットだ。単なるコメントよりも目立って、配信者の目に止まりやすくなる。一度に送る金額が増えるほど、コメントの残留時間も延伸して、より強く感謝される。
スーパーチャットがどういうものかを知るために僕は調べると、僕は投げる事ができないと思った。クレジットカードが必要だ。しかも投げたお金の内3割は、動画投稿・配信の運営に持っていかれる。うさみちゃんは個人勢だから、残った7割が彼女のもとに届く。
コメントを読んでもらえるかは運だ。忙しい操作を必要とするゲームをしている時に1万円を投げられても、スルーされることがある。1万円を投げた人はその後しばらくSNS上で荒れて、最近はすっかり配信に来なくなった。やっぱりお金がかかっている以上、無料のときとは違うナニカ思い入れや執着が湧くのだろうと思った。
仮に僕がうさみちゃんを嫌いになるなんてことがあるとしたら、それは怖いことだ。彼女の可愛い喋り声も、時々下品な一面も好きだから、好きでいたい。
じゃあ他には何があるかって、FANBOXとか、ほしいものリストとか、出来るだけ還元率の高いものを選べばいいとか色んな人はおすすめする。でもほとんどクレジットカードが必要だ。社会に出ていない僕には作れない。そして自分の生活費だけで結構かつかつだから、正直余裕もない。
絵支援
窯うさみちゃんのファンはかなり太い。体型のことではなく、支援が手厚いって意味で。スパチャも配信中に赤(1万円以上)が何度か送られるし、サムネ絵も皆が「使ってくれ」と贈ってくれる。
無償でそれだけのことをしてくれるって皆凄いなとか思ってた。でもよく考えれば、人気配信者のサムネに使われたりすれば、それは自身の宣伝になるわけで。宣伝にもなるし、推しの助けにもなるし、感謝もされるって、誰も困らないのに一杯嬉しいとか、本当に羨ましい。
かと言って僕の絵は下手くそだ。そもそも絵をあまり描かない。だから絵で支援とかは出来ない。その機材もないんだ。
石油王さん
結局僕に出来るのは、学校に通いながら友人とだべって、勉強して、配信告知を拡散したりするくらいで、正直無力感に苛まれていた。去年の高校受験シーズンにVtuberにハマっていたらやばかったと思う。
バイトしてVtuberへの金銭支援しようかなとか考えたりするけど、そんな理由で大学の勉強疎かにしたら、入学金も大量に出してくれた親に申し訳ない。でも、1銭も払わず見ているばかりで、絵も描けない僕は果たして推しに必要とされるのだろうか。最近、そんな卑屈なことばかりを考えてしまう。ぶっちゃけ僕がいなくても、スパチャを投げる人は大量にいるし、絵だって沢山あるんだ。見ていると面白いはずなのに、最近は段々辛くなってばかりで。7日間彼女の配信をまともに見ることが出来なかった。
僕も、高額スパチャを支払ったり、絵を描けるようになれば、こんな思いをせずに済むのだろうか。
僕はある人に相談した。彼女の配信で赤スパチャを頻繁に投げている人。SNS上でメッセージを送った。僕の劣等感の全てを綴ったために長文になったけど、快く返信をくれた。
「君は1年後。うさみちゃんを愛しているだろうか。2年、3年後。或いは彼女が炎上した時、彼女の横にそれでも居るだろうか。1万円を工面して1ヶ月後に唐突に引退されても大丈夫かな? 私はそれでもかまわないし、生活に困らない程度の支援しかしていないから、別に後悔はしない」
あれだけの金額を「生活に困らない」と一蹴するのも凄いけど、そうか、引退か。Vtuberの引退とかそこまでは考えていなかった。そういうリスクも考えて然るべきだった。それに僕はまだ彼女を知って1ヶ月程度しか経ってない。1年後も同じように応援できるかって言われても、よくわからない。……そうだ。彼女は僕の恋人とかじゃないし、数万円程度払っても恋人になれるわけじゃない。ソシャゲだってそういう理由で止めたじゃないか。
僕とこの人は次元が違う。この落ち着いた物腰から見ても、多分干支2周分くらい離れているかもしれない。社会人の中でも要職についているのだろう。
「大学生なら、卒業後に就職すれば良い。そのための勉強や経験を積むべきだ。今適当なバイトをすれば、自由に使えた時間を棒に振る。私は金があっても、時間がない。絵を描いたりする事も出来ない。だから即物的に、金銭での支援をした。絵師の方もそう、自分の得意分野を武器に推しへの感謝を伝えている。 何事も感謝から始まる。 無理を押した感謝は自分を痛めつけるし、やがて見返りを強く求めるようになる」
そうだ。今から大学の勉強の合間を縫ってアルバイトしても、月に10万円もいかないだろう。へとへとになるし、うさみちゃんの配信だって見れない。貢ぐばかりになって、辛くなるだけだ。1万円スパチャして荒れた人もそういう無理を押したんだろう。それよりも自分に出来ることをするべきなんだ。その方がよほど建設的だ。
それから
大学2年生。単位取得は当然出来ていて、勉強はより一層頑張っている。配信も見る。窯うさみちゃんの配信だ。相変わらず可愛いし、最近は別のことのコラボもするようになって、登録者数も先日20万人を超えた。
嬉しかったのは彼女のサムネに、僕の描いた絵が採用されたときだった。その日は涙が溢れてばかりで、大学も休んだ。
あの日のやり取りのあと、僕は短期バイトなどでiPadとペンを買った。それを使って絵の勉強もした。10万円を超える買い物だったけど、自分への投資として物凄く役立った。
いつかうさみちゃん以上に魅力的な推しに出会った時、お金をあまり持っていない僕にはスパチャの連投なんて出来ない。けれども、そうではない技術や、いずれお金になる勉強の蓄積はどんな場面でも役に立つだろう。
焦ることはない。今は沢山のファンが支えている。僕はまだまだ未熟だけど、いつかはより強く支えられるようになりたい。今日も元気に配信する推しを見て、そんな想いを強くするのだった。
終
サポート1人を1億回繰り返せば音霧カナタは仕事を辞めて日本温泉巡りの旅に行こうかなとか考えてるそうです。そういう奴なので1億人に到達するまではサポート1人増える度に死に物狂いで頑張ります。