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『曳き舟』(Remorques) 1941

 LAで映画の修復やブルーレイのリリースをしている若き友人は、やはり在宅生活を強いられており、もう3週間目に入っている。5月いっぱいまでこの状況が続くのではないかと憂えていた。そんな中、ストリーミングでこの映画を観て面白かったという。

 フランスのジャック・グレミヨンという監督の名前すら知らなかったけど、主演のジャン・ギャバンはもちろん知っている(僕の母はそれなりに映画好きで、『望郷』の話はよく出てきた。その時に「ペペ・ル・モコ」というこの映画の原題であり、ギャバン演じる主人公の役名も必ず口にした)。そして脚本の一人で台詞も担当したのは、故・高畑勲監督が敬愛していたジャック・プレヴェールである。

 ギャバンの役どころは大きな船舶からSOSが来ると、それを引っ張りに行くための曳き船シクロン号(サイクロンってことですね)の船長アンドレ。その若い乗組員の結婚式から映画は始まるのだが(そこでアンドレがなんとなく頼りになりそうな船長であることが示される)、そのパーティーの最中、雨が降り出して、早速、海からSOSの知らせが届き、パーティーに参加していた乗組員たちは愛する妻たちの心配をよそに海に乗り出していく。アンドレにも10年連れ添った仲のいい妻マドレーヌがいる。海は大しけで必死の救助活動が始まる。ここらへんはミニチュアを使った特撮がけっこう長くて、なかなかの迫力である。

 なんとか救助する大型船にたどり着くが、どうもそっちの船の船長は船員たちのことを大事にしておらず、一緒に乗せている妻カトリーヌに対しても横暴な態度。そしてこの救命艇の出動料を払うのが嫌さに、船が岸に着きそうになると、曳いて貰っていたロープを切ったりする。

 怒ったアンドレは賄賂で懐柔しようとする船長にパンチ! とりあえず今回の事件は収束する。

 沖に上がったアンドレに、妻のマドレーヌは「そろそろ危ない仕事は引退して家でも買いましょうよ。実はあたし病気なの」とこれまで隠していた心臓病?の話をするのだが、アンドレは今一つ乗ってこない。

 そのアンドレをあの難破船の船長の妻カトリーヌがお礼に訪ねてくる。嵐の船の上ではお互いにツンケンしていた二人だったが、なんとなくどちらも惹かれるものを感じており、急速に道ならぬ恋に堕ちていくのだった……

 とまあ、アクションとよろめきメロドラマをいい塩梅でブレンドさせた映画で、仕事ばっかりしていると大事なものを失ってしまうんだよ、という教訓ドラマでもある。カトリーヌを演じるミシェル・モルガンがいかにも男をよろめかせそうな薄幸な役がハマるクール・ビューティーで、ギャバンの色男っぷりといいバランスだ。

 あと、ジャック・プレヴェールってやっぱりセリフに気が利いてるんですよね。この『曳き船』の前、やはりギャバンが主演した『陽は昇る』(1939…この映画は高畑さんが日本でのDVD化を切望されていた)、この後の『天井桟敷の人々』(1945)、アニメの『やぶにらみの暴君(王と鳥)』(1952)とそれくらいしか観てませんが、なんか、毎度、「おっ?」と思わせるようなセリフがある。字幕で観てるのでどれほどこちらがニュアンスを掴めてるのかは分かりませんが。この映画でもギャバンに「結婚して何年?」と聞かれたカトリーヌが「2年。人を嫌いになるには十分な時間でしょ」なんてね。

 やはり知っている人からのおすすめは素直に受け取れますね。そしてその通りに面白かったと思えるのは嬉しいことです。

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