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ボローニャ復元映画祭2020 DAY 3

ボローニャ復元映画祭のオンライン参加というか視聴というか……3日目のメモです。

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LADIES SHOULD LISTEN (1934)

ぱっと見、左がケーリー・グラントだってすぐには分からないかもしれませんね。ヒッチコック映画に出る以前ですが、公開年で30歳ちょうどくらいです。めちゃめちゃ若いというわけでもない。彼を主人公にしたラブコメです。尺も1時間くらいの軽いお話。全員英語で喋ってるのに、舞台はパリのお屋敷がメインで、グラントの役名もジュリアン・デュ・リュサックというフランス人(笑)。パラマウントの映画で日本未公開のようですが、邦題を付けるとしたら『淑女は聴いてなきゃ』という感じかな。電話交換手をしているヒロインが、電話の会話の内容から、いろんな女性からモテモテのグラントを好きになってしまい、グラントもまんざらでもない感じなんですが……彼は変ないきさつで金持ちの令嬢(写真右)と結婚させられることになり……そんな話です。基調の音楽が『嘆きの天使』(1930)でディートリヒが歌ったFalling Love Again(僕はブライアン・フェリーが歌ってるバージョンで親しんでます)のメロディーで、この頃は流行った曲はどんどん使う、という感じだったのかもしれませんね。まあ、楽に観られる楽しい映画です。

監督はフランク・タトル(1892-1963)、20年代初頭からハリウッドでスクリプト・ドクターをしていたのですが、すぐに監督になり、パラマウントで魅力的な女優をフィーチャーしたこういう軽いコメディを得意としていたようです。赤狩りの時に辛酸をなめた監督たちの中で、サイレント時代からやってた有名人は彼くらいのものだったとか。

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MELVILLE, LE DERNIER SAMOURAÏ (2020)

自分的には今日のハイライトはこれかな。フランスで、撮影所システムからは距離を置いて、デビュー作からすべての映画を自分で製作、監督し、やがて「ヌーヴェルヴァーグの父」としてゴダールたちにも敬われたジャン=ピエール・メルヴィルについてのドキュメンタリー。今年出来たばっかりの53分の作品。

僕はメルヴィルの熱心なファンかと言われると素直にうんとは言えないのですが(どの映画もけっこうヘンだと思ってます)、デビュー作の『海の沈黙』やアメリカにまで行って撮った(と言いつつ、屋内のシーンは全部、彼の自社スタジオで撮ったそうですが)『マンハッタンの二人の男』のDVDや『サムライ』のブルーレイを作ったりしたので、それなりに好きは好きですね。あ、このドキュメンタリーのタイトルは『メルヴィル、最後のサムライ』という意味です。

ドキュメンタリーとしてはまっとうな作りで、彼の人生や作った映画を順を追って解説。家族(彼は子供がいなかたので甥っ子が何人か)とか、彼の下で働いていたフォルカー・シュレンドルフ(『ブリキの太鼓』の監督ですね)とか、彼を敬愛してやまないテイラー・ハックフォード(『愛と青春の旅立ち』の監督ですよ。「なんでアンタが?」って感じもするけど)らの談話や、テレビ用の取材フィルムとして残っていた本人、ベルモンド、アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラらのインタビュー映像(けっこう量ありました)で構成されてます。

なにしろメルヴィルは戦争中にレジスタンス活動をしていて、ドゴールの片腕だったお兄さんとピレネー山脈を越えるといった映画さながらのアドベンチャーに身を投じていた人。メルヴィルはそのピレネー越えのあと、英国に逃れた時に「メルヴィル」を名乗るようになったのだそうです(本当の苗字はグランバック)。やっぱりそういう背景がある人じゃないと、『影の軍隊』みたいな恐ろしい映画は作れないですよね。ちなみにお兄さんとは途中ではぐれてしまうんですが、後年、ピレネーでおびただしい本の入ったリュックの隣に白骨死体が見つかり(頭には弾痕が2つ)、それがまさにお兄さんだったという話も映画みたい。

そういう経験のある人だからか、なかなか難しい人だったみたいで、リノ・ヴァンチュラはあからさまに嫌ってるし(『影の軍隊』の最後の頃は直接話をすることはなかったそうです)、かなり仲の良かったアラン・ドロン(インタビューでも「メルヴィルとやるのは何の苦労もない。彼の欲してるものを提供できてると思うし」なんて言っている)とも、最後の最後で仲たがいしてしまっている。

メルヴィルは自分のスタジオ、ジェンネルに試写室を持っていて、仲間たちといろんな映画を観ていたそうです。中でもロバート・ワイズの『拳銃の報酬』(Odds Against Tomorrow, 1959)が好きで、126回観た、と言っていたとのこと。僕ら日本人にはよく分からないけど、メルヴィル映画に出てくるお店とか部屋の内装とかは、実はフランスにはないもので、過去のアメリカ映画のセットを真似してるものが多いんだとか。とにかくアメリカのものが好きだった。

インタビューを見ていると、メルヴィルは声がいいですね。喋り方もいい(フランス語は分からないけど、なにかこうクールで心地よいニュアンスが伝わってきます)。若いころから何度か心臓発作に見舞われていたのですが(メルヴィル家、いやグランバック家の家系はそうだったんですと)、最後のそれが55歳の時に来てしまった。今の僕と同じ歳ですよ。

今もタランティーノやジャームッシュやジョン・ウーに影響を与え続けてる、というのがドキュメンタリーの締め。ちなみにこのドキュメンタリーの音楽は、『影の軍隊』『仁義』の音楽をやったエリック・ドマルサンが担当。ご存命なんですね。そうそう、メルヴィルはこんなことも言っていたそうです。

「2020年までには、『映画』は過去のものになっていると思う」

ある意味ではそうとも言えるし、そうでないとも言えますね。

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DONNE E SOLDATI (1955)

今日の最後はイタリア映画。今日もヘンリー・フォンダあったんですけど(『若き日のリンカーン』)、こちらにしました。マルコ・フェレーリという、イタリアのこれまであまり正当に扱われてこなかったプロデューサー~監督を再評価しようというプログラムの1本ですが、この映画では彼はプロデューサー。

これも日本未公開だと思いますがタイトルは『女たちと兵士たち』の意です。中世のお城が舞台で、そこで暮らしている侯爵と平民たちを今日でいうところのドイツ系の兵隊たちが襲ってくるんですね。ただ、城壁が高くてなかなか攻め入れず、城のふもとにキャンプを張って、彼らが外に出られないように兵糧攻めを始めるんです。それが長い期間になって、いよいよ城の中には食料がなくなる。女たちの幾人かがこれじゃやってられないと、夜中にこっそり城を抜け出して、敵のキャンプに食料をあさりに行くんです。そのうちにだんだん敵の兵隊と仲良くなって、城内にこれだけはあるワインの樽を持ち出して食料と交換してもらったり。やがて男女の仲になる者たちも出始める。最後は、戦うのは双方のリーダーだけで、一般ピーポーは和解して共存を始めるという、まあ、寓話的なお話です。

でも、けっこう騎馬戦なんかはしっかり描いていて、なかなか規模の大きな撮影でしたよ。1955年ということは『七人の侍』の1年後。まあ、あれほどの迫力はないにしても、『影武者』的な感じは出てたかな(数は足りてないけど)。撮影監督はジャンニ・ディ・ヴェナンツォで、この映画の8年後にはフェリーニと『8 1/2』で世界の度肝を抜く男です。この映画もボローニャでの4K修復版で素晴らしくキレイでした。

というわけで、また明日!

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