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「『幾多の北』と三つの短編」にいたるまで①


来る2023年1月27日(金)から3日間、東京・池袋の映画館、新文芸坐「『幾多の北』と三つの短編」と題した、アニメーションの作品集を上映します。全4作品とも、アニメーション作家・山村浩二が監督したか、プロデュースした作品で、初長編となる『幾多の北』と短編『ホッキョクグマすっごくひま』が山村さんの監督作、東京藝術大学大学院の教え子である幸(ゆき)洋子監督の『ミニミニポッケの大きな庭で』、矢野ほなみ監督の『骨嚙み』が山村さんのプロデュース作、ということになります。いずれも2021〜2022年に作られた最新作で、これまで内外の映画祭で4本合わせて既に50もの賞に輝いている賞泥棒。国内でもいくつかの映画祭では上映されてきましたが、一般向けの劇場公開はこの度が初めて、ということになります(東京の後、その他の地方でも順次公開していく予定です)。4本で、ほぼ90分ジャストのプログラム、山村さんのAu Praxinoscope(これは山村さんのギャラリー件ショップの名前でもあり、アニメーション制作・配給時の屋号でもあります)と、僕の勤めるWOWOWプラスという会社の共同配給という形で展開していきます。共同配給として、これまで弊社主導で修復したロシアのユーリー・ノルシュテインや、日本の川本喜八郎、岡本忠成作品の配給もお願いしたチャイルド・フィルムさんにも入っていただいてます。

ここ6年くらいの間に、僕は会社の仕事として、アニメーション関係ではユーリー・ノルシュテイン、川本喜八郎、岡本忠成といった作家たちの作品群を2Kなり、4Kなりでデジタル修復して劇場公開したり、放送したり、Blu-ray等のパッケージで発売したり、配信したりしてきました。それらは「アニメーションの神様、その美しき世界」というシリーズ名で括られていて、まあ大御所作家の「クラシック」と言えるような作品を取り上げてきたわけですが、今回はそれらとは違って、現役バリバリ、今の旬の作家たちです。これをやろう!となった経緯を、何回かに分けて(長くなるので)、書いていこうと思います。

山村さんと初めてお会いしたのは、弊社で2013年にリリースしたフランスのアニメーション『ファンタスティック・プラネット』のBlu-rayに封入するブックレットのために、作品を読み解いてもらうインタビューをさせてもらった時です。発売が9月でしたから、その前、夏頃だったのでしょうかね。ということは来年で10年、まったくあっという間です。実は山村さんのアトリエ兼ギャラリー兼ショップのある東京・世田谷区の九品仏には、僕自身、30年以上前に兄と一緒に住んでいた時期があり、その時のアパートはもう取り壊されてしまいましたが、その後に兄が移り住んで今もいる部屋が、そのアトリエからたった2軒お隣という偶然(笑)。

『ファンタスティック・プラネット』Blu-ray

そのインタビューでは、『ガルガンチュアとパンタグリュエル』などヨーロッパの巨人物語の伝統の話を絡めて、このアニメーションについて語っていただきました。ご自身の過去の作品からもその博識ぶりを感じてはいたものの、改めて「深いお人だなあ」と感じ入りました。

その後も前述のユーリー・ノルシュテイン(2016年〜)、川本、岡本(2021年〜)に関連して、パンフレットやブックレットのためにインタビューを取らせていただいたり、劇場でのトーク・ゲストに来ていただいたりと、ことあるごとにお世話になってきました。2017年の東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)でノルシュテインの修復版をかけてもらった際は、僕と山村さん、そして作品の音声の修復〜マスタリングをお願いしたオノ セイゲンさんの3人でトークをやったこともありました。奇しくもその会場は、今回の上映をお願いする新文芸坐さんでした。

ユーリー・ノルシュテイン作品集 Blu-ray

僕が初めて山村さんの『幾多の北』を見せてもらったのは、2021年の5月頃のことです。1時間を超える初めての長編作品で、2年くらいかかるだろうと思って作り始められたそうですが、新型コロナウィルスの流行で大学院でのお仕事とか、海外の映画祭関連で出かける用事などが停滞したがために、制作に集中することが出来、思いの外、速いスピードで完成したのだと。

それまでの最長の作品が『カフカ 田舎医者』(2007)の21分だと思いますが、そこから一気に3倍の64分。もちろん、大所帯で作る「アニメ」の世界では1時間半だ、2時間だの劇場用作品は沢山ありますが、こちらはほとんど個人制作、少人数のチームで作る世界ですから、それで1時間というのはなかなか大変です。そもそも、これまでずっと短編を作ってきた山村さんが初めて挑む「長編」とはどんな作品なのか……。

観終わって心のなかでつぶやきました。

「山村さん、とんでもないものを作っちゃったなあ……」

(続く)


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