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ボローニャ復元映画祭2021覚書き

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はい、今年もオンラインでいくつかの作品を観ております。自分用のメモですね。

まずはガストン・ラベルGaston Ravelという監督の1928年作『フィガロ』FIGARO。タイトルからわかるとおり『セビリアの理髪師』『フィガロの結婚』『罪ある母』っていうボーマルシェの三部作。オペラにもなってますね。映画はこの三部作を2時間にぎゅっとまとめたサイレントです。僕は全然オペラ知らないんで、改めてそれぞれのストーリーをちょっと読んだんですけど、結構込み入った話でね、これ普通に歌劇で見たら結構分かりにくいんじゃないの?って人間関係があったりするんですけど、映画はややこしいところはバッサリ切っちゃって。割とコメディタッチにまとめてあって面白かった。

28年なんですけど、全体の軸になっているフィガロがお仕えする主人が、愛を求めてあるご婦人の窓の下に、吟遊詩人みたいな出で立ちでお歌を奏でるんですが、そうすると音符がアニメーションでこう、ふわふわふわっとその女性の方に上がってくっていう風な演出があったり、あるいはテーブルの下に隠れてる女中(これが後のフィガロの妻)がいる時に、そのテーブルの画とそのテーブルの下、垂れ下がってるクロスの中に隠れてる女性の姿をダブルエクスポージャー=多重露光で合成してたり、そういうテクニックを使ってて、それも面白かったですね。まだ後処理の光学合成なんかできなかったと思うので、フィルムを巻き戻して、同じ位置に、同じタイミングで別の画を撮影するという一発勝負の合成です。上手くいってました。フランスと言えばリュミエール兄弟による映画発祥の国、そして『月世界旅行』なんかで知られるトリック撮影の神様ジョルジュ・メリエスなんかもおりまして、割と早くからこういう合成が使われてたのかな。

修復もすごい綺麗でした。1928年だからもうほぼほぼ100年前ですけれども、こんな綺麗なのかなっていうぐらい綺麗で。去年リバイバル公開されました『天井桟敷の人々』があれちょうど1945年の終戦の年にできたもので、あれ見た時も相当びっくりしましたけども、これさらにそれよりも20年近く前のものですからね。ゴーモンとCNC の共同で去年完成した2K修復版です。

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つづきまして1965年のベルギー映画『髪を短く切った男』DE MAN DIE ZIJN HAAR KORT LIET KNIPPENです。日本未公開かと思います、多分。変な映画でした。高校の先生をやってる主人公、可愛い妻子もあるんですが、女生徒フランに惚れていて、今日はその卒業式なんですね。それで今日こそは彼女にコクるぞ、と息巻いているキモ男なんですが、とにかく度胸がないのと、いろんなアクシデントが重なってそのフランと一言も話せずに卒業式が終わってしまう。ここまでがパート1的な感じで40分くらいかな。その後、主人公は裁判所勤めに職を変え、住まいも引っ越して、先輩の手伝いで、ちょっと郊外の方に、不審死で亡くなった人の墓を掘り起こしてそれを検死するという厄介な仕事に付き合わされる。なにしろそんな死体を見るのも初めてなので気分が悪くなっちゃったりして。主人公、何かにつけて潔癖な人であることがいろんな描写で表されてましたので、それがここで生きるんですね。ただ画面は棺桶を横から映すだけで死体は一切映らないんですが、多分そこにない死体を相手に、検視官2名がけっこうリアルな演技をして、さらにギコギコ骨を切るようなSEとかも入れて「うへー」と思わせるんですよ(けっこう長い)。画面に映ってないものを音で表す演出はけっこう巧みでした。冒頭で、タイトルどおり、主人公が散髪するシーンもけっこう細かい描写が長くてそれが面白い。床屋は東洋人のようで、俳優ではなくて本物の職人を使ったということですが、かなり特異な風貌で、それも良かった。

それで、この展開だと、最初に惚れてた女性フランがいい加減出てこないとおかしいよな~?と思い始めた頃、やはり出てきました。現地に逗留しなくちゃならなくなった主人公の取った宿にたまたま泊まっていたという設定。そして彼女は今や舞台女優になっており、そこそこ人気も出ているのだとか。

それで忘れたつもりになっていた主人公の恋の炎がまた燃え上がり、夜中にフランの部屋を訪ねてしまうんですね。どうせ「この変態オヤジ!」とかって展開だろうと思ってたら、「待ってました」とばかり、なぜかすんなりフランは彼を部屋に入れ、みたいな感じ。で、そこからですね、急に、サイケデリックというか、サイコというか、かなり映画はおかしな方向に転換するんですよ。件の不審死の死体とフランの関係が明らかになって、主人公は話を聞くうちに錯乱し、なんとフランを拳銃で撃ってしまう……さらにその後、男は病院のようなところの収容されてからの描写もしばらく続く……。

ベルギーでの初公開時はさんざんだったらしいですが、外国の映画祭でいくつか賞を獲ったことから手のひら返しで評価が上がったという、まあ、よく聞くような話ですが、そんな作品だそう。監督のアンドレ・デルヴォーAndré Delvauxという人は、ベルギーではシャンタル・アケルマンと並び賞される映画人で、国立映画館の創設者でもあるとのこと。

ベルギー王立シネマテークでの今年の2K修復。グレイの階調がものすごくキレイでした。

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 1959年のドイツ映画『ローゼ・ベルント』ROSE BERND。この時期、劇作家ゲアハルト・ハウプトマンの作品が相次いで映画化されたそうでその中の1本。大きな領地を持つ農家のお屋敷で車椅子の奥様の下女として働くローゼ・ベルントが、そこの旦那に手籠めにされてしまい、さらに近隣の工事現場で働く粗野な男からもいいようにあしらわれ……と転落していく女性の様と、周囲の男の身勝手さを描く、といった内容です。音楽がちょっと戦争映画なみの重厚さでちょっと話と合ってるんだか合ってないんだか……。

 2014年にフォトケミカルで修復されたプリントのコピーということで、パラとかは全然取れてませんが、時々ハッとするくらい色彩も鮮やかで抜けも良い。アグファカラーというともっぱら小津のことを思い出しますが、なんかあれとは違ったガッツのある画調で良かったです。



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