ボローニャ復元映画祭2020 DAY 5
『一瞬の夢(小武)』(1997)
ジャ・ジャンクー(賈樟柯)の映画、実は観たことがなくて。今回、この16mmの長編デビュー作の4K修復版で初めて手合わせ願いました。
スリの常習犯である主人公・小武(シャオウー)の、うだつの上がらない、冴えない日々を描きます。ジャ・ジャンクー、1970年生まれということで僕より6歳下ですが、まあいかにも同世代の人の撮る、撮りそうなインディペンデント映画という感じで、悪くなかったです。16mmって、粒子の粗い画面の質感ももちろん特徴的ですが、なにかこのフィルムを使うとこうなってしまう、特別な時間感覚もあるような気がして、それも含めて好きなんです。
途中、主人公はカラオケバーの若い女の子と仲良くなるんですが、その女の子が病気と聞いてお見舞いに行く。大分調子のよくなってきた彼女に「何か歌え」と頼むと、彼女は「フェイ・ウォンが好きなの」と言って、「天空」という曲をアカペラで歌いだす(下手なんだ、この子がまた)。実は、その前に美容室に行くシーンでも、この曲のインストゥルメンタルが流れていて、「あれれ?」と思っていたのでした。僕もフェイ・ウォン大好きで、「天空」も好きな曲であり、それを表題にしたアルバムも大好きなんですが、それを聞いていた時の自分の感覚と、この映画で描かれている景色や風俗の時代感があまりにもマッチしないことに驚くというよりも戸惑う、という感じ。この映画1997年公開で、「天空」は90年代半ばくらいのリリースだったと思うんですが、ああ、中国もこんな素敵な歌手が出てきて、ずいぶんモダンになったなあ、なんて、その頃は思ってた気がするのです。当時、フェイ・ウォンのアルバムは香港のレーベルからのリリースだったとは思うけど、ジャケットの写真やデザインもすごく洗練されてて。
僕は結婚する前の妻と、1989年の天安門事件の直前、5月に一度だけ北京やモンゴル近くを訪れたことがあって、その頃は向こうのみなさん人民服を着ていたし、お金の交換レートやら、旅行できる場所にもいろいろ制約があったし、奥地に行くには旅行社の人が必ずついてないといけないとか、窮屈だなあ、という印象はぬぐえませんでした。でも、この映画の風景って、むしろその時の旅行を思い出させるような感じ。舞台は汾陽市で、北京より西南にあたる内陸の一地方、ということも関係あるのかもしれません。
演じるのはすべて素人で、ほとんどゲリラ的に撮影してるので、通行人がカメラを見たりもしてるんですが、なんかそういう、映ってしまってるもののリアルさも愛おしい。どんな劇映画であれ、その時、その場所で、その人たちと切り取られた映像って、そこでしか生まれえなかったもの。その意味ではすべての映像はドキュメンタリーとも言える。この映画祭で、古今東西(この言葉がこれほど文字通りに使える機会もありません)の映画を見ていると、もうその映画が面白いとか面白くないとか以前に、「映ってるだけでありがとう」みたいな気持ちにもなってくるんですよ。
しかし誰が付けたかこの邦題『一瞬の夢』。完全にネタバレだろ! 途中で彼女はお金持ちといなくなっちゃうし、最後はまたスリを働いたところを現行犯で逮捕され、要するに「共感なき『自転車泥棒』」みたいな映画でした。成長もない。教訓もない。でも、好きです。テレビとかラジオの音がやたらとうるさく入ってくるのもよかったなあ。後半、ポケベルも出てくるし、ヴェンダースが『パリ、テキサス』で裏テーマ的にやってた「あらゆるメディアや乗り物を見せてしんぜましょう」というアプローチに近いことをやろうとしてたのかもしれない。
この日はちょっと映画祭とは別に仕事で見なくちゃならないものもありまして、作品を観たのはジャ・ジャンクーのみ。あと、パゾリーニの『愛の集会』(1964)っていうドキュメンタリー(これもDVD作りましたねえ)について、僕が今一番注目しているイタリアの女性監督アリーチェ・ロルヴァケル(『幸福なラザロ』『夏をゆく人々』)たちが話すセッションをチラ見したんですが、うーん、あんまり大した話にはならなかったなあ、という印象。それもこちらの英語力のなさかな。
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