『THE FIRST SLAM DUNK』の好きなところ(追記:3月5日)

はじめに

以前、自分なりに『THE FIRST SLAM DUNK』についての考察的な記事を書いた。
『THE FIRST SLAM DUNK』についての考察という名の妄想。
上記の記事では自分としては論理的に記載したつもりなので、次はただただ『THE FIRST SLAM DUNK』の好きなところ、いいなと思ったところを感情的に書き連ねていきたい。

※以下、原作『SLAM DUNK』及びそれに伴う各メディアミックスなどのネタバレが含まれます。ご了承ください
※原作に準拠している好きな要素は割愛しています
※全体的に大幅に加筆しました(3月5日)


・作画全般

井上雄彦さんの絵がそのまま動くというのはやはり画期的だし、とりわけバスケットシーンのスポットが当たっていない面々もそれぞれのポジションの動きをしているのはすごい。
特に、沢北栄治の作画が全般的に美しい。
私は、原作漫画における「公式美形」=作中で容姿を褒められているもしくは異性にキャーキャー言われている描写がある登場人物、ととらえている。
男子なら流川楓(不動の1位)、三井寿、仙道彰、藤真健司、そして沢北。
女子ならもちろん赤木晴子と彩子だ。
沢北は公式美形の一角だと思っているけれど、原作だとデフォルメ顔も結構多く、どちらかといえば親しみのあるタイプの美形のイメージがあった。
しかし、ギャグ描写が少ない映画では、本当に正統派の美形だ……と実感した。
試合中の不敵な表情はもちろん、泣く寸前の表情まで美しかった。

・宮城リョータが中間子

原作では宮城の家族構成は一切描かれていたので特に想像していなかったのだが、中間子(妹ひとりがいる次男)だったという描写に「なるほど!!」と思った。
原作漫画の主人公である桜木花道のコミュニケーション能力が群を抜いているためあまり目立たないが、宮城も相当コミュニケーション能力が高いと思っていたからだ。
桜木との仲の良さについては記すまでもない。
コミュニケーション能力に難のある後輩・流川とも円滑なコミュニケーションを取っているのは『THE FIRST SLAM DUNK』についての考察という名の妄想。でも触れた。
先輩相手であっても、尊敬されていると同時に恐れられてもいる主将・赤木剛憲に対しても、気安く「赤木のダンナ」と呼んでいる(これも桜木の「ゴリ」呼びが規格外すぎて目立たないが)。
さらに、完全な逆恨みで病院送りにされ、挙句の果てにバスケット部襲撃までされた三井に対しても、復帰後は特にわだかまりなく「三井さん(サン)」と呼んで敬語も遣っている。
対三井についてはいくら何でも人間ができすぎているだろう……と昔から思っていた。
年上に対しても年下に対しても分け隔てなく接しているのが宮城の魅力のひとつだと思っているが、兄と妹がいるという生い立ちを考えると納得もできた。
映画では兄・ソータが早逝した関係で、弟として甘えられたのは小学校3年生までだが、兄弟仲は大変良かった(どちらかといえばソータの器が大きく、わがまま放題の弟をよく可愛がっていた)ようだ。
また、妹・アンナとの年齢差は明らかになっていないが、5歳差くらいだろうか。
ソータが行方不明になった際に4歳くらいなら長兄の死を理解できなくて当然という気がするし、宮城が17歳のときに12歳(小学6年生)なら、「長兄の死を理解している」ことに母と宮城がはっとするのもわかる年ごろのような気がする。

(追記)7月9日のYouTube配信にて、アンナの年齢は「ソータが行方不明になったときが7歳」「ミニバスの試合を応援に来たときが9歳」「本編の時点で15歳」と担当声優・久野美咲さんから明かされた。
誕生日の兼ね合いもあるが、さすがに宮城とアンナが1学年差には見えないので、アンナの誕生日は4~7月でソータとは5学年差、宮城とは2学年差、と考えるのが自然だと思う。

閑話休題、宮城がインターハイから帰還したあとの海岸でのアンナとのやりとりは、短い引きの場面だけれど、どう見ても「いいお兄さん」だ。
ソータの性格を継いでいる気がする。

・オープニング

挙げるまでもないような……。
私は初見のときにオープニング映像を観て、「あ、これは絶対楽しく映画館に通える」と確信した。
The Birthdayが手掛けるオープニングテーマ『LOVE ROCKETS』のイントロから、ベース、ドラム、リズムギター、リードギター、ヴォーカル、コーラス、と、重なり合うごとにひとりずつイラストが完成していくところも素晴らしいし、「神奈川県代表 湘北高等学校」「秋田県代表 山王工業高校」とバーン! と表示されるのも最高。
鉛筆描き風のイラストが動くのは、『Aleph』のCMを彷彿とさせる。
そのイラストに色がついて、赤木が掛け声をかけて4人が応えながら湘北5が走り出し試合スタート……という流れが最高すぎる。
鉛筆描き風の絵では、特に流川と沢北が美しくて好き。
もともと公式美形のふたりではあるものの、モノクロがとても似合うふたりでもある。
左右の腕は違うが、ふたりとも肘のサポーターを調整しているところもいいなーと思う。

・試合描写全般

試合描写自体は原作をほぼ忠実になぞっているのだが、その原作のコマとコマの間をとても丁寧に補完してくれてある。
試合中、桜木へは極端にボールが渡らないが、その理由が映像を観ているだけで納得できる。
原作の沢北と同様に、その動きが気になってついつい桜木がどこにいるか目で追ってしまう。
流川や三井の早いパス回し、赤木のスクリーンでの動き、宮城のパスの正確さ、山王の面々の華麗なパス回しや常にプレッシャーをかけてくる動きなど……。
初見のときはフォーカスされている選手、ボールを持っている選手に自然と目が行ってしまったが、何度観ても新たな発見があって楽しいし、違う選手を意識して観るとまた違った感想を抱ける。
中でも、明らかに体格差がある深津一成に対して、宮城が押し負けないように必死になっているのを見ると、思わず応援したくなる。
コートに立っている10人の解像度が本当に高いし、改めて湘北も山王も大好きだ! と思えた。

・彩子の可愛さ

宮城が主人公で、かつ山王-湘北の試合に特化している内容だから仕方ないが、『THE FIRST SLAM DUNK』のヒロインの比重は晴子から彩子に移っている。
原作では、桜木目線ということもあり、彩子は大人びている頼れる姐御肌のマネージャー、というイメージが強かった。
しかし、映画だと同い年の宮城目線だからか、とても可愛らしい面が強調されていたように思う。
原作以上に手足が細く華奢に見えたし、夜に宮城がランニングしている場面で彩子が登場したときには「こんな夜中の人気のない道路にひとりで出歩いて大丈夫!?」とはらはらしてしまうくらい可愛らしかった。
また、試合中とそれ以外(上記の夜の場面)でオンオフがはっきりしているのもとても良かった。
宮城に対する話し方なんかも、夜の場面の方が明らかに砕けた言葉遣いだったりして、試合中はサポートに徹している感じが有能マネージャーという印象だった。

・宮城の新規台詞

もともと、原作の宮城の台詞にはちょっと意外性があって面白いなと思っていた。

仙道がPGできたらどうすんべ…

『SLAM DUNK』#17 #143 海南WAVE

他の湘北メンバーは絶対にしないような言葉のチョイス……。

三井さんパス回すよ
狙ってよ

『SLAM DUNK』#18 #161 敗北

えっここへ来てタメ語……? と思った。
対後輩なら「パス回すぞ」「狙えよ」みたいな語尾になりそうだし、普段の宮城なら敬語を遣うので「パス回すっすよ」「狙ってくださいよ」みたいになる気がするけれど、確かに先輩に敬語なしならこの言い回ししかない気もする。
敬語を遣っている余裕がないくらいの展開ということだろうけれど、それにしても何だか年下らしい可愛い言い回し……。

宮城の話し方は、当時の平均的な高校生の言葉遣い、といった印象があるが(当時私は宮城と同年代ではなかったので、あくまで印象)、たまに少しだけ「おっ」と思わせるような言い回しをはさむイメージがあった。
抜け感のある台詞チョイスは宮城の魅力のひとつだと思う。
そういう意味で、「マジか」「すげーなおい」みたいな、現代風の言い回しがとても似合っていた。
逆に、赤木が「チャラい」と言ったときは「えっ赤木が『チャラい』って言うんだ!? ……言うか令和だもんな……」とめちゃくちゃ驚いた。

また、場面としては少しあとのことになるが、円陣を組んだ際に流川に対して「そのまま行けるなら行っちゃえ」という台詞が初見のときから衝撃だった。
「行っちゃえ」って言うんだ……そうか……と噛みしめてしまった。
これも他の湘北メンバーにはない、可愛い言い回しだと思う。
流川が「うす」と普通に反応していたのも良かった。

・【追記】深津の「ナイス」

前半開始直後、深津が宮城と赤木を引きつけたうえで河田雅史にパスを出し、河田が得点する場面。
原作だと「ナイス」と言っているのは河田に見えるが、映画では深津の台詞に変わっていた。
深津って、特に対沢北ではあまり褒めないタイプに見えるけれど、同級生かつ作中最強レベルのプレイヤーである河田相手には素直に褒めるのがいいなーと思った。

(追記)映画でも河田が言ってますね……今まで何を勘違いしていたんだろう。
でも、深津&河田は最高コンビなのだ。

あと、この場面、深津に対してシュートブロックをしようとする宮城が、隣の赤木並みの高さまで跳んでいて毎回見惚れる。
映画では残念ながら(?)三井に跳び蹴りをかますシーンは描かれていないが、そのジャンプ力は健在である。

・【追記】後半開始直後の深津

後半開始直後、ボールをキープした深津が左手を大きく振ってサインを出している場面。
原作では描かれていないシーンだが、カメラワークと相まって初見から「めちゃくちゃ格好いい!」と思っていた(何で書き忘れたんだ……)。

・中学1年時代の宮城

モテる要素しかなくない?
原作で宮城がフラれ続けていたのは、他に明らかな本命(彩子)がいたこと、それに伴い女子に「自分に本気ではない」ということを感じ取られていたということ、不良だと思われていただろうこと(実際には不良ではないが、不良に喧嘩に巻きこまれていた)が原因だと考えている。
それを踏まえると中1の不良っぽくもない宮城は普通にモテるのではないだろうか……と困惑した。
流川みたいな突き抜けた美形ではなくても整った顔立ちだと思うし、ヘアスタイルやピアスもクラスメイトの男子たちと比べると、明らかにあか抜けている。
初対面ではわからない点だが、運動神経が抜群だというのもモテ要素だと思う。
男子に反感を抱かれるのはわかるが、女子にまで陰口を叩かれるタイプだろうか?
ただ、令和の中学生の恋愛事情はわかりかねるので、背が低くて愛想のない少年はそれだけでモテないのかも知れない。
初見のときに、思っていた以上に影のある美少年で驚いた。

・中学2年時代の三井

原作の中学時代の三井(中学3年だが)は、挫折を知らないゆえの無邪気さが前面に出ていたが、映画の中学時代の三井は原作より若いのにすごく大人っぽい。
まだ中学MVPを獲る前で、そこまで自信過剰になっていないせいかも知れないし、年下の宮城視点だからということもあるかも知れない。
原作の中学時代の無邪気さや自信家な面が減っているぶん、本当にまっすぐ育った男の子、という感じ。
原作の三井も、入院時に個室をもらっているなどの理由で実家はいい家なのでは? と一部で考察されていたのを見かけたことがあるが、映画の三井もいい家で育ったんだろうな……と思う。
中学生の男子がわざわざ小学生(実際は中学生だが)に声をかけるって、性格のいい兄貴肌じゃないと面倒くさいんじゃないかな。
実際、原作で復帰後の三井は紅白戦で審判をした際にも上級生チームに発破をかけたり、安西先生の意を汲んだにしても桜木に対して適切な指導をしたり、面倒見の良さが見え隠れしているので、根が兄貴肌なのかも知れない。
宮城がソータを思い出すのもわかる気がする。

・ゾーンプレス時の流川

山王のゾーンプレス対策でタイムアウトを取る前、ベンチの木暮公延からの指示でボール運びに参加する流川について、原作だと不本意そうな舌打ちの印象が強いが、映画ではさっと指示に従って走り出している。
それ以外にも、赤木のヘルプでゴール下のディフェンスに回るときも舌打ちなしで即座にブロックに向かっているのを見ると、映画の流川は原作より当たりが柔らかいのかも知れないと思った。
カメラの位置の都合上、舌打ちをマイクが拾えなかったということでカットされているのかも知れないけれど、後述の宮城に対する受け答えなども「無口な後輩」という範疇に収まっていて、先輩が反感を抱くような要素はあまり感じられない。
原作比で流川が可愛く見えた。

・タイムアウト時の山王

タイムアウトがかかったとき、湘北メンバーは歩いて戻る(遠い場所にいるメンバーは最後小走りになる)のに、山王メンバーは絶対に走ってベンチへ戻るところがチームカラーの違いが出ていて面白い。
山王は代々そういう指導がされてるんだろうなー、と考えるのも楽しい。

・ベンチに下がるときに一礼する木暮

桜木と交代してベンチに下がるときの木暮がコートに一礼しているのを見て、「木暮だ……」と思った。
プレイはもちろん、タイムアウト時の山王やこの木暮のように、細かいところまで解像度を上げてくれる。

・【追記】石井健太郎のガッツポーズ

原作から存在する「ボールよ吸いつけボールよ吸いつけボールよ吸いつけ」「湘北に入ってよかった……」などの台詞に加え、映画では木暮のベンチを鼓舞する言葉に真っ先に立ち上がったり、三井のフリースローを見守るときの膝をついて祈るようなポーズで知られる石井。
その石井は、三井の復活の3Pのときにめちゃくちゃ熱いガッツポーズを見せてくれる。
初めて石井に注目したときは、あまりに激しいガッツポーズに驚いた。
作者の中でも、1年のベンチメンバーでは熱い役割として位置づけられているのかも知れない。
桑田登紀が素直な後輩枠、佐々岡智が真面目ないじられ枠という感じだろうか。

・【追記】深津のディフェンス

すごいディフェンスするな このPG…しつけー
牧以外のGならとっくにとられてるところだぜ

『SLAM DUNK』#25 #216 王者

ち…この深津のDは一瞬も気が抜けねーぞ!!
一点差の勝負所みてーにプレッシャーかけてきやがる!!

『SLAM DUNK』#25 #223 ”奇襲″

スゲエ
深津の構えを見ろ…
あの宮城より低くしてる…!!

『SLAM DUNK』#27 #234 湘北 in Trouble

原作でも深津のディフェンスのすごさは散々語られているけれど、映画ではそれらの解説的な台詞はほぼすべてカットされている。
が、映像部分でそれが十分わかるようになっている。
個人的に、特にわかりやすいのは、後半に三井が連続3Pを決めたあたりの場面。
ボールをキープしている宮城より低く構えているし、本当にガンガン手が飛んできて、並みのガードなら即ボールを取られていることだろうと思う。
BGMも相まってめちゃくちゃ燃えるし、必死でボールをキープしてパスをつなげようとする宮城を応援したくなる。

・宮城のフリースロー

花道 リングの手前のふちを狙うんだ

『SLAM DUNK』#9 #76 FREETHROW

原作で、試合で初フリースローを担当する桜木に対し、宮城は上記のアドバイスをしていた。
深津のインテンショナルファウル時のフリースローは原作ではナレーションでのみ成功が語られているが、映画で描かれた宮城のフリースローは、ちゃんとリングの手前に当たって入るという演出になっていて、初見のとき深く納得した。
ちなみに、深津に打たされたジャンプショットとスリーポイントシュートはどちらも外れるが、両方とも距離が短くて外す描写になっている。
(原作でも、リングの手前に当たって外している)
ただ、少年時代、ミニバスでのフリースローだけは、距離ではなく左右にずれて外しているように見えた。

余談だが、宮城のフリースローの際、うしろに控えている三井が休憩しているのがとても細かいし、不敵な笑みを浮かべているのも宮城に対する信頼のようで良かった。

・流川と宮城

沢北のポスターを前にして言葉を交わす流川と宮城の場面は、本当に短いけれど宮城がちゃんと先輩しているし流川がちゃんと後輩していて嬉しい。
原作の湘北-豊玉での流川と宮城のやり取りが好きだというのは、以前の記事で書いたので割愛するが、その名残が感じられてとても良かった。
「こいつ(沢北)の悔しがる顔が見てえ」と言う宮城に「オレもっす」と同意する流川。
「オス」で済ませず「オレもっす」と応える流川も、対豊玉戦でのやり取りを思い起こさせてくれて微笑ましかった。

・【追記】沢北に対する一之倉聡の視線

何度も沢北に1on1を仕掛ける流川に対し、山王のベンチメンバーが「沢北には勝てないよ」と言ったとき、笑顔を浮かべている一之倉が好き。
沢北と一之倉は、作中で会話とかをするわけではないけれど、先輩である一之倉の2年生エースに対する信頼とか誇らしさとかがうかがえる。
余談ですが、原作で深津から「イチノ」と呼ばれている一之倉、いいですよね。

・【追記】赤木のフェイダウェイシュート後の宮城

映画での新規シーン。
ボールを確保したあと、ふうーっと息を吐いて、空いている右手で「落ち着け」というジェスチャーを見せる宮城。
映画でどこの宮城の作画が好きかと訊かれたら、このときの笑顔が1番好きです(髪型が乱れているのもおいしい)。
このときの手の動きで手のひらが見えて、「No1ガード」の文字が汗で薄れているっぽい? のも細かいし、生きている感がある。
本題とは少し離れますが、このときの流川からのパスが、原作だとスムーズなパスなのに、映画だとちょっと難しいパスになっているのを宮城がカバーして受け取りにいっているのが「おっ」と思った。
特に重要なシーンではないので原作のままでも良かった気がするのですが、あえて変更した理由は何だろうなーと思ったりしています。

余談ですが、私が原作で1番好きな宮城の作画は30巻#267 選手生命の「宮城君がスピードと感性を」のコマです。
宮城の良さが全部詰まってると思う作画……。
完全版24巻では、雑誌掲載時の2色カラーで見られます。
2色版もとても良い。

・【追記】流川のスリーポイントシュート

原作では、流川の3Pが決まった際に受付の女子が会場に登場して、山王が5点差に追い上げられていることに驚愕する場面がはさまれる印象的な得点シーンだ。
映画ではそれがカットされている代わりに得点ボードが大写しになり、「ドン! ドン! ドン!」というSEに合わせて3点が積み上げられるところが強調されている。
映画で、「得点が入った」ことがここまで強調されるのは、このシュートだけである。

8点差!! たった!?
(得点が加算されるコマ×3)
5点差――――――!!

『SLAM DUNK』#30 #266 原点

上記の女子の驚愕を、うまく映像に落としこんでいると思う。

・「もう腕上がんね」

三井の映画オリジナル台詞。
三井らしい台詞だし、言い回しも最高だった。
それに対して「オッケー、パス出すっすよ」と返す宮城も、三井に対しての信頼がうかがえていい。

・山王が取ったタイムアウト後

赤木が桜木たちを両手でかき分けるようにしてコートに戻るシーンがとても格好良かった。
それだけでなく、コートに戻るときに赤木が掛け声をかけ4人が応じるが、流川が思いのほか元気に口を開けて声を出していたのが、意外だったけれど可愛いなと思った。
やっぱり映画の流川は可愛げがプラスされている気がする……。
原作だと、この場面の流川の顔下半分が隠れているので、声に出して返事をしているかどうかはわからない。

・【追記】深津&河田

山王タイムアウト後の最初のプレイ、深津からのパスで河田がダンクを決める場面。

そうだ
相手はあくまで――――――
最強山王――――――!!

『SLAM DUNK』#30 #268 最強・山王の体力

このふたりの連係プレイのとき、原作でも沢北や松本稔は笑顔を浮かべているが、映画だと沢北と松本が「っは」みたいにかすかに笑い声をあげているのがとても良かった。
絶対エースであり日本一の高校生である沢北だけど、山王の大黒柱は深津&河田だし、沢北だってこのふたりのことを頼りにしてるんだよ……。
さすが深津……堂本監督が最後の最後でゲームメイクを託すだけあるし、一部ファンの間で「深津おじさん」と呼ばれている(?)濃いおじさんファンがつくだけあるよ深津……。

最強・山王を見せつけたところで、流れるようにゾーンプレスに入る演出も、音楽との相乗効果でとても良かった。

・宮城の自室

原作では登場しなかった(彩子の写真を飾ってある机らしきもののみ登場)ので具体的に想像していたわけではないけれど、思っていた以上に綺麗に使っているところがいいなーと思った。
母親の手をわずらわせないようにしているのかも知れないし、逆に一切踏みこんできて欲しくないからかも知れない。
原作だとファッションなどがおしゃれで個性的な印象だったから、めちゃくちゃこだわりのあるおしゃれな部屋でも意外には思わなかっただろうけれど、実際はシンプルな内装だった。
賃貸の団地だし、デザイナーズマンションみたいにはできないのだろうけれど、ファッションと違って特にこだわりはないらしい。
ものが少ないのに、バスケット雑誌やバッシュの箱が目立つのもとてもいい。
ユニフォームをきちんと丁寧にたたんでいるところからも、素の性格が見え隠れしている。

宮城のファッションは原作でも個性的で、制服でポロシャツやハーフパンツを身に着けていたり、サングラスをかけていたりと、本人のこだわりが見られる。
映画の私服でも上半身は基本だぼっとしたシルエットで、下半身はハーフパンツ、制服のときでも足首を出しているあたり、自分が似合う服装がわかってるんだろうなと思う。

・「ありあと」

母親に誕生日をお祝いされた宮城は、振り返らないまま礼を言う。
てっきり「ありがとう」という台詞を、声優さんが情感を込めて発声したため不明瞭な発音になったのかと思っていたのだけれど、日本語字幕版を鑑賞した際の該当場面の台詞が「ありあと」でめちゃくちゃ動揺した。
あえて聞き取りにくく「ありがとう」と言ったのではなく、恐らく台本が「ありあと」なんだろう。
素直になれない感が満載でとても可愛い。

・「ドリブルこそチビの生きる道」

挙げるまでもないような……その2。
主語を大きくして恐縮だが、みんな好きでしょこのシーン。
エンディングテーマでもある10-FEETが手掛ける『第ゼロ感』との相乗効果、そして宮城の過去のわだかまりから解放される達成感が相まって、本当に胸を揺さぶられるプレイになっていた。
また、沢北を押しのけるようにして進む宮城に対し、沢北が一瞬歯を食いしばるような表情を浮かべている。
映画版の山王戦で、宮城は試合前から沢北のことを「同い年の選手」として意識しているが、恐らく沢北が宮城のことを選手として意識したのはこのプレイだろう。
私は基本的に原作『SLAM DUNK』のファンで、メディアミックスもどれも楽しませてもらっているが、1番好きなのは原作だということは変わらない。
しかし、この場面に関しては、原作以上に好きだと思える。
多分Blu-rayになったらこのシーンだけ延々観続けるような気がする。

・【追記】全力で応援する山王ベンチ

宮城の2回目のゾーンプレス突破後、「ディーフェンス! ディーフェンス!」と全力で応援する山王ベンチは毎回印象的。
山王の応援シーンは観客席の方がよく映るけど、特にこの場面では、湘北だけでなく山王もベンチメンバー含めた全員で戦っている感がうかがえていいなと思う。
特に、立ち上がって声を張っている野辺が好き。

・桜木の決死のブロックからの4点プレイ

挙げるまでもないような……その3。
原作でももちろん大好きなシーンのひとつではあるのだけれど、ブロックをしたあとに倒れこむ桜木の描写が映画ではまた違ってとても良かった。
原作だと、倒れこむ桜木をコマ送りのような形でだんだん小さく描くことで、フロントコートに運ばれるボールから遠ざかっている桜木を表現している。
映画ではストップモーションが使われて、宮城が桜木のプレイに驚愕する場面が描かれる。
そして、宮城がボールを受け取った瞬間に『第ゼロ感』が流れ、流川とともに桜木に背を向けて走り出す。
漫画で背景のないコマに桜木単独で描かれていたときとは違い、桜木は他の選手が走り出す中、置いていかれるような形でコートに倒れこむ。
宮城……というより、湘北メンバー全員が桜木が相当無理をして出場しているのを知っていて、その彼が無理を推して渾身のブロックを決めて、きっと心配もしているだろうけれど、しかし彼の意を汲んで背を向けて走り出す――というドラマチックさがある表現だと思う。
桜木が倒れこんだときの臨場感に、本当に一観客としてはらはらした。

その後の4点プレイでは、本当に宣言どおりにパスを出す宮城と、信頼に応える三井の連係プレイが最高だった。
宮城が三井に手を貸して立ち上がらせチェストバンプ、そして桜木相手にふたりでガッツポーズを決めるのも微笑ましい(原作だと、三井が単独で桜木にガッツポーズを向けている)。

・【追記】三井のボールくるくる

4点プレイのフリースロー前、三井が左手でボールをくるくるっとしてるのがめちゃくちゃいい。
ビャッと打たないぶん、多分、映画初見の人は、湘北のベンチメンバーと同調するようにシュートがどうなるのか固唾を呑んで見守るんじゃないかなー……と思う。
宮城が固唾を呑んでいる瞳の表情もとてもいい。

・【追記】桜木のブロック

沢北のダンクをブロックした桜木が、着地後、倒れこむまではいかないものの、完全にガクっと動きが止まって固まっている。
その状態から体勢を立て直してフロントコートまで走って、河田のシュートブロックでこぼれたボールに再び迷わず突っこんで胴体から倒れこむ……という一連のプレイが、もう完全に「精神が肉体を超え始めた」感じがして、鬼気迫る雰囲気がすごかった。
原作の桜木軍団の「もうあいつに何言ってもダメっすよ」「ハラくくっちまった」「……たとえハルコちゃんでもダメだ」という一連の桜木評を思い出したりした。

・残り10秒の攻防

挙げるまでもないような……その4。
いや、もうこの場面は原作が素晴らしすぎるので本当に挙げるまでもないような気がするけれど、モノクロとカラーが交錯する中、漫画の効果線のような表現が多用され、原作漫画とはまた違った新しい「残り10秒」になっていた。

日本語字幕版でも鑑賞したのだが、
湘北が逆転したあと⇒(心臓の鼓動だけが響く)
山王が逆転したあと⇒(秒針の音)
桜木がシュートを打って残り時間がなくなる⇒(秒針の音が止まる)
その後⇒(無音)
桜木と流川のハイタッチ⇒(静寂を破るハイタッチ音)
宮城・三井・赤木が飛びつきにくる⇒(歓喜の声)
と、字幕表記も大変ぐっと来た。
映像で初めて伝わることもあれば、文字を読んで改めて実感することもある。
日本語字幕版を鑑賞して本当に良かった。

また、最後のオフェンスの場面は恐らく流川視点だと思うのだが、音だけでなくすべての色が消えていき、湘北の赤いユニフォームさえ色褪せていく中、右45度に立っている桜木だけが色鮮やかに浮き上がって見える……というのが、とてもエモーショナルな表現だ。
桜木の「左手はそえるだけ…」の言葉は口パクになっているが、確かにあのときの流川の耳には届かなかったに違いない。
桜木のつぶやきで桜木の場所がわかっていたわけでも、桜木の動きを見ていたわけでも、まして彼が走ってきていると信じていたわけでもなく、インスピレーションのようなもので直感的に知っていた……というような印象になっていると思う。

・【追記】ハイタッチ後の歓喜の声

原作の時点で名場面すぎるので、ここに入れるか最後まで迷ったが、原作では歓喜の輪の描写は割と短いので、書き留めておく。
原作とは違い、宮城が真っ先に桜木と流川に飛びつく→三井と赤木が飛びつく→ベンチメンバーが駆けつける、という順番だが、性格的にこういうことは好かなそうな流川がなし崩し的に巻きこまれたままなのが可愛い。
この場面、桜木と流川はまだ呆然としていてなすがまま、という印象なのもいい。
もちろん、原作でそれぞれ桜木軍団と絡んでいるのも微笑ましい。

・宮城の照れ顔

映画での宮城は、彩子に対するわかりやすい照れ顔がないので、最後の最後で母親に対して照れ顔を見せるとは思わなかった。
想像していなかったぶん驚きもすごかった。
でも、多感な時期だから、わだかまりが解消してすぐ平然とやり取りするのは難しいだろうし、照れるのも無理はないな……と、宮城が17歳だということを思い出したりもした。
その後、妹につきあって水遊び(?)をする場面は、対母親よりも肩の力が抜けていて良かった。
気まずくはなかった妹に対しては、さすがに照れがないのもわかる。

・宮城対沢北

宮城の留学……というより、宮城と沢北が対等な立場でマッチアップをしているというのが嬉しかった。
私の個人的な話だが、『SLAM DUNK』が好きすぎて、一時期は連載終了後の宮城と藤真を心配していた。
作中で主に取り上げられている有力選手の中で、宮城は1番背が低い。
富樫勇樹選手がNBA選手の一歩手前に辿りつくまで、「身長160cm台の日本人選手がアメリカでのバスケットで活躍する」などというのは私含め多くの日本人にとってはまったくの想像外だっただろう。
そのころの私は「宮城は下手をしたら高校でバスケットをやめてしまうのでは……」と思っていた。
同様に、「選手兼監督」という立場でプレイヤーとして一歩引いていた藤真は、大学ではバスケットを続けないのでは……と懸念していた。
我ながら気持ち悪いファンである。
明確にバスケットから引退した魚住純はともかく、それ以外の有力選手は少なくとも大学ではバスケットを続けるだろうし、大学を卒業しても実業団(日本にプロのバスケットボールリーグが正式に誕生するのは2015年である)でプレイする未来が描けたが、宮城と藤真だけは別の道を選ぶのではないか……と本気で不安になっていた。
本当に気持ち悪いファンであるが、90年代の私は『SLAM DUNK』の面々が「あこがれのお兄さん」だったくらい幼かったので許して欲しい。
その宮城が、胸を張って20cm以上背の高い沢北とアメリカでマッチアップしている。
原作では宮城に特に関心を払っていなかった沢北も、試合前に肩をぶつけ合いお互い「うっす」と声をかけ、宮城を対戦相手として認識して迎え撃っている。
こんなに嬉しいことはない。
きっと藤真も自分が満足するまでバスケットに邁進してくれるだろうと信じられる。
20年前の懸念を、こんな形で晴らしてくれるとは思ってもいなかった。

おわりに

語りたいことが多すぎて、あれもこれもと、ついついいろいろと書き足しすぎてしまった。
原作が好きで何度も読み返しているからこそ、「ここのコマ間で、この選手はこういう動きをしているのか!」という新鮮な驚きが本当に多数あった。
映画では試合展開が原作以上にスピーディで、どんな引きの場面でも、フォーカスが当たっていない場面でも、全員が違う動きをしているものだから、本当に何度観ても新しい発見がある。
観客席にさりげなく配置している原作読者的にはおなじみの面々を探すのも楽しい。
四半世紀ぶりに映像化される作品のため、ファンはそれぞれ違った期待や思い入れもあって当然で、それゆえの賛否両論だとは思うけれど、私は本当にこの映画を観られて良かったと思う。
『SLAM DUNK』のみんなが生き生きとプレイしているのを、一観客として観られるのが何よりの幸せだ。
映画館で上映されている限りは、無理のない範囲でまだまだ通いたいと思う。
『THE FIRST SLAM DUNK』のおかげで、いろいろあった2022年も幸せな気持ちで終わることができた。
きっと、2023年も最高の年明けになると思う。
何といっても、流川の誕生日なのだから。

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