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そういえば

同級生に自分と比べたら、想像もできない程賢い人物がいて、思い出した。
 ある日彼から自分に、手を貸して欲しいと言って来た。事情は良くわからなかったが、片思いしてる人がいて、その人がストーカー被害に遭い恐怖で学校から帰れないから、しばらくの間、途中まで見送りたいのだと言う。
 あーなるほどとなった。その女性は、ピアノの才能があり、親元から離れて1人暮らしをしながら生活していた。御令嬢なのだが、どこか素朴な所があり、自分も知ってはいた。
 彼女は中途半端な男なら、ストーカー被害な事など相談しないだろうし、彼もある種の複雑さを持った相手を選ぶタイプだった。
 正直な所、自分など何の武道もできるわけでもないのだ。いらないだろう。そう伝えたが、なぜか彼は納得してくれなかった。
 3人で薄暗い月明かりの中を、とりとめのない話をした。彼女と彼が、私を話の種に楽しそうに笑っていた。なぜか私も嬉しかった。
 彼女の暮らしている家の近くまで送り届けた。彼女深く僕らに頭を下げて、僕たちが見えなくなる距離まで手を振ってくれた。
 やれやれ、そんなんだから東大が簡単で面白くないから、京大に行くよなんていう意味がわからない男を、惑わすことになるんだなと、
思った。
 彼との帰り道に、君はその頭脳も周りを楽しませるユーモアも持ち合わせていて、何か欲しい物があるのかい❔と訪ねてみた。
 しばらくの間真面目な顔をしたまま黙った彼が、『銃かな、普通の銃じゃない、ろくでもない奴を一発で仕留める特別なやつ』と言った。
 僕は初めて彼と仲良くなれる気がした。

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