講義外で初めて手話を使った話

スーパーで友人と話していると、後ろから男の人が近づいて友人の肩を叩いた。
「おう!久しぶりだな!」そう言って手を挙げて挨拶する友人。
男の人はニコニコするばかりだったが、おもむろに手話を使い始めた。
『手話だ』なんとなくしかわからないが、ところどころ知っている手話が交差する。
すると友人が「今友達と話してたんだ」と私を指さした。
私は覚えていた「こんにちは」という手話を使いながら口話ではなく言葉に出して挨拶をする。
すると男の人とぽかんと目を見張った。何が起きているかわからない、そんなかんじだった。
私は手話を、間違えたかもしれないと思い聞きに徹する。
友人と男の人が「兄が」「そこで話して」などの手話を使う。
それからまたいくつか手話を繰り返し手を降ってさようならと言った。
しかし遠くに行かず立ち止まったままこちらを見ている。
友人は私に向き合い、「いやぁ久しぶりだったからな、元気そうで良かった」と話すので、私は『久しぶり』という手話をやりながら「久しぶりだったの?」聞いた。
『兄』という手話をやりながら「お兄さんって言ってたね」と続けた。
男の人は遠くからそれをじっと見ていた。
ちなみに『お兄さん』という手話は中指を立てたまま少し高めに上げるという、まるで喧嘩を売っているような少し違和感を感じるかたちで表す。
私達が話す間、男の人は友人のずっと後ろでじっと見ていた。
その顔を不思議そうで、戸惑いとか驚きとかそういったものが混ざった顔だった。
見知らぬ人が手話を使うのを見るのはあまりなかったのかもしれない。
あまりにも不思議で目が離せなかったんだろうと思う。

こちらをじっと見る目が『どうやらあれは手話だぞ』と語っている。
しばらくすると男の人は出口へと向かった。

私は講座以外でろうあ者と会うのは初めてだった。
もしかしたら向こうも、同じくらい珍しかったのかもしれない。
誰かが使う言語を学ぶというのは自分と誰かの世界を広げるものなんだなぁと思った。



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