【小説】倶記4-2

「へえー、ここ?」

若干微妙な表情の南津。

ここは見た目が今にも壊れそうな外観だから、納得の反応でもある。

「中みたらびっくりするよ。」

「エントランスは普通な感じですが。」

「部屋が最っ高なんだ!」

もう既にそれを知る自分たちとしては、是非とも部屋に入って驚いて欲しいところだ。

「ほんと?じゃあはやくいこっ♪」

満面の笑みでスキップする勢…
いやもうスキップしてるのかあれは。

とにかくそれくらい軽い足取りで入り口へと向かう南津。

「いらっしゃいませー。」

エントランスでは然程やる気のなさそうな声。

「ブレイクストーン」は治安が悪いことで有名だから、従業員も生き生き…とはしにくいのかもしれない。

それはいいとして、この人、帽子深く被りすぎだと思うのは気のせいだろうか。

「すみません、朝に部屋を予約した『神戸』ですが、もう一部屋お借りしたいと思いまして。」

「…かしこまりました。サイズはシングルとダブルのどちらにしますか?」

感情がこれといって全く読めないな。なんかミステリアスというか…。

「えっと、じゃあダ…。」

「シングルでお願いします。」

菜々子が言う前になんとか滑り込めた。
もちろんこのシングルの部屋に行くのは、自分だ。

「え、シングルなの?」

「菜々子と美月の探し人ってみんな女の子なんだし、南津も女の子だからさ。」

つまり、男は俺1人ってことだ。

「それに、俺寝相最悪じゃん?」

「あー、あれは。」

「え、寝相?なんのこと?」

「そういえば私よく倶に蹴られてたなあ。」

菜々子が珍妙な表情をする中、美月はきょとんとしている。

そういや、美月はあの時爆睡してたんだっけ。

「それはごめんって。」

そういえば、よく野宿してた時に南津のこと蹴ってたらしい。

「ふーん、そーなんだ。」

「寝起きこそあれだけど、朝はちゃんと起きれるからさ。」

起床に関しては今日も起きれてはいたし、問題ないはずだ。

「じゃあ、そうしましょうか。」

「早く行きたいなー♪」

一応全員の賛成を得て、それから全員で、先に女子3人が泊まる予定のダブルの部屋へと向かう。


「うわあー!ほんとだあ!」

きれー♪とルンルン気分で部屋を回っているのは言うまでもなく南津。

なんでこうも外装と内装が違うんだろうか。
…っていうか。

「菜々子はどうしてこの宿にしたんだ?」

他と比べたら割と奥まったところにある宿、ただでさえ外観があれなのに、ここにした理由はよくわからなかった。

「いやー、看板に目が止まりまして。」

「看板?」

「外にそんなのあったっけ?」

「おおー、それでそれで?」

3人揃って続きを促す。

「朝見た時はもうなかったんですけど、『連泊、団体客歓迎』ってかいてあったんですよ。」

…なんだ、その明らかに自分たちに泊まってくださいといわんばかりの看板は。

「なんかあからさまな感じするけど。」

「それもそうなんですよね…。」

しかもそれが今朝にはなかったらしいし。

他の客は寄せ付けない見た目、連泊させるに十分な内装、毎回顔の見えない一般人に近い従業員。

仕組まれてる気までしてくる。

「なんで連泊?」

そういえば南津は今回の目的をまだ知らなかったんだっけか。

「俺たちは菜々子と美月の仲間を探してる最中なんだ。」

「そうなんです、まだあと7人いまして。」

「で、今日は手がかり掴むために街の外を見てみようって感じだったんだー。」

菜々子と美月も自分に続いて一緒に説明してくれた。

「7人かあ。何でバラバラになっちゃったの?」

…そうだ、確かに。

そもそも9人が散り散りになるなんて。
簡単には起きないじゃないか。

きっと、離別に足る何か大きな出来事とか事故があったんじゃないだろうか。

「別れる前になんかあったの?」

数拍の間があって、2人が口を開く。

「うーん。何かはあったんですけど。」

「あんまし覚えてないんだよね。」

それって結構致命的だな。

「そっか…。きっかけはあってもって感じなんだな。」

「よくわかんないけど、大変だったね。」

「うん、まあね。」

居た堪れない沈黙を避けるために、とりあえず外にでようとしたところ。

パンパンッと手を叩く音。

「…それじゃあ、部屋も見たことですし、あの森に行きますか?」

「うん、行こう!」

「オッケー!」

「はーい♪」

明るい調子の菜々子に続いて 再びあの場所へ。
今度こそ手がかりを掴まえるために。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?