【小説】倶記5-2

「…それじゃあ、3人とも気をつけてくださいね!私も後ほど向かいますので!」

「りょーかーい。」

「こっちは任せてね。」

「菜々子も気をつけてな。」

今日の朝は美月と南津の3人であの森のさらに奥まった場所までいくつもりだ。

菜々子はこれからの料理に使う食材を買いに行ってくるそう。

宿の前で声をかけあい二手に別れる。
菜々子街の中ほどにある市場へ。
そして俺たちは今だ街の外に現れている森へ。

「…それにしても、菜々子の料理ってすごいな。」

「おいしいし、作るのもはやいよね。」

森に至るまでの少しの街道、ふと呟いた言葉に南津が反応してくれた。
彼女からしても、菜々子の料理はすごいんだな。

「…2人ってやっぱり…。」

そんな中、美月が漏らした声に揃って振り向く。
と、彼女は驚いて苦笑い。

「なんか、知り合いに似てるなって思ってさ。」

「えへへ、そうかな?」

「知り合いかあ…。」

うんうん頷く目の奥が寂しげなのは、その知り合いを思い出すからなのだろうか。

「やっぱりまだあるね。」

「いきなり現れたってことは逆に消えたりもありそうだよね。」

「うん…。」

気づけば目的の場所。
今日見にいくのは森のさらに奥。

昨日あれから敵は出てこなかったが、より深い場所へと踏み込む今日は、かなりの確率で敵と遭遇するだろう。

「朝は菜々子もいないし、敵に遭うかもしれないから慎重にいこうか。」

「オッケー!」

「うん!いこいこ♪」

2人とも慎重に行こうと行ったそばから全然調子変わってないんだけど。
…まあでもその方がいいかもしれない。

軽快に中へと進む彼女たちに続いて、自分も木々の迷路に足を踏み入れた。

俺たちが昨日どの辺りまで到達したのかは、木の幹に剣等でマーキングしているため、わかるようになっている。森には申し訳ないが。
帰るときもこれを目印にすることで迷わずに外に出れるのも利点だ。

そのため、まず森の中で迷子になるなんてことはありえない。
…敵に襲われて逃げるなんてことがない限りは。

そういえば。確か昨日3人で来たときにはもう、南津の弾の跡を見たんだったな。

「…南津ってさ。」

「ん?なーに俱?」

「俺たちに会う前にも戦ってたの?」

これだけ広い森だし、戦闘くらいあったんじゃなかろうか。

「そういやこの森の入り口らへんになんか貫通した穴あったよね。」

「うーん、どうだったかなあ。」

左手のひらを顎に添えて首を傾ける南津。

「あっ、確か戦ったよ!」

「それってやっぱりウサギ?」

少しの間のあと、ピタッと素早く首の位置を戻して。

「ううん!狐!」

「狐もいるのか…。」

「ウサギだけじゃなかったんだねー。」

だとすると、この森で気をつけなきゃいけないのはとりあえず2種類か…。
小動物っぽいし、どちらに当たっても速そうだ。

そうして呑気に話している時だった。

「…あれ、もしかして…!」

「どうした美月?」

「何かあったの?」

またもや何か見つけたらしい美月が今現在進んでいる道を逸れていく。
しかしたいして遠くまで行くというわけでもなく、ある地点で屈み込む。

「ここ、荒れてるね。」

「見た感じ誰かが争った形跡だけど、心当たりがあるのか?」

同じく屈んだ南津が指差した場所は、木の近くの地面がかなり抉れたようになっていた。
これが自然にできたとは到底考えにくい。
その幹すらもダメージを負ってへこんでいるあたり、相当な力が加わったものとみられた。

もしかして、美月たちが探している中に思い当たる人がいるのでは。
と再び彼女の方を見ると、確信を持った表情で告げた。

「たぶんこれ、蝶華が…。」

「やっぱりか。」

俺の記憶を侮っちゃあいけない。
それは確か、そのうちのミステリアスな子の名前だ。

「『ちょうか』って?」

そういえば南津は名前まで知らなかったな。

「探している人の中にいるんだ、その子。」

「うん。あたしたちの大切な仲間なんだ。」

「え、本当!?じゃあ、この森のどこかにいるんだね♪」

まるで自分のことのように嬉しそう。
こっちまで高揚した気分にさせてくれる。

「じゃあ、尚更奥までいかないとな。」

「待ってて蝶華!」

気合いを入れ直して。再び静寂に満ちたこの地を進もうとした…のだが。

なんともまあタイミングがいいのか悪いのか。
外れた道を戻ったのはいいけれど、更にその奥に怪しげな影がいくつかみえた。

「探してるのは動物じゃないんだけどな。」

「今回はコンコン達だー♪」

「邪魔しないでよね!」

三者三様の感想を述べつつ、俺たちは飛び出してきた狐たちと対峙することになったのだった。

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