【小説】倶記4-1

「…南津、だっけ?あたしは『盛岡 美月』!さっきはありがと!よろしくね!」

豪華な昼食に舌鼓を打ったのち、先ほどはお腹が空いていてそれどころではなかったからか、美月が話し始める。

「美月ね!よろしく♪」

顔を見合わせて笑い合う姿が、俺としては純粋に嬉しい。

…言葉にしたら近所のおじさんかって感じだけど。

それにしても。
相変わらず、予想通り菜々子の作った昆布巻きとロールキャベツはこれまた美味しかった。

「それで、南津さんはどうしてこの森に?」

菜々子の質問は俺も知りたかったことだし、おそらく美月も思っていたことだろう。

「うーん。よくわかんないけど気づいたら森にいたって感じかなー?」

わかりやすく首をかしげる。
き、気づいたらってそんな。

「じゃあ、経緯はわからないってこと?」

「うん、そだね。」

だとしたらますますこの森が不審だ。
今日の早朝に突然現れて、しかもそこに自分の仲間が訳もわからずに迷い込んでいたってこと、だよな。

「余計にこの森を調べる必要がありますね。」

自分とかなり近い考えを持ったであろう菜々子は難しい表情で。

「俺もそう思う。」

「でもここ、結構広いよね。」

自分たちが出てきたところをじっと見つめて呟くのは南津。確かにそうだ。

3人で見た時も数時間かけてそこまでの収穫はなかったし、まだまだ先があるようにみえたのだから、回るのは厳しいだろう。

「今度は何か見つかるかもだし、あたしはもう一回行きたい!」

そんな中、美月が高く腕を上げる。

「私もそれでいいと思うよー!」

「夕方になる前まで見てみて、それからこれからのことは考えましょうか、倶?」

「…そうしたいのは山々なんだけどさ。」

いや、今さっきまで自分もその意見に大賛成だったのだが、ちょうど思い出したのだ。

案の定、俺が言葉を濁らせたのを疑問に思った3人の目線が、自分に集中している。

「寝る部屋、もう一室ないとさすがにキツイかなーって思って。」

「…確かにもう一室お借りしたいですね。」

「さすがに4人はねー。」

「あ、野宿じゃないの?」

納得する2人の横で、南津が目をキラキラに輝かせる。

そういえば、俺たちが冒険したときは野宿が多かったような気がする。

「今回は拠点があるからね。野宿じゃないんだよ。」

「見た目はあれですが、内装は全然問題ないんですよ!」

「ベットふかふかだよー。」

「えーいいなー。行きたい倶〜♪」

うん、わかった、わかったからさ南津。

いいからそんなに顔を近づけないで。

鼻と鼻がくっつきそうなくらい近づいてきた南津の頭をそれとなく押しつつ2、3度頷けば、ようやく下がってくれた。

「じゃあ宿に戻ってから、またくる感じ?」

「うーん、そうだな。さすがにこの森を少人数で歩くのは危険だろうし。」

もちろんそのつもりだ。
一回2人ずつで別れることも考えたけれど、それだと再会するのが難しい可能性がある。

「南津さん!こちらです!」

「はーい♪」

自分と美月が話していた横で、後片付けをいつの間にやら終えた菜々子が南津を案内し始める。

「やばっ、倶、あたしたちも行こっ!」

「はいはい。」

ドタバタドタバタ。

全く。
今日の菜々子はいつもの2倍くらいのテンションじゃないか?

思い返せば今日の朝もよくわからんこと言ってたし。

まあ、あれは自分の寝相が悪かったせいもあると思うけど。

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