【小説】倶記3-6

森を出て少し歩いたところで、ふと先頭の菜々子が立ち止まる。

「うーん。本当はお昼ごはんも作りたかったのですが…。」

グウウウウ。

グー♪

素直なんだ美月のお腹と、コミカルな南津のお腹がほぼ同時に鳴った。

「お腹空いたよ菜々子ー。」

「私もお腹なっちゃった♪」

鳴ってこそいないが、自分もお腹はそこそこ空いている。

「出かけるとのことだったので、お弁当を作ってきました。」

「お弁当って、すごいな。」

全然気づかなかった。
きっと朝早くから用意していたのだろう。

「いえいえ、そんなことないですよ。」

そんなこととかいいながら出してきたのは重箱だった。

…って、ピクニックとかによくあるバスケットとかじゃなくて、重箱?!

お弁当が?

今日、元旦でもなんでもないぞ?

「それお弁当のクオリティが高すぎないか…?」

てかそもそも、どこで作ってたんだそれ。

「菜々子の料理に対する愛は深すぎて、正直謎だよねー。」

よほど顔を顰めていたのか、美月からの言葉が小声で飛ぶ。

…全くその通りだ、うん。

「ねね、開けていい!?」

キラキラな目をしている南津。
これは興味津々の時のやつだ。間違いない。

「っ、はい!どうぞ!」

そしてものすごい勢いで重箱を南津に差し出しお辞儀する菜々子。

そんなかしこまらなくてもいいのに。

ぱかっ

「おいしそー♪」

「今日は何が入ってるの?」

「確か卵焼きと肉じゃがの残り、ニシンの昆布巻きと、あと野菜が少なくて急いでロールキャベツもいれたかな。」

美月の問いにほとんど途切れることなく答える彼女。

ちなみに重箱の中身は南津が独占して見ている。

「肉じゃがと卵焼きはいいとして、ニシンの昆布巻きとロールキャベツも作ったのか?」

「はい!毎朝料理を作るのは任せてください!いつもの癖で、少し多めに作ってしまいましたが。」

自信満々に告げる菜々子。
その一方で、一瞬見せた寂しそうな目は見逃さなかった。

「菜々子…。」

「…?」

そしてそれは一緒にいた2人も気づいたようで。

「下にはおにぎりが入ってるんですけど、梅干しとたらことすじこ、皆さん何味にしますか?」

「じゃあたらこ♪」

「あたしいつもの!」

時々菜々子や美月が遠くを見たり寂しそうにする理由…。

詮索はしないけれど、気にならないはずはなかった。

話を聞いたりとかで軽くすることができたらとは思うのだけども。

「倶はどれにします?」

戦闘だってできちゃうんだし、2人にも何かあったんだろう。

「あ。えーと。」

とりあえず今はお昼、だな。

「じゃあ梅干しで。」

「りょーかい!それじゃあこれとこれと…。はい、どうぞ!」

「やっと食べれるー!」

「いただきまーす♪」

「いただきます!」

手際の良い菜々子からおにぎりを渡される。
美月、南津に続いて、今日も美味しいのであろうご馳走に手を伸ばした。

もし、話してくれる時がきたら。

どんなことだって受け入れるつもりだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?