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-すれちがい-


春から大学生になる
コウジは、
アルバイトを探していた。

3月、
自宅の郵便ポストに入っていた、

「◇◇水族館/今春OPEN!
新規スタッフ募集!!」

というチラシの文字が
コウジの目に留まり、

「これでいいかな」

と思って、
コウジは
面接を受けに行った。

タイミングを同じくしてか
結構人数がいる。

アルバイトの面接は
はじめてだったので、
コウジは少し神妙にしていた。

が、
ひとり、
色白ではあるが
髪がロングの
今風の女の子の姿が、
コウジの目に留まった。

声をかけたい気持ちに駆られたが、
不慣れな状況でもあったため、
後ろ髪を引かれる思いを感じながらも
コウジは仕方なく会場をあとにした。


後日、
アルバイトの採用が決まり、
4月のシフトが組まれ、
水族館へ向かうことになった。

水族館へ到着すると、
コウジは息をのんだ。

「あっ、、」

なんと
この前、気になった女の子の姿が
コウジの視界に飛び込んできたのだ。
しかもしばらくは
同じシフトであるようだ。

それからというもの、
コウジは
アルバイトへ行くのが
楽しみになった。
周りのスタッフと
打ち解けるのに、
多少時間が
かかるようであったが、
コウジにとっては
大した問題ではなかった。

6月の
バイト終わりの夜、
帰りがけに
コウジからは
ふと自然に
声が漏れてしまった。
その日、
ヒロコは
丈が短めのスカートを
はいていた。

「脚がきれいだね」

コウジが
そう言うと、

普段言われ慣れているせいか、
ヒロコはさして気にも留めずに

「ありがとう」

とだけ返した。


夏以降、
持ち前の明るさもあって、
バイト先における
コウジの交友関係は、
徐々に広まっていった。

その交友関係の1人である、
年齢が1コ上のユウヤ。

「こんな不良っぽいやつもいるのか」

そういう第一印象を
コウジは抱いたが、
ユウヤは背が高く
顔の彫りが深いこともあって、
よくモテた。

ユウヤを中心としたメンバーは、
よく街へ繰り出していた。

そのグループの言動が
突飛だったりして、
コウジも一緒になって
楽しく過ごした。


しかし、
秋になり
コウジはこういう噂を耳にする。

「ユウヤは、
実はヒロコの彼氏らしいよ」

それを聞いた時、
コウジは
「えっ、、」
とひどく驚いた。

が、
そう言われれば、
バイトで一緒になった時の
ヒロコとの会話からは、
コウジの最近の動向が
やたら知られているような
気がしていた。

コウジは、
なんとも言えない
複雑な気持ちになった。

コウジとしては、

「2人の仲を
こじらせるわけにはいかない」

と思っていた。


ところが、
事態は一変する。

冬になり
年が明ける頃に、
ユウヤは、
ヒロコとは別の
新しい彼女をつくったのだ。

それを聞いて
コウジはすぐに
こう思った。

「ヒロコはどうしているのか」

以降、
ヒロコのことが気になったが、
コウジとしては、
友人の元恋人に
手を出す気にはなれなかった。

と言うよりも、
手を出す勇気を
若いコウジは
持ち合わせていなかったのだ。


学年が変わり、
大学2年の4月、
コウジははじめて
ヒロコと2人で会う。

ヒロコは、
コウジにこう訊ねる。

「彼女はつくらないの?」

コウジは、こう答える。

「△△に振られたばっかりだから、
いまはいいかな」

コウジは強がった。


大学3年の夏、
渋谷の街で
2人は偶然に会う。

大学サークルの関連行事で、
たまたま一緒になったのだ。

その行事の間、
アルコールを片手に持ちながらも、
コウジの目はずっと
ヒロコの姿を追っていた。


大学4年の春、
新宿の駅でまた
2人はばったりと会う。

ヒロコは、
少し急いでいるようだった。

「また連絡するね」

そう
ヒロコと
言葉を交わしたものの、
2人はそれ以上
連絡を取ることもなかった。



コウジの気持ちは、
それから数年間
宙に浮いたようだった。







以上

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