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-水路-


昨日までに
すごい量の雨が降った。

家のすぐ近くの小川は、
明らかに水かさが増していた。

ケイコはその小川の土手で
いつものように遊んでいた。

すごい勢いの流れだなあ
とケイコはじっと川を見つめていたが、
何か引き寄せられるかのような
錯覚も覚えた。

昼過ぎにはよく晴れて、
近所のマナブと駆けっこをしていた。

ケイコは活発な女の子で、
兄トシアキの影響もあってか
木登り、水泳、虫取り
なんでもやった。

当然、マナブとの駆けっこでも
いつもケイコの方がはやかった。

この日もマナブより
だいぶ先まで進んでいった。

しかし、
ふとした瞬間
雨上がりの土手に
うっかり足を滑らせ
下まで転げ落ち、
ついには川の中へ落ちてしまった。

川は一瞬にして
ケイコの体をのみ込み、
ケイコは手足をバタバタとさせて
抵抗したが、
思うように体が動かない。

こんな流れに負けるもんか

そう思い
得意の水泳の型を思い出そうとするが、
あれとあれよという間に
どんどん流されていく。

この小川の行く先は
より大きな川に繋がっていて、
最終的には
東京湾へとそそがれている。

ケイコは一瞬、
息ができなくなった。

体がだんだんと沈んでいく。

目の前が暗くなった。

もうダメかもしれない

と次の瞬間、
体が少し浮き上がり
目の前に長く伸びた木の枝が現れた。

ケイコはその木の枝を掴んだ。

そして、
それから体勢を立て直し
なんとかして
土手までよじ上った。

「おーーい! ケイコちゃーん!!」

マナブと
ケイコの母親とが
駆け付けたのは、
少し時間が経ってからだった。

後から聞いた話であるが、
その川で命を落としす子が
毎年何人かいたようだ。

ケイコは
わが身が助かったこともあり、
身震いした。


二十数年後、
ケイコは一人の男の子を産んだ。

その子は小さい頃から
落ち着きがなく、
目を離すと
すぐどこかへ
いなくなってしまうところがあった。

ある日、
家族で都内の公園へ出かけた。

その子は園内の池の近くで遊んでいたが、
階段を一段踏みあやまり
そのまま池の中へ
落ちてしまった。

階段にはコケが多く生えており、
池に浮いている藻と見間違えて
そのまま中へ入りこんでしまったようだ。

「ちょっとあんた、なにやってるの!」

季節は初冬で、
水温がだいぶ下がっていた。

ケイコは、
藻にまみれ
寒さにふるえるわが子を
やさしく抱きかかえた。





以上

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