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-ひつじとねずみ-


ひつじとねずみと言っても、
ひつじの方が若い。

しかし、
この町ではひつじの方が先輩で
ねずみは仕事の基本から色々と
ひつじの背中を見て学んできた。

なぜそうしたのかと言うと、
その方が効率的だと思ったからだ。

ひつじはあまり口うるさく
他人に諭すタイプではなく、
もっと言ってしまえば
”傍らにヒト無きが如し”
という態である。
本来は群れをなして生きる品種なのに。

それでも、周りの後輩たちは
このひつじのやることに付いてきた。
やはり、その方が手っ取り早いと
感じたのだろう。


ねずみはもともと
すばしっこいタイプではあったが、
性格も相まって
無駄な動きが若干見受けられる。
ひつじは普段はゆったりとしているが、
”ここぞ”という時は
sheep から”goat”に変化するようで、
スピードもさることながら
迫力も圧倒的に増すところがある。

ねずみとしては
そのひつじの瞬発力にあやかる所があり、
「いまの自分にはない能力だから、
とりあえず乗っかっておこう」
という風に
良くも悪くも頼りにしていたわけである。

ねずみは仕事の相談や愚痴をよく
ひつじに持ちかけることがあった。
ひつじは大人しそうに見えて無類の酒好きで
同僚たちがうまく働かないことを
嘆いていた時があり、
その時の憂い顔が非常に印象的で、
ねずみの脳裏に焼き付いては
ずっと離れないようである。


ある時、
「ちょっとこの町には飽きたので、
南方の海辺に行ってスケートボードでもしてくるわ」
と言い残し
ひつじがいまの町を離れることになった。

ねずみは
「海といったら、
どちらかと言うとサーフィンではないか」
と心の内で少し思ったが、
その辺りに関しては
ややアメリカナイズなひつじにとっては
大した違いではないようである。


さて、いまの町で
頼りにできる仲間が減ってきたように
ねずみには感じられた。

自分も何年かこの町にいるのだから
そろそろ頼りにされる側に回らないといけない。


ただ実際
そんなことを念頭に置きつつも、
ねずみは今日も
大好物のチーズを食べることばかり
考えているのであった。







以上

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