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-くもの糸-


天からは
かのお釈迦様が
蜘蛛の糸を垂らし、
それによじ登ろうとする
たくさんの人々が群がっていた。

そんな光景を、
タツシはぼんやりと眺めていた。

なんか、
めんどくさいな

そう思って、
いつもように散策を続けた。

日頃から見慣れた
草花ではあったが、
いつも以上に愛おしく
目に映るのを感じた。

すると、
遠くの方に
なにやら、
細いけれども
たしかにぴんとした
糸のようなものが見える。

あれは、
なんだろうか

そう思って、
近くに寄ってみた。

よく見ると、
天上の雲から、
ひらひらとうすいが
たしかに一筋の糸のようなものが
垂れている。

手にとって引っ張ると、
意外と丈夫そうにも思える。

よくわからなけど、
とりあえず登ってみよう

タツシはおもむろに
その糸を手繰り寄せて、
よじ登り始めた。

遠くの方では、
先ほどの蜘蛛の糸の所で、
なにやらたくさんの人々が
牽制し合って
争っているようだ。

タツシはわりと、
ロープやつたに
よじ登ったりすることが
得意だったので、
あれよあれよという間に
天近くまでに至った。

そこには
もくもくとした雲があり、
なんとしっかりと
座ることができた。

やわらかいが、
結構しっかりとしていて
肌触りがいい。

タツシは、
急に眠気を感じ
うとうととしてしまった。

気が付くと、
先程の高さよりも
さらに上へと
移動している。

大袈裟かもしれないが、
あちらの遠方の蜘蛛の糸が
垂れている付近まで、
高くなっているような気もする。

高い所から見渡すと
やはり景色がいい。
そのせいか
視界が良好で、
こちらの雲の糸は
この一本だけではなく、
いくつもいくつも
下へ垂れているようであった。

時間をかけて
より強く太くなるような、
そんな気もした。

なあんだ、
こちらの世界でもよかったのかな

タツシは少し安堵した。

ここ最近は、自分で
視野が狭いな
と感じており、
少々息苦しかったのだ。

いまでは、
その息苦しい感じが
だいぶ緩和されたような気がする。


タツシは、
ただ
今の状態に
感謝することにした。


雲の合間からは、
たしかな
晴れの日差しが
降りそそいでいる。








以上

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