-探しもの-


少年は、
やけに静まった町を歩いていた。

「人が全然いない」

静かなところは嫌いではないが、
ここまでの静寂があると
不安の感が強くなる。

すると、
背後からいきなり
声をかけられた。

「やあ、少年」

振り返ると、
自分よりも小さい
黒い影のようなものが目の前に現れた。

「君は幽霊というものを信じるかね」

少年はびっくりした。
しかし、いくぶん真面目な少年はこう返す。

「あなたは幽霊なのですか」

「まあそんなところだ。
それより、ちょっと話を聞いてくれないか」

少年は不気味に思ったが、
その黒い幽霊の話を聞くことにした。

幽霊の話によると、
この辺りの河川で亡くなった
とある子供の魂が
いまの自分の姿になって現れている
とのことだ。
そう言われれば、
10年くらい前は河川が整備されず
その川で命を落とす子供がいたようだ。

話が終わる頃に
「あ、そうそうこれ。
その子が大事にしていたお守りなんだけど、
君にあげるよ」

少年は
「えっ、、」
と声にはならないような小さな声をあげた。

幽霊は
「じゃあ、おいらはまた次の用事があるから」
と言って、
いなくなってしまった。


「ただいまー」

少年はそう言って、
リビングで点いている
TVの方を見遣った。

ニュースキャスターによると、
少年の住む地域の神社から
大量の御守りが盗まれた、
とのことらしい。
よく見ると、
自分が握っているお守りは
その神社で目にしたことがあるような。

母親は
「なんかこんなご時世なのに、不謹慎ねー」
とか言っている。

少年は左手にあったお守りを
すぐさまポケットに突っこんで、
幽霊に会ったところまで
また走っていった。


ところが、
どこを探しても幽霊は見当たらない。

「おーい、、幽霊さーん」

そう呼んでも
辺りは静まりかえっている。

もう夕暮れ時だ
ということもあって、
少年はあきらめて
帰ることにした。


その夜、
少年は疲れもあって
早めに床についた。

すると、
夢に幽霊が出てきた。

「さっき、おいらのことを探しにきてくれたろ。
でもな、
おいらは次の仕事にとりかかかっていて
君の町にはもういないんだ。
君にあげたお守りはいつか
きっと役に立つから
大事にしまっておけよ」


少年は、
はっとして
目を覚ました。

2階にある部屋の
窓の外を見ると、
真夜中の空に
桜が風に吹かれて舞っている。

少年はお守りを手にとった。
昼間の幽霊との会話を思い出した。
昔になくなった
とある子供のことも
頭に浮かんだ。


少年は窓を開けた。

白い桜の花びらが手のひらに
いくつか舞ってきた。


少年はその花びらとともに、
お守りをそっと
手のひらから
離したのだった。







以上

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