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FIN/SUM2023で語られた三井物産の「デジタル金融戦略」──総合商社がデジタル金融に注力する理由とは?


フィンテックの最新動向や金融分野での社会課題解決などを議論するFIN/SUM(フィンサム)2023が3月28日から31日までの日程で開催された。主催は日本経済新聞社と金融庁。今は「新しい時代の個人(シン個人)を応援する金融包摂(Financial Inclusion)に向かって歩み始めた」タイミングだとして、「フィンテック、『シン個人』の時代」というコンセプトが打ち出されていた。

業界のキーパーソンが集うなか、初日の28日には「三井物産のデジタル金融戦略〜商社が担う、新たな金融領域〜」と題したパネルディスカッションが開催された。日本を代表する総合商社が、今なぜ「デジタル金融」に注力するのか、その背景や取り組みの現在地について意見を交わした。

なぜ商社がデジタル金融領域に?

パネルディスカッションに先駆けて、三井物産執行役員 デジタル総合戦略部長・真野雄司氏が三井物産のDXの取り組みと、その中でのデジタル金融分野の位置づけについて解説。

三井物産では、AIなどのデジタル技術を活用し、商社として作り上げてきたオペレーションすべてを改善する取り組みを進めており、「ブロックチェーン」もその主要テーマのひとつとなっている。貿易物流や地域通貨などでのブロックチェーン活用を模索するなかで、導き出された新たな挑戦が「デジタル金融」の領域だったという。

三井物産のデジタル金融戦略の2つの柱。それが金価格に連動する暗号資産「ZIPANG COIN(ジパングコイン)」と、不動産・インフラ投資をデジタル化して販売する「ALTERNA(オルタナ)」だ。

この2つに共通するのは、現物資産を「トークン化」すること。三井物産やパートナー企業が持つ実物資産(Real World Asset)をデジタルアセットへと変換し、金融市場で流通させるという点だ。この分野こそが「商社として機能を発揮できるひとつの領域」だと真野氏は指摘する。

「デジタルアセットと金融市場を融合し、拡大させたい」と真野氏。暗号資産の時価総額は現在、世界で約1兆ドル強だが、市場規模で言えば国内不動産はその3倍、投資対象としてのゴールドはその5倍程度はあり、そこに存在する大きなチャンスに着目しているという。

「オルタナ」「ジパングコイン」の狙いとは?

パネルディスカッションには、「オルタナ」を手掛ける三井物産デジタル・アセットマネジメント代表取締役社長・上野貴司氏と、「ジパングコイン」を手掛ける三井物産デジタルコモディティーズ代表取締役社長・加藤次男氏が参加。真野氏を加えた3者による議論が行われた。モデレーターはcoindesk JAPANを運営するN.Avenue代表取締役社長・神本侑季が務めた。

三井物産デジタル・アセットマネジメントは、DXによる効率化でファンド組成から証券販売までの垂直統合を狙った会社。取り扱う「デジタル証券」は、不動産・インフラなどのリアルアセットを裏付け資産としたもので、価格変動リスクを抑えつつ、安定的な配当収益を得られる商品性を目指している。

特徴的なのは、単なる数字ではなく「自らが投資対象を直接的に保有しているかのような手触り感のある投資体験をデジタル技術を通じて実現する」(上野氏)ことを狙っている点だ。

この「手触り感」と、デジタル技術による効率化が実現した「小口化」によって、大規模不動産などのアセットを個人投資家に向けて販売することが可能になったという。

上野氏は「三井物産デジタル・アセットマネジメントの運用資産残高は、クロージング中の案件を含めて2000億円を超えた。今後も優良なアセットを積み上げながら、並行して個人投資家への販売事業を強化していきたい」と方向性を語る。

続いて「ジパングコイン」について、三井物産デジタルコモディティーズの加藤社長が解説。もともと三井物産はコモディティのトレーディングを30年以上手掛けてきている。ただし、従来のビジネスモデルは企業向けのもので、「商品価格の変動リスクにさらされている企業にヘッジ手段を提供し、ヘッジ取引から生まれる取引フローを利用して、自己トレーディングで収益を上げる」というスタイルだった。

「企業のお客様に活用いただくためには価格競争力と高い信用力が必要」(加藤氏)だが、長期的な信頼関係の構築に成功した結果、現在ではグローバルで1000社近くとの取引が実現しているという。「ジパングコイン」の狙いは、そうして培ったノウハウを個人向けにも拡大することだ。

現物だと、1kgおよそ800万円で取引されている金。暗号資産である「ジパングコイン」のコンセプトは、金をデジタル化し、最低1円から購入できるようにすることだ。

仕組みとしては、コインを発行する三井物産デジタルコモディティーズが「発行と同時に同量の金現物を三井物産を経由してロンドン金市場から購入」する。人的オペレーションではコスト的に到底成り立たないが、ブロックチェーン技術の活用で実現可能になったという。

ジパングコインは現在、暗号資産交換業者のbitFlyer、DMM Bitcoin、デジタルアセットマーケッツが取り扱っており、今後、取り扱い業者を増やしていく予定だという。

「日本もここにきて、さまざまな世界情勢の影響で急激な物価上昇に襲われている。ジパングコインは個人の皆様にとって、誰でも手軽にインフレ対策ができる有効な手段だと信じている」と加藤氏は力を込める。

将来的には金現物への交換機能や、決済手段としての活用を拡充していく方針もある。また、金以外に原油などのエネルギー関連商品や、CO2排出権といったものもジパングコインでデジタル化していく予定だという。

この2社の新しい取り組みは、三井物産グループの中でどのように受け止められているのか。真野氏は「注力分野であり、より一層強化させていく」と語る。

「To Cの金融サービスは、突き詰めると”運用”と”決済”に集約されていくものと考えている。三井物産デジタル・アセットマネジメントは、デジタル証券を用いて、新しい”運用”の機会・体験をもたらす投資商品を提供している。三井物産デジタルコモディティーズのジパングコインは、暗号資産であり”決済”手段としての用途を兼ね備えている。両社ともに大きな可能性を秘めており、目の前の数字だけでなく長期的な成長を期待している」(真野氏)

次の一歩は?

今後の事業展開内容やペースは、どういうものになるのか。

まず目前に迫っているのが、これまで証券会社を通じて販売していたデジタル証券を、自社で販売するためのプラットフォーム「ALTERNA」のローンチだ。三井物産デジタル・アセットマネジメントの上野氏によると、今春ローンチ予定で、すでに関係当局の最終承認を待っている段階。事前登録を呼びかけたところ、現時点で約3000人が登録しているという。

今後は、これまで国内不動産ばかりだった投資対象を拡大し、「より幅広いアセットクラス」のデジタル証券化に取り組んでいく方針。具体例としてあげられたのは、航空機や船舶、さらにエネルギー関連のプロジェクトなど「まさに総合商社らしい」(真野氏)ものだ。コスト的な制約で今までは数億円からの大口投資しか受け付けられず、私募の非上場商品としてプロ投資家にのみ限定提供されてきたが、デジタル化によって個人向けにも提供できるようにすることが狙いだ。

上野氏は「ALTERNAで提供するデジタル証券は、個人投資家が今までアクセスが叶わなかったミドルリスク・ミドルリターンの投資機会を供給することを目指している」と話す。

ALTERNAはメガバンクやネット銀行、地銀などの金融機関とアライアンスを組み、幅広い層へのPRを狙っている。デジタル証券をきっかけとして若いユーザー層にリーチしたり、お互いの出入金口座を連携させ、口座利用のロイヤルティを高めるなど、金融機関側にもメリットが見込めるという。

デジタル証券のカード決済・積立投資や、さらに小口化したポイント運用なども将来の視野に入ってくるため、「カード発行会社やポイント事業者とのアライアンスも大歓迎」とのことだ。

「金の裏付け」という重み

一方、ジパングコインを展開する三井物産デジタルコモディティーズとしては、「まず暗号資産事業における裾野の拡大に地道に取り組む」ことが重要だと加藤氏は語る。第一歩としては、ジパングコインを取り扱う交換所の数を増加させること。当面は、国内全暗号資産投資家口座の8割以上にアクセスを実現することを目標としているという。

商品ラインナップの拡充についても、プラチナとシルバーを対象としたコインの上場準備が進行中で、6月までにはサービス開始の見込み。また今年度中には、主要なエネルギー関連商品やCO2排出権を対象としたコインにも目処をつけたいという。

さらに証券業界に販路を拡大するため、ジパングコインと同様の仕組みでゴールドの「セキュリティトークン(デジタル証券)」も準備中。こちらは2024年3月期中には実現したいとしている。

さらに数年以内には、「通貨としての特性を生かした決済への活用の枠組み」をパートナー企業と協力して実現したいという。念頭にあるのは、「いくつかの企業群から形成されるコンソーシアム型ブロックチェーン上のサービスが主流となり、それが複数立ち上がってくる」というイメージだ。

そして、そこで決済に使われるのはおそらく、最終的に現金化できる暗号資産となるだろう。その中で、「価値の裏付けがあり価格が安定しているジパングコインは、有効な決済手段になると信じている」と加藤氏は語る。

2つのエンジンで進む、三井物産のデジタル金融戦略。真野氏は「不動産セキュリティトークンとゴールド暗号資産という、別の切り口で事業が始まった両社だが、今後は共通点のある取り組みも増えそうだ。両社の力を結集して、金融業界全体の発展に貢献していきたい」と抱負を述べた。

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