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【拙訳】スタンダードを台無しにしたものの正体 by Ari Lax(Less Practical Magic)

 一強状態に陥りやすく禁止改訂も頻繁に行われる今のスタンダード環境。アメリカの名プレイヤーAri Lax氏が、「何が本質的な問題なのか」を語った記事です。

 Twitterで「らっしゅ」こと高橋純也氏が話題にしていたこの記事ですが、筆者も例にもれず氏のツイートで知りました。

 公開直後、「機械翻訳でもいいから読むべき」などの評価が上がっています。

 評価が高い記事ということで、今更ながら翻訳をしてみました。ぜひ多くの方に内容を知っていただければと思います。

※読みやすいように、一部を筆者判断で強調フォントにしています。予めご了承ください。

 例によって例に漏れず、有料記事設定にはしてありますが、全文無料です。
(前回記事(https://note.com/tokei_mawari/n/n20bed03fa088)なんかもそうなんですが、とにかく長い&外部引用等の調査で労力がかかっている、ということだけご理解をいただければと思います…)
 心優しいあなたにお恵み頂けるお気持ちがあれば、ぜひご購入、あるいはサポートをお願いできればと思います。泣いて喜びながら、日頃お世話になっている奥さんに値段の高めなデザートを御馳走してあげたいなと思います。

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What Broke Standard?

Sunday, September 27, 2020

■はじめに

 「エルドレインの王権」依頼、スタンダードは混迷し、「テーロス還魂記」で混迷を極めました。

(意訳)
 
Blad Nelson:スタンダードに禁止は必要不可欠だと思うんだけど、「こうあるべきだ」という意見はないんだよなぁ。それ自体が問題なんじゃないかな。
 
Ari Lax:「テーロス還魂記」のスタンダード(※)はギリギリプレイ許容範囲、って感じかな(2020年の年初あたりはね)
(※訳者注)
 「テーロス還魂記」リリース後の大会(グランプリリヨン20)はバントランプ、ティムールアドベンチャー、アゾリウスコントロール、ティムール再生、ジェスカイファイアーズ(ルーカ不在)等様々なデッキタイプが活躍、メタゲームは散らばっていて、一強は不在。
 なお、2日目進出率はティムールアドベンチャー(18.0%)がトップながら、TOP8入賞デッキのうち4つに《ウーロ》が存在、それでも同大会の優勝は赤単アグロ、という面白い大会結果だった。

 奇しくもプレイデザインチーム(WotC社がスタンダードの機能を調整し、最悪の事態に陥らないように環境を最適化するためのチーム)が設立された後にこの事態を招いています。いったい何が悪かったのでしょうか? テストの過程に欠陥があったのでしょうか? 世界が大きく変わったからでしょうか? 誰もが抜け出したいと思っているのに、どうしてこうなってしまったのでしょうか?

■「デジタル化」を非難すべきではない

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 今から5年前においても、今ほど十分ではないにせよ、私たちは活用するに値する、良質なデータに恵まれていました。
 Magic Online(以下MO)では各フォーマットにおいて4ラウンドのデイリーイベントや、より近い規模のプレリミナリーイベント(5ラウンド)やSCGツアーのオンラインチャレンジが開催されていて、プレイされたすべての試合のリプレイは、サードパーティで視聴できました。より大きなプレミアイベントも開催されていて、2人対戦は定期的に発生し、このデータはすべて機械的に記録されていたのです。
 例えば、3桁、あるいは4桁のサンプルサイズから、すべてのモダンのマッチアップにおいて、誰が勝っていたかを知ることが容易にできました。
 元データを注意深く分析すれば、当時から、どのカードが多く使われたか、何ターン目に唱えられたか、サイドボードの有効性はどうか、などを深く知ることができたのです。さらに、リミテッド(ドラフト)においても、MTG Goldfishのデータから、最も勝ったデッキが使用したカードが分かったのです。

 デッキ選択においては各デイリーイベントで4-0や3-1を記録したデッキを知ることが簡単にできるので、元データ解析が不得手でも問題ありません。最近のデッキ選択傾向に似ていますね?

 この頃、スタンダード環境は健全なままでした。モダンも然りです。

 昨年、《死者の原野》や《王冠泥棒、オーコ》がすべてを台無しにした時でさえ、こうしたデータに変調は見られませんでした。

 同様に、ティムール再生が環境を支配していた時でさえ、mtgmeta.ioのデータ一式を詳細に分析していました。私自身はティムール再生に勝つ方法を知っていた時でさえマッチアップ的には不利と言われていて、トッププレイヤーはティムール再生で勝ち続けていました。

 私は、プレイヤーの皆さんがデータを注意深く見ていないとか、それはデッキ選択に影響を与えるわけではない、と言いたいわけではありませんが、スタンダードが台無しになったのは、デジタル化の加速によるデータの氾濫のせいではありません。

■「デックテク」を非難すべきでもない

(意訳)
 かねてから腰痛がひどくて、腎臓結石が疑われたので、@Amb3rg3r が悪化する前に私をERに担ぎ入れてくれた。で、入院中、とんでもなく大きなガスが出たと思ったら、突然痛みがなくなって、そのまま退院することになったんだ。
 というわけで、Twitterを始めて10周年だよ! おめでとう俺!

 上記の通り、Twitterは10年前からあるサービスで、スタンダードへの悪影響は見られません。Discordは2005年ごろから続くフォーラム機能の現代風バージョンであって、正直に言えば、インターネットの歴史上、最も優れたメディアのひとつと言っても過言ではないのですが、これが即座に当時のツールに遡ってしまったとしても、何ら影響はないでしょう。当時からスタンダードへ与えている影響は変わりません。

 強いて変わったことといえば、Twitter上の収益に関するインセンティブです。特定のプレイヤーが、他の考えの近い誰かのゲームプレイを見ることで、二倍のアイデアを生み出すことができるのです。もし誰かが良いアイデアを思いついたら、視聴者を獲得し、現金を得ることができます(アメリカが競技会場になる際のプロツアーカバレッジも同様で、一部ではそのお金の動く様から"グリーン・バックス"の再来とも呼ばれていますね)。インターネット内だけの影響力とは限りません。
 冗談のようですが、今はフォロワーの少ないストリーマーは、その影響力に見合った金額しか得られませんが、十分な影響力のある下地が整えば、一流の仲間入りをすることで大金を稼ぐようになるかもしれませんよ。

 しかし、そうですね、ある日ストリームチームについてセドリック(※)に聞いてみたところ――その時のプロツアーで、ジャンドを持ち込んだ彼は、《死儀礼のシャーマン》の代わりに《ゲラルフの伝書使》を使っていました。ストリーマーの使用デッキはスタートラインではあるものの、完成形ではありません――、「Twitchは、MtG Arena(以下MTGA)が世に出る前まではそこまでMtGのコンテンツ自体が少なかったものの、枠組みとしては10年前から変わっていない」ということなのです。

(※訳者注:Cedric Phillips(セドリック・フィリップス)。2019ミシックインビテーショナルに出場経験のあるプレイヤーで、以降のミシックチャンピオンシップ解説なども担当している)

 (デックテクが気軽に公開されるようになり)デックテクの公開がメタゲーム分布に与える影響は大きいと思いがちですが、そこまでの影響力はないのが現状です。

■フィニッシャーのデザイン変遷

 この問題については明白に、《ウーロ》そして《オムナス》そのものが、これ以上にない議論の対象となります。

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 さて、このカードが「できない」ことは何でしょう? カードが引けて、ライフを得て、マナを供給することができ、前者はそれに加え墓地から唱えることができ、何度でもそれを繰り返すことができます。
 《オーコ》も同様に、ライフゲイン、無尽蔵のアドバンテージ、当面の脅威への対処をこなすことができ、さらに、早期のタイミングで着地させることができました。

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 過去を振り返れば、フィニッシャーというのは突出した要素が限られていて、異なる脅威を異なる場面で繰り出す必要がありました。
 パトリック・チャピンによる旧来の(フィニッシャーの)役割分担(※)を応用すると、ゲームを速やかに決定づけるが除去に弱い《悪斬の天使》、即時的な影響力に乏しいもののアドバンテージ獲得量が高い《熟考漂い》、高いマナコストと維持コストが必要ながらも除去手段がなくゲームを1枚で決める《変異種》など、パワーカードには様々な種類がありました。《闇の腹心》(古くは《知恵の蛇》や《泥棒カササギ》など)は十分な攻撃力も除去体制もありませんでしたが、返しでの除去がなければゲームを決定づけるカードです。
 アグロが多いのか、ミッドレンジ相手なのか、コントロールへの対抗なのか。そのメタゲームによって効果的な選択は変わっていたのです。

(訳者注:Patrick Chapin氏の執筆した"Next Level Deckbuilding"に、フィニッシャーを定義し分類をした記述があるようです。未確認です)

 さて、今日の「選択肢」はどうでしょうか? 《ウーロ》はアグロにも、コントロールにも、ミッドレンジにも強力です。《オムナス》も然り。《オーコ》もそうでした。

 今のMtGには前述のような「選択肢」がなく、パワーカードの選択は均質化されます。デッキ使用にあたってそうした尺度を気にする必要はもはやないのです。全ての相手に対して有効なフィニッシャーを選べばいいのです。

 そう、それこそが問題なのです。

■「(フィニッシャーへの)回答手段」のデザイン変遷

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 我々は過去数年で得難い教訓を学びました。数年前まで、除去は効率的で効果範囲が広く、環境内のカードの多くは不利な1対1交換を強いられてしまいます。
 私が大好きな《マナ漏出》あたりは非常に好みのカードで、パイオニアやヒストリックにこそ必要とされているカードだと思いますが、おそらくはお荷物扱いされるでしょう。繰り返しになりますが、何に相対するかというのが選択における重要なテーマとなるのです。

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 (現代マジックでは、)除去手段は皆さんが思っているほど悪くはありません。ティムール再生は基本的にすべての回答をデッキに詰め込んでいて、マナアドバンテージやカードアドバンテージに長けていました。しかし、このデッキはローテーション後に苦戦することになります。基本的に相手のクリーチャーを倒すことはできますが、質の良いクリーチャーは倒すことができない、あるいはキャントリップがついていますし、そのすべてが高いクロックを誇ります。プレインズウォーカーに至っては倒すこと自体が困難で、特に「テーロス還魂記」「エルドレインの王権」など「灯争大戦」以後のプレインズウォーカーは特に強力さが顕著でした。一番効率のいい脅威の捌き方は《砕骨の巨人》《神秘の論争》《棘平原の危険》です。それ以外の手段はプレイする水準を満たしていないということは、すべての4色オムナスデッキが、上記以外の回答手段を採用していないことからも明らかです。

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 これは一時的なものであり、黒を含むデッキが許容されてくるならば、別の回答を採用できるでしょう。

 ここでの最たる問題は、ティムール再生の項で私がほのめかした内容ではないでしょうか。一番信頼のおけるフィニッシャーを最大限生かすデッキに対して、その相手に対してのみ一番用途の広く使い勝手の良いカードを入れる、という世界に突入していったのです。
 この件について《霊気の疾風》がいかに問題か、そして《神秘の論争》がいかに強力か、ということになり、それについてはブログの別エントリ(※)に譲りますが、これらはすべて、それらのフィニッシャーによるマナ加速、カードの獲得、それらを延々と繰り返す行為への回答となります。それを繰り返す最善の方法は、対戦相手の足を止め、何もさせない間に、こちらはその手段を繰り返し、マナ、そして手札を枯渇させることで対戦相手を倒す、という戦法です。

(※訳者注:Twitterではそれらしいツイートがありましたが、当該ブログ内には見当たりませんでした。これから書くというような内容でもなく、外部の記事の可能性があります。既出でしたらご存知の方、ご教示ください)

 フィニッシャーへの対処手段のデザイン自体はおそらく大きな問題ではないのですが、現在のカードは対抗手段として弱過ぎます。いずれにせよ、スタンダードという狭い世界でそれが起こってしまうことについては過去にもあり、たとえば《殺戮の暴君》のような、環境に回答手段が2種類しかないカードがフォーマットを支配することはありました。

■昔と今の「ランプデッキ」の違い

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 《成長のらせん》はスタンダードで禁止されました。《探検》は? 天寿を全うしています。《水蓮のコブラ》は最初に刷られた際も強力でしたが、《霧深い雨林》と同居していたにもかかわらず、今ほどの問題は起こしていませんでした。

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 当時《探検》や《水蓮のコブラ》を用いていたデッキのゴールは6マナか7マナ、要は《原初のタイタン》や《ゼンディカーの報復者》がひとつのゴールでした。最近では、《荒野の再生》か《オムナス》がひとつのゴールであり、4マナに到達すればいいのです。

 これに対する回答策を用意するのは非常に厄介です。昔のランプ戦略への対抗策というのは、対戦相手に先行してクロックを展開し、対戦相手におけるフィニッシュ手段の登場シーンに合わせてそれを妨害する、というパターンでした。今はこちらが行動してから、対戦相手がフィニッシュ手段を展開するのに2ターンしかかかりません。ひとたび後手を踏んでしまえば、1マナ域をプレイした後、《軽蔑的な一撃》を構えて殴る、という形で勝つことは期待できません。
(ただし、セットアップに必要な1~2ターンは、いくらかの猶予が生まれるため、幾ばくかの時間を生み出すことはできます。パイオニアやモダンのスピリットデッキは、その僅かな猶予の間にロードクリーチャーを展開して、その僅かなターンの間に相当量のダメージを叩き出し勝ちきる、という戦略です。)

 実際、4マナと6マナでは大きな開きがあります。《原初のタイタン》を唱えるためには6枚の土地が必要ですから、特定のタイミングで《タイタン》を送り出すには、手札の《タイタン》に加えて戦場に6枚の土地が必要になるわけです。昔のランプデッキはその点で苦戦を強いられました。妨害に極端に弱いのです。モダンの《ヴァラクート》デッキは、《風景の変容》を打ちさえすれば確かに1枚で勝つことはできるのですが、「《風景の変容》は1枚で勝つことができるカードだが、8~9枚の土地が必要なことは変わらない」と私は数年間、繰り返し言ってきました。

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 はっ、4マナといえば! 確かに、《探検》からの3T《精神を刻む者、ジェイス》はとても強力な動きでした。しかし、《ジェイス》自体は小型クリーチャーや《血編み髪のエルフ》に対しておしなべて弱かったので、特に問題にはなりませんでした。《探検》経由の《血編み髪のエルフ》もなかなか強力な動きでしたが、《探検》がデッキに残っていれば「ハズレ」扱い、後半に相手への回答が必要な時にめくれてしまうという裏目も抱えたままなのです。《荒野の再生》は一線を画していて、即時回答も難しく、ゲーム展開の中でいつ引いても強力です。

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 さあ、《墓所のタイタン》のテキストを読んでみてください(すごいことが書いてありますね)。しかし、当時のアグロデッキは、《墓所のタイタン》が相手のデッキに入っていようと、スピード勝負を仕掛けることができるのです。6マナですからね。

 繰り返しになりますが、フィニッシュ手段自体は脅威ですが、テキストボックスに何が書かれているか以上に、マナコストも問題になり得るのです。

■ロンドンマリガン――そしてデッキリスト公開制

 ロンドンマリガンのテストがデビュー当時、私はこのルールを懸念していて、それを記事にしています(https://armlx.blogspot.com/2019/04/the-issues-with-london-mulligan.html)。改悪といって差支えなく、間違いなくスタンダードを台無しにした大部分を占める要因であり、カードそのものとは異なる原因であることに疑いの余地はありません。

 マナカーブに沿った展開を行う必要はもはやありません。サイドボード前であっても、対戦時のプランを大幅に調整できるのです。

 デッキリスト公開制とロンドンマリガンの組み合わせにおいて、ミッドレンジデッキは問題を抱えていました。例として、デッキ内に《破滅の刃》と《強迫》の2種がそれぞれ複数枚採用されていたとしましょう。コントロールに対して《破滅の刃》を引き込んだり、アグロに対して《強迫》を引き込んだりしたときは、最初のゲームは「シュレディンガーの猫」状態で開始されます。対戦相手の最初の行動を見て、自身のマリガン判断が良かったのか悪かったのかを後から思い知ることになります。

 しかし最近はその「箱の中を覗く」ことができます。箱の中の猫が死んでいればアグロ相手に《強迫》持ちの初手をマリガンすることができますし、以前とは違い、次の初手に再び《強迫》が含まれていても、それを除いた6枚でゲームを始めることができます。1、2枚の妨害でゲームを組み立てることができ、その後にカードとマナアドバンテージを構築し、その後に、対戦相手が何をしてくるかに応じて、対戦相手がリソースを消費する脅威を叩きつけることができるのです。

 「基本セット2021」後のスゥルタイミッドレンジの勝率は、オープンデッキリストの大会よりもオンラインの高ランクラダーにおいて数パーセント低くなっていたと思います。対戦相手がクリーチャーをプレイするのが分かっているなら、4枚の土地と《ウーロ》《絶滅の契機》をキープすれば上手くいくため、多くのゲームを拾うことができます。相手がコントロールをプレイしているなら、そうしたハンドの代わりに《ハイドロイド混成体》を含む初手をキープしますし、《思考消去》を含む7枚のハンドを喜んでキープするでしょう。

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 直近でアグロデッキが優勝するときは、決まって、固定化されたメタゲームにおいて、環境で予想される除去を完全に回避するクロックを突きつけられる、そのタイミングだけです。黒単アグロやオルゾフ中心の《ウィノータ》が勝ったプレイヤーズツアーファイナルを思い出してください。環境を飛び交う《霊気の疾風》に刺さらない《朽ちゆくレギサウルス》や、黒のタフネス偏重の小型クリーチャー(※)が相手を打ち倒したのです。

(※訳者注:同大会における熊谷陸選手の黒単アグロにおける《漆黒軍の騎士》《死より選ばれしティマレット》《狩り立てられた悪夢》あたりのことを指していると思われます。いずれも火力に焼かれづらいことから採用されているカードです。)

 繰り返しますが、こうしたクロックは初手枚数をそれほど重視しませんが、デッキリスト公開とロンドンマリガンの組み合わせによって、実行可能な戦略は大幅に減らされてしまい、結果として、人々をミラーマッチの道に追いやります。

 どちらか一方がなければまだマシなのですが、揃ってしまえばもはや害悪です。イベント配信という観点からすればデッキリスト公開制をやめることはできませんが、MDFCスペルの土地を採用することでマナスクリューとマナフラッドは解消できるわけですから、ロンドンマリガンについては変更検討の余地があるでしょう。

■MTGA内でのカード獲得スキーム

 これについては別の投稿でひとつのテーマとしてエントリをまとめるべきですが……、MTGAの悪い点は、プレイヤーに色々なデッキを試さないように強いている点です。

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 実際に起こった話をしましょう:2019年の年初、読者の皆さんは私になったと思って話を聞いてください。私はある日、ラダーで53位を記録したグリクシスドラゴンに関するRedditの投稿を見つけました。《ドラゴンの財宝》という、他のデッキでは使いようのないカードに貴重な4枚のレアワイルドカードを使用することになります。……デッキはうまくいきませんでした。これを教訓とし、次のあなたのデッキを構築する準備にとりかかります。

 次のデッキを組もうとした際、しかし、ここで、レアワイルドカードを《徴税人》に使うことはできません。《ドラゴンの財宝》をクラフトしてしまいましたからね。あなたはドラゴンではないので、金色のワイルドカードをたくさんため込んでいるわけではありません。カジュアルなデッキを使用する予定はないので、クラフトした《ドラゴンの財宝》は再び使用する機会がなくなるでしょう。なんらかの商品、何らかのサービス、もしくは《徴税人》と交換することはできないのです。

(余談:MTGAでパックを剥くときに最も出てほしいエキサイティングなカードは、特定のカードではなくワイルドカードだ、ということに気づくでしょう。気がめいることこの上ないですね! テーブルトップMtGの未来に期待するなら、人々が特定のレアカードを求めてパックを剥き続けるというMTGAでは行われない行動に価値があり、印刷され続けることを切に望みます。)

 このお話は2つのハッピーエンドに恵まれます:私は2マナのレアカードよりも1マナのコモンカードの方が《敬慕されるロクソドン》との相性がいいことに気付くことができたのです。それ以降は最高のデッキをプレイしました。SCGオンラインにおいて並みいるウーロデッキをバッサバッサとなぎ倒し、成功を収めました。《ドラゴンの財宝》がゴミ箱行きになったのが、この成功の要因だったのです。

 そう、これは私の実体験であり、何度も何度も高いレベルのゲームに触れ学びを得たおかげで、報われたのです。

 しかし、今からこのゲームに参加する人のことを想像してみてください。彼は4色オムナスにぼこぼこにされました。そのデッキに負けるのが悲しいと感じます。そして彼らはそのデッキをプレイし、4色オムナスの人々に学び(、今度はその対戦相手が、、、)と繰り返されます。もしくは、プレイするのをやめてしまう人もいるでしょう。

 また、4色オムナスを対戦相手が使ってくる可能性が低い場所をMTGA上で見つけることも不可能に近いでしょう。そもそもMTGAでは「土地破壊なし、打ち消しなし(※)」と投稿して、それに興じてくれる対戦相手を見つける、ということも不可能です。
 ブロールでさえその条件で対戦相手を見つけることは難しいでしょうし、ましてやヒストリックでは言うに及びません(冗談ですが、ワイルドカードの消費量から考えれば、ヒストリックの方が効率的ですね!)。他のフォーマットもしかりです。きっとDiscordで「オムナス使用禁止の直接対戦部屋」みたいなチャンネルがあるんでしょうね。私は知りませんが……。

(訳者注:原文“No LD No Counters”ですが、LDが何か分かりませんでした。ご存知の方はぜひご教示お願いいたします)
(10/8追記:複数の方よりLand Destruction(土地破壊)の略と教えていただきました! ありがとうございます! 上記修正しました。)
※なお、"No Counter, No LD, No Discard"(打ち消しなし、土地破壊なし、手札破壊なし)とは、公式でも使われている表現でした。
https://magic.wizards.com/en/articles/archive/serious-fun/winning-2009-04-07-0

 最終的には、4色オムナスにいやというほどぶつかり続けるという経験を経て、そのフォーマットをやめるか、どの競技レベルにおいても安直な選択肢を選び続けていく、という傾向が一般的になるでしょう。私自身、カラデシュ期のスタンダードで結果が出せず、モダンを中心にプレイする方向にシフトしたぐらいです。

 それでも、「MTGAの台頭によってスタンダードがこれほど流行しなかったらこうはならなかった、我々のMtGは日の目を見ていたはずだ」――とは思いません。事実、《オーコ》や《死者の原野》については、まだ我々がバレー・フォージ・カジノ・リゾートへ気兼ねなく旅行に行けた頃の、テーブルトップ上での問題でした。しかし、議論における声色が高くなってきたという変化について注目していくと、MTGAの存在は大きいものなのです。

 MTGA内でのカード獲得スキームを根本的に見直すことは、「他媒体との兼ね合いを考慮する必要がなく、良いアイデアであり、実行も不可能ではない」……とまでは思いませんが、現在のスタンダードにおける「Tier0モノカルチャー」(使用デッキ、あるいは想定敵が1本に絞られる状況)は、今後のゲームの健全性を保つためにも、この状況を打破していくべきだと思っています。

■終わりに

 スタンダードが台無しになった理由はひとつだけではありません。そう、禁止カードが1枚だけでは済まないように。多くのシステムによって完全に台無しになってしまったのです。いくつかの問題点については簡単に修正できますが、いくつかはとても難しい問題で、これからも付き合っていかなければならないでしょう。

 いま直面している問題から解放された環境を構築することは可能だと思いますが、いくつかの段階を踏まなければならないでしょう。たとえ《ウーロ》《オムナス》《幸運のクローバー》《エンバレスの宝剣》《硬鎧の大群》といったカードを禁止したところで、結局は一時的な問題の解消にしかならないのです。

Posted by armlx at 6:36 PM

(筆者追記:Twitterでの反応から一部抜粋)

(意訳)
Piotr Glowogski:「データへアクセスできる状況に責任はない」ということだけれど、実際にTier0デッキ以外のデータについては明らかに不足しているし、それ以下のデッキについては、そもそも、どれがいくらかマシで、どれが失敗作なのかは判別が難しい、というのが現状かと。

Piotr Glowogski:アリーナの資産スキームについてはごもっともだけど、実際にMOで2回3-1以上を記録したデッキを見つけることは難しくて、僕が(デイリーミッション消化のために)拾ってくるリストは、Twitterでよく見る「信じられません!このデッキで37勝6敗でミシックに到達しました!」みたいなツイートが出所だったりする。

Ari Lax:ここ半年ぐらい、SCGツアーオンラインとマジックフェストオンライン予選は、同じぐらいのボリュームでデッキリストを提供してくれているはず。まぁ、確かに規模は小さいんだけど。

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