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『生まれてきたことが苦しいあなたに──最強のペシミスト・シオランの思想』を読んで

最近「ネガティブ」について考える機会があった。何かヒントになるかもしれないと思い、本書を読み返す。サブタイトルに書かれているように、本書は最強のペシミストと呼ばれている(?)エミール・シオランの思想を紹介する本である。ペシミストとは簡単に言えば「暗い思想」を持つ人のことだ。ネガティブなことについて考えるならば、打ってつけの本なのではないだろうか。

この本を最初に知ったのはいつ頃だったか。なぜ知ったのか。あまり覚えていない。今手元に残されているという事実だけがある。確か、ネットでこの本の存在を知ったと思う。タイトルがよかったのだろうか。表紙もいい。何とも言えない暗い感じがある。


シオランについて少し

エミール・シオランは1911年に今のルーマニアで生まれ、第二次世界大戦後フランスで活躍した思想家・哲学者・作家・エッセイストである。1995年(84歳)に亡くなり、数多くの著作を残している。

彼は労働を拒否し続けた。1936年から1年間だけ、ルーマニアの都市ブラショフで高校教員として勤めていたことがあるが、そのほかには、短期間のものを除けば、定職に就くことなく生涯を終えた。

一般に人間は労働過剰であって、この上さらに人間であり続けることなど不可能だ。労働、すなわち人間が快楽に変えた呪詛。もっぱら労働への愛のために全力をあげて働き、つまらぬ成果しかもたらさぬ努力に喜びを見出し、絶えざる労苦によってしか自己実現はできぬと考える──これは理解に苦しむ言語道断のことだ。(『絶望のきわみで』160-161頁)

p.66-67

また、彼はとても暗い本を書くけれども、日常生活では明るく、よく笑い、人と話をするのが好きだった。彼は書物上では自殺を推奨したりするけれど、実際に自殺願望がある人と話すときは、たいてい自殺を奨めなかった(そうである)。

本書の目的

この本は何を目指しているのか。本書の目的はシオランの思想を紹介をするだけではない。著者の大谷崇は「ネガティブなことを言うシオランは、実は私たちが人生を生き延びるためにとても役に立つということを言いたい」と述べている。「不思議なことにシオランの文章を読むと、意気消沈するどころか、逆に元気になってしまうことがよくある。それは彼がネガティブなことをこのうえなく「生き生き」と語ってくれるからだろう」。ネガティブなのは悪いことばかりではないかもしれない。ネガティブのよさについて少し考えてみるのも悪くないだろう。

感想──ネガティブは生きる知恵である

この本はネガティブなことに前向きになれる本だ。この本で取り上げられるネガティブなことは「怠惰」「死」「自殺」「憎悪」「衰弱」「病気」「人生のむなしさ」「生まれてきたことの苦悩」など。最終的にこの本では、「ペシミズムは生きる知恵」であると大谷は主張する。ペシミズムが「生きる知恵」などと言われると逆説的だとおもわれるかもしれない。確かにそうだ。しかし、ペシミズムは人生と世界を憎むことを愛してしまうのである。これはペシミズムの中途半端さである。生を嫌っているのに生きざるをえない、全力で人生と世界を罵倒するのに、嫌っているはずのその惨状に魅了され、ずっと生にとどまっている半端者がペシミストなのである。

ペシミストほどこの世の悪をよく味わうことができる者はいない。それは、生の中で生をよく味わう──悪を味わうという技法にたけているということだ。これはペシミストの立場からすれば大失敗だ。しかし普通に考えれば、よく生きることほどよいものはないのではないだろうか。

p.336

いわゆる〈ペシミズム〉とは、存在する一切のものの苦しみを味わうすべ、つまり〈生きる知恵〉にほかならない。(『カイエ』843頁)

p.338

しかし、ペシミズムがいくら生きるための知恵だとは言え、苦しいものは苦しい。ぼくたちはいつまで、「生まれてきたことが苦しい」ような世界を作り続けるのだろうか。

参考文献


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