地方で体験農業や生産業を営む方へ「ビジョンと体験から生まれるファンコミュニティ」
先日、インターネットマーケティングフォーラムにて、 飯尾醸造 五代目当主 飯尾彰浩氏 のお話 「ビジョンと体験から生まれるファンコミュニティ」を聞いてきました。
体験農業や体験プログラムを運営される方、地方で製造業を営む方の参考になることもあるかと思い、シェアします。
ファンを基盤としたマーケティングについて聞きに言ったつもりだったのですが、 結果、飯尾さんの、以下のような志の高さに感銘を受けました。 ・社会意義のある新商品を開発すれば、それを大企業が模倣し、結果、集団で社会課題を解決することができる。 ・町に観光客を呼ぶため、こだわったレストランを出したい。赤字でもやる。
好きな言葉は、二宮尊徳の「道徳なき経済は罪悪であり 経済なき道徳は寝言である」とのこと。 ではここから、詳細をレポートします。
飯尾醸造さんの経営理念
飯尾彰浩さんは、飯尾醸造で富士酢などの酢の醸造をされている会社だ。
飯尾醸造さんのホームページより
飯尾さんは、コカ・コーラ社で4年修行した後、家業である飯尾醸造を継いだ。 そのとき、「大手企業の逆の戦い方をする」と決めた。 具体的には、広告宣伝費ゼロ、専任営業マンゼロ、ECモール・催事出店ゼロということだ。
新規顧客ではなく、既存顧客を PUSHではなく、PULLで ハートで ひきつけていきたい。
経営理念は「もてるお酢屋」。 ユーザー、社員、原料生産者、生産者仲間、取引先の6つのステークホルダーから「もてる」ということだ。 ※例えば、社員にはお酢商品を無料で配布している。
小さくても強くありたい、むしろ、小さいからこそ、強い絆を大切にありたいと思っている。
こだわりの商品と、それを伝えるマーケティング
飯尾醸造の商品単価は、市場平均価格よりだいぶ高い。
それを支える強みは、50年前から無農薬、原料費大手の50倍、大手の50倍時間をかけるというこだわりだ。
社の商品、ビジョンを伝え、身近な体験をしていただくため、 ブログで情報発信をしたり、蔵見学プログラムなど、さまざまな施策を実施している。
ブログ投稿は2,000年から、2,000件以上投稿している。
蔵見学プログラムを実施している。年間3,500人程度の方が訪問。 大型バス、ツアーバスはお断りしている。 理由は、場の雰囲気が変わってしまうから、飯尾醸造をめあてにきてくれたお客様に失礼になると考えたからだ。
自社サイトではお酢のレシピを紹介している。 また、通販で買ってくれたお客様には、購入商品にあわせた、季節に合わせたレシピを同梱している。 レシピ紹介を続けていたところ、出版社から声がかかり、本を出版した。「京都のお酢屋のお酢レシピ」だ。
体験プログラムもこだわる
酢のもとになるお米の体験プログラムも実施している。 はいめたのは、こんな背景からだ。
酢の材料である米は、50年前から無農薬で育てていた。 しかし、契約農家の高齢化により、一部の棚田が荒れ地になった。 そこで、自分たちでコメ作りをした。 素人が、棚田で、農薬を使わず作業するのは大変だった。ただ、楽しかった。
飯尾醸造さんの無農薬水田 (飯尾醸造さんホームページより)
楽しかったので、これを体験会にしたらどうかと考えた。 今では、年間200人を超える方が来てくれている。
中には、何回も来ていただいている方もいる。 飽きないように、毎回同じではない工夫を凝らす。
例えば、プロのカメラマンやスタッフが一眼レフで撮影した写真を後日データ提供。 田植え中は手が汚れて写真がとれないが、記念になると横論でいただいている。
例えば、お弁当。 近隣農家でとれた食材を分けてもらい調理。 手間はかかっているが、ご厚意により、材料費はかかっていない。 その地でとれる新鮮な食材、体験者の方は楽しんでくれる。
例えば、田植え稲刈りファッションショー。 イベント当日の写真をとって、番おしゃれだった人に無農薬のお米と非売品のお酢を提供するのだ。
夜は50-60人の参加者と宴会をする。 参加者同士でも仲良くなり、飯尾酒造と離れたところでも、体験会参加者同士で遊びに行ったりしている。 飯尾酒造は、コミュニティのハブとして機能しており、体験会参加者同士での結婚もあったそうだ。
「社会性」に根差した商品開発と「合気道的拡散」
商品開発で大切にしているのは「社会性」だ。 例えば、台所ごみの40%が手つかずの食品である「フードロス」へ対応する「ピクルス専門酢」。
冷蔵庫の残り野菜を使って簡単にピクルスが作れちゃう“エコなお酢”として、 ピクルス専門のお酢「富士ピクル酢」を開発した。 これを販売したところ、翌年、大手メーカーから類似品が販売された。 飯尾さんは、これを「競合にシェアを奪われる」とは考えない。 「自社だけでは解決されない課題を、力の強い相手の拡散により社会課題は変えられる」と考え、歓迎している。
業界大手企業は、市場に出た新しい商品を模倣したうえで、広告宣伝や販売力を活用することで、後から参戦した市場でも高いシェアを獲得する。 これを活用することで社会課題を解決できるのではないか。 飯尾さんは業界大手の模倣も含め、社会課題を解決する新しい商品群が市場に広がることを「合気道的拡散法」と呼んでいる。
弱さもさらけ出せる関係性
お酢の原料米が余ってしまったことがあった。 契約農家のコメの余剰分だ。 通販で購入をお願いし、応援購入していただいたという。
ラベリング位置のミスがあったこともある。 これも、正直にお客様に伝えた。 応援購入していただいたという。
このような「弱さもさらけ出せる関係性」も、飯尾醸造さんにお客様が定着している秘訣かもしれない。
主事業周辺領域での情報発信
「酢」情報発信をすることで、市場の中での存在感を高めていく、「ソートリーダーシップ戦略」を飯尾醸造さんはとっている。 具体的には、たとえば以下のようなことをしている。
手巻きずしのプロ「手巻キング」として情報発信。 手巻きずしパーティ完全マニュアルを作成している。
丸の内朝大学で「海外とつながる手巻き寿司講座」を開催。 多くの講座参加者に、実際に工場にも来ていただいた。
「江戸前シャリ研究所」を主催。 寿司職人の方と、いかにシャリをおいしくできるか研究をしている。
これらの活動をつづけたところ、直接買ってくれる人が増えたという。
町への貢献
町の活性化のために、町に泊まってもらう人を増やしたい。 そのためにはおいしい食事、レストランが必要と考えた。 150年の古民家、150坪 を買い取り、シェフをよんでレストランを開業した。
年間売上の30%を投資したが、いまだに赤字事業だ。 しかし、レストランがあることで、町への宿泊者は増えたと思う。
一番食べに来てほしい人は、毎年お酢を購入してくれているお客様だ。 その方々には、食事無料チケットをプレゼントしている。 その方々が来てくれれば来てくれるほど、レストランは赤字になるが、チケットのプレゼントは継続している。
以上、飯尾さんから伺った飯尾醸造さんのお話をレポートでした。 改めて見直して、様々な打ち手をうっている、その数に驚く。 また、それぞれの打ち手の中に「もてるお酢屋」を実現する という思いが一貫して通っていることがわかります。 自社が儲けるだけではなく、町のため、社会のためまで考えたその視座の高さも感銘を受けました。
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