君たちはどう生きるか 純濃度ジブリというより、詩のような作品だった

先日「君たちはどう生きるか」をみてきました。

兼ねてから噂は舞い込んできていて、「濃縮されたジブリ!」「抽象的で難解」という声があったのですが、今敏監督や幾原邦彦監督、安倍吉俊の作品が大好きな私向き!?ということで駆け足映画館まで行ってきました。

正直な感想としては、「右脳は面白かったが左脳はガッカリした」というものでした。

感想概要

視聴後の満足度は意外と高かったんです。高すぎるアニメーション技術(特に風景画!!)やキャラクターたちの魅力、表現の幅の広さ…
脚本以外の面での純粋な映像作品としてはさすがジブリ、物凄く楽しめました。これだけでも見る価値はあると思います。
ただ、巷でよく聞く「ジブリの原液」といった感想にはかなり懐疑的な意見です。

この作品には今までのジブリ作品のモチーフの欠片がありとあらゆるところで登場します。
廊下を駆ける千と千尋のようなシーン、ハウルに出てくる丘、ポニョっぽい波、こだまっぽいわらわら…
熱心なジブリファンではなくてもそう感じたので、詳しい方だともっと色々な場面で気づくのではないでしょうか?
それを原液と表現しているのだろうという予想なのですが、過去の作品のモチーフをパッチワークしていて、むしろジブリ作品としての新規性を感じません。個々の作品のモチーフをただ引っ張ってきているだけなので、むしろ本物の生き生きとした活かし方からは遠ざかり、原液どころか薄味のジブリを飲まされているようです。

この世界が創作についてを語っているなら、あえてそのように意図的に描いているのでしょう。概念としてのジブリを散りばめて、ジブリ作品の制作を表しているのだと思います。強いていうならジブリの総集編といったところでしょうか。

難解というよりもアート

難解な作品、大好きです。考えれば考えるほど、見返せば見返すほど発見があり、作り手の作り込みや造詣の深さに驚き、長く深く楽しめる作品…
難解な作品と聞くと、そういった作品のイメージがあります。
そういう意味で照らすと、「君たちはどう生きるか。」は難解な作品ではありません。

視聴後にまず思ったのは「私は知識不足で、この作品の真の意図を汲み取れなかったのだろう」という感想です。
その知識がジブリに対する知識なのか、民俗学的な知識なのか、はたまたもっと違う何かなのか。
じっくり感想を反芻したのち、ウキウキした気持ちで他の方の感想や考察記事を読みました。が…

どの考察、感想も納得できるようなものはありません。考察記事では珍しくない「考察しすぎて妄想の域に入っている」というものばかりのように思えます。誰かの言葉がフックになって解釈が広がるとか、ピースとピースがぴったりはまる、そんな難解な作品にはよくある感覚が全くありません。
一日じっくり考えた後、「これはおそらくアート作品なんだ」という結論に達しました。

考察でよくみられた意見としては、これは宮崎駿が自分の人生について語っている、という意見です。それが正しいのだとすれば、これは非常に個人的な作品であり、本当に意味を理解するのであれば宮崎駿の人生について詳しくなければいけません。
元来のエンタメでも自叙伝的な見せ方をすることはありますが、あくまでエンタメです。個人的でわかりにくいものほど、視聴者が理解しやすいようモチーフや考えを脚色・省略・洗練して視聴者に届けるものです。

一方でそうではない作品もあります。知り合いに見せることを前提としたものやエンタメからは離れてアート的に自己表現をしようとする自主制作映画系です。
「君たちはどう生きるか。」は個人的な事柄を描きながら、視聴者に理解させる気のない、抽象的で無意識をそのまま書き写したような(宮沢賢治風にいうなら心象スケッチ)、そんなアート作品だったんだと思います。
そうなのだとすれば、セーブザキャット的なエンタメからは遠ざかり、正統な脚本を書く気のない作品だということです。
であればいくら見返しても、いくら考察しても何かを掴むことはできません。そういう楽しみ方自体間違っていて、詩に近い本質を持つ作品なのだと思います。

同じような印象を持つ作品としては、村上春樹の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」でしょうか。
初見では今敏作品に近いと思いましたが、それは上部の印象だけでした。

その手の作風もそれはそれで大好きですが、表現手段がパッチワーク的なのが少し残念です。
私的な作品なのであれば、もっと貪欲に私的に濃い独自の世界をを見たかったです。
散りばめられたジブリのお陰でエンタメの体裁を保っている側面もあるので、今作に出てくる積み木のように絶妙なバランスで成り立っているのかもしれません。


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