2019-09-05_21_06_56-スタート

多分世界で一番リアルなVOCALOID5レビュー

おことわり

 筆者はVOCALOID2、3、(ピアプロスタジオ上での)4を使った経験はあるものの、お世辞にも使い込んだとはいえないので「V4以前と比べて音がどう変わったか」の比較はできません。
 一方V5は(そもそも買っている人が少なすぎて)もしかしたら世界で5本の指に入るくらい使い込んでるかもしれません。ていうか世界一VOCALOID5を使い込んでる人って誰だろう。いたらトカゲアザラゴンと友だちになりませんか。

※以下、「VOCALOID5」の略称として「V5」を使用します。
※9/10に色々と間違いや不足があったのを追記・修正しました。「追記」でページ内検索していただけるとそこだけ読めると思います。

VOCALOID5の1年

・2018年
 ・7月12日 
  唐突に発売
 ・7月26日 
 「結月ゆかり」「歌愛ユキ」などを擁するAHSより「桜乃そら」発売
 初のVOCALOID5専用他社製ライブラリ

・2019年
 ・3月30日 
 "flower"などを擁するガイノイドより2番目の他社製音源「鳴花ヒメ・ミコト」発売
  専用のアタック・リリースエフェクト(V5の新機能)が付属する初の他社製ライブラリ
 ・5月末 
 購入者向けに「桜乃そら」専用アタック・リリースエフェクトの配布開始
 同時に体験版の配布も開始。V5ライブラリの体験版はこれが初である
 ・8月末 
 「初音ミク」などを擁するクリプトンがヤマハとは別に研究した合成音声技術「Next Generation Piapro Studio」を発売することを発表
 「初音ミクV5」が出ないことがほぼ確定したどころか界隈は今まで目を背けてきた「これからもミクさん(やCevioやUTAU)を(YAMAHAの商標である)ボカロと呼んでいいのか?」という問題に本格的に激突することに

余談 トカゲアザラゴンとVOCALOID5の1年
・2018年

 ・7月 
 多分発売直後に購入。家にV3エディタが転がってたので財布のダメージを最小限に抑える。
 声ネタの多さなど可能性を感じるもののチルトホイールを傾けるだけで落ちる不安定さに耐えかね塩漬け
 ・10月 
 なんかこの辺のアップデートでチルトホイール傾けても落ちなくなったことに気づく
 同月末にはトカゲアザラゴン初のV5使用作品「バケモノの日」が投稿される。
・2019年 
 ・1月 
 ルカ誕に出す予定の曲が諸事情で出せなくなり締切がやばいことになる中突然楽しくなってまともに調教を始める。
 時間がないなりに大きな手応えを感じ本格的にV5派に。ちなみにその曲が"Presence"
 ・3月 
 Kaoriに手を出し「狂熱のディスコ」投稿。手応えを感じる
 ・7月 
 ジャズの制作に難航し一周年を華麗にスルー

VOCALOID5のいいところ

・Cubase以外のDAWとのインテグレーション、Mac対応
VSTiやAUとして起動する機能がようやく公式化。
後述のレンダリングの変化も相まってかなりサクサクと打ち込めるように。
ただDAWによっては安定しないらしいので注意が必要。予めデモ版で普段の音楽制作環境に導入することをおすすめ……と言いかけましたがデモ版がないので……どうしたらいいんだ?
ちなみにちゃんとスタンドアロン版もあります。自分的にはDAWから離れたところでの打ち込みは極力避けたいのだが、PCリソースを節約できるので実はかなり需要があるそうで。ピアプロスタジオではなくYAMAHA謹製のエディタを使う一番のメリットかもしれない。

・アタックリリースエフェクトによる調教の幅の広がり
エッジボイス(ボーカルフライ)、がなりなどができるようになり出せる声の幅が広がった。
この機能の恩恵を存分に受けたのが付属ライブラリの一人であるKaoriで、元の性質もあいまって非常に黒人音楽的な歌い方ができるようになった。
他つんく♂プロデュースのアイドルあたりがピッチを極端に上げ下げしてインパクトを出す歌い方も今までより手軽にできるように。
……ただ実はこの機能にはかなり大きな問題がある。それは後半へ。

・レンダリングタイミングの変更
世間的には否寄りの賛否両論のようなのだが、自分の主観ではこれは大きなメリットだと考えているのでここで。
V4までのVOCALOIDは再生してからレンダリングを始めているので再生ボタンを押してすぐ歌ってくれるわけではないという大きな問題があったが、V5では音符を置いたり、パラメータをいじったり、アタックリリースエフェクトをかけた段階でレンダリングを始めるようになっため、適切に使っていれば再生ボタンを押してすぐに歌ってくれるようになった。ミックスが効率的になったように思う。
ただし、よく言われているとおりレンダリングに時間がかかるため、リージョンはある程度細かく分ける必要がある。

・なんだかんだで声のいい付属ライブラリ
VOCALOIDを買う人の最大公約数的な需要には全く合わない気がするが、基本的に付属ライブラリのできはいい。Amyだけは少しメインボーカルとしての使いどころに迷う感はあるが、どのライブラリも曲を作りたくなるいい声をしている。
ブラウザからSoulful Phraseで絞りこんで適当に聞いてみれば、これまでのVOCALOIDのイメージと違ったパワフルな歌声を聞かせてくれる。……Amy以外は。Amyもよくよく考えてみればいわゆる「ケロケロボイス」が流行りだした頃の洋楽には比較的向いた声だとは思うが、なんというかSoulful Phraseを聞いていてもAmyの扱いに関しては自信のなさを感じてしまう。後述の声ネタとしての使いやすさを重視したのだろうか?
(9/10追記)……が、これもTwitterで指摘を受けて主に海外ボカロPがAmyを使っている動画を数個見てみたところ、少なくともKaori並みの実力はあることはわかった。ソウル~R&B系であれば、日本語英語男性女性がVOVALOID5 STANDARDだけで揃うことになる。

・声ネタとしての活用
なんだかんだ言ってそれっぽい声ネタを集めるのは大変であるが、VOCALOID5は良くも悪くもそこに力を入れていて声ネタ集としても使える。
……もっともVOCALOID5を買えるくらいの財力があれば他に色々と選択肢があるというのもまた事実である。

ダメなところ

・他人の声が混ざる
Twitterでも何回か話題になっているのを見たことがあるかもしれないが、
・アタックリリースエフェクト
・ブレス
は歌と違ってその場で合成しているというよりは予めサンプリングしたものを重ねているように聞こえる(確かに広義ではそれもまた"合成音声"ではあるのだが)。
これにより多くのライブラリでは、声優の声に黒人音楽系の歌手のブレスや声の成分が混ざることになる。不自然に感じる人も多いかもしれない。

・とにかくパラメータのかかりが極端
これもVOCALOID5の評判を下げている大きな要因であろう。アタックリリースエフェクトにせよ、Singing Skillにせよパラメータを「1」から「10」の段階で設定できるのだが、他のDTMソフトなどと比べた平均的な感覚からすると「5」が「10」くらいの派手なかかり方をする。そして初期値は基本的に「5」である。そうであるにも関わらず、「1」から「3」あたりで気持ちいいところを探すということになり、正直このあたりの効率はかなり悪い。

・Kaoriが扱いにくい
筆者が「扱いにくい」とされるVOCALOIDを基本的に避けているのもあるが、とにかくKaoriは扱いが大変である。今まで投稿した2曲はどちらも予定の歌詞やメロディでは自然に歌ってくれず、なにかしらの変更を強いられている。なんだかんだ5人以上のVOCALOIDを使ってきたが、歌詞はおろかメロディの変更を要求してくるほどわがままだったのは今のところKaoriだけである。
それでも筆者にとっては好みの声なのでこの仕打にも耐えられるが、スタンダード・エディションではこのじゃじゃ馬が「日本語女性ボイス」というVOCALOIDで最も需要のある音源なのである。例えば声質の根幹はほとんどいじっていない筆者のKaori曲を聞いた後に他の方のKaori曲を聞いてみると、まず声音づくりに苦労している人が多いのが察せると思う。「VOCALOID5を買ってボカロ曲を作ろう」と思うと、大抵の場合はこのじゃじゃ馬を乗りこなすか、1万円~2万円を追加して他のライブラリを買うか、という厳しい2択を迫られる。

ところで最も人気のあるVOCALOIDである初音ミクにはどのバージョンも基本的に無制限で使えるVOCALOIDエディタが付属している。なんならV3以降はDAWまで付属している。それでいてVOCALOID5のおよそ半額である。しかも扱いやすさはトップクラスである。……彼女の人気の秘密は、おそらくこういうところにもあるのだ。

・トランスポートの工夫が必須←間違ってました(9/10追記)
VOCALOID側からトランスポート(再生停止、再生位置の移動など)ができない場合、VSTとして動かす場合でもRewireの設定をうまいこといじってやる必要があるようです。
とりあえずCubase10.0.40とVOCALOID5.3.1の組み合わせだと特にRewireの設定なしでいけました。
DAWをCubaseに変えたからできるようになったのか、V5側のアップデートによるものなのかは不明です。
ただしループ再生についてはDAW側でしか設定できません。

・シーケンサーとしては相変わらず気が利かない、正直「ダメ」
どうしてはちゅねのないしょはV2でしか使えないんですか? ていうかどうしてはちゅねのないしょの人をVOCALOID3のエディタの開発に招かなかったんですか?
ツールの切り替えのショートカットがCtrl+数字キーのため切り替えにくい、複数の音符をまとめてクオンタイズができない、などもういくらでも悪口が言えてしまう。
口が滑って「開発してる人これで実際に曲作ってないでしょ」なんてもう人前で5回は言ってると思う。
一番困るMIDIデータを読み込んだときの扱いで、V5からはようやく音符を置いたときの初期歌詞を「ら」にできるようになったのだが、MIDIデータを読み込んだ際はこの設定は効かず、うっかり意気揚々と再生すると「あああああ!!!!!!」などと歌い始める。叫びたいのはこっちだよ。
一応CLCLなどのクリップボード記録ツールに「ら」を60回くらい連続で入力したものを登録し、それを最初の音符にペーストすることで対応できる。
(9/10追記)
のりツールはないですが、複数リージョンを選択して「Ctrl(MacならCommand)+J」でそれらを結合するという実質のりツールとして使えるショートカットがありました。最初からあったのかは不明です。

・価格と要求スペックの上昇
もうあちこちで散々語られてるし、この記事でも何回か書いたしこの話わざわざしなくてもいいかな……と思うが、やはりこれを言わないわけにはいかない。ここまで読んでいただけたならわかっていただけるだろうが、「確かによくなったものの、ものすごくよくなった」わけではない。例えば未だに鍵盤を押したらラララで歌ってくれるといった普通のDTM音源なら当たり前のこともできない。
倍以上の価格上昇分に見合うか? 大幅な使い勝手の変化による技術の習得し直しに見合うか? と言えば、(V5でしか新規で使えないライブラリが気に入らない限り)答えはNOとしか言いようがない。どう見ても「抱き合わせ商法」にしか見えないのも大きなマイナスポイントだ。
また、Twitterで見かけたVOCALOID5に対する批判には「それ単なるスペック不足の症状では?」と言いたくなるものも結構あった。ただ、食うリソース相応の代物かというとやはり前述のようにNOを突きつけたくしまうのだろうとも思う。
ただ一応の擁護として「DTMなんてかけたお金とクオリティの比例しない最たるもんだよ」という話ではあるので、VOCALOID5を特別責められるわけでもない気もする。するが……

・余談 「歌うVOICEROID」制作環境が知らん間に進化していた話
周りでVOCALOID5の価格の話になると、
「もはや歌うVOICEROIDのほうが参入障壁低くない?」
という話をされる方がいらっしゃったのだが、それに対して筆者は半年くらいこう思っていた。
「え? ボーカル修正ソフトやUTAUとVOICEROID行き来しながら地獄見てる初心者そんなにたくさんいるの? 流石にミクさん買ったほうがよくね?」
と。しかしある日"Kotonosync"なるソフトの存在を教えられ自分の見識の低さを恥じることとなってしまった。
現状冒頭で紹介した「鳴花ヒメ・ミコト」についてはこのような技法でTalkを歌わせるのが主流になっているという現実もあるらしい。VOCALOID5の最大のライバルはUTAUやCevioではなく、そしてNext Generationですらなく、VOICEROIDなのかもしれない……

まとめ

筆者はVOCALOID5に対して肯定派ではあるがゆえに、なるべく褒めることを意識したレビューを心がけたものの、それが
・家に転がってたV3エディタで安く買えた
・十分なスペックのPCを持っている
・何より付属音源のKaoriを気に入っている
という3つの条件が揃っているからだということは正直言って否定できない。
最も人気のあるVOCALOIDが今も昔も初音ミクであるという現実が変わらない以上、
「VOCALOID5よりもぶっちゃけNext Generationのが気になる」
という人は多いだろう。
また、現状抱き合わせ商法にしか見えないエディタの売り方をしているがゆえに
「花ちゃんもウナちゃんもきっとVOCALOIDとしてしか生きていけねえんだよ! 一人使うためだけに5万近く払えってかオッラァン!」
と素直に怒りたくなる人も多いだろう。
今までと比べるとかなり精力的にアップデートしていたりと他にも褒めたいところもあるが、とにかく抱き合わせ商法の印象のせいで第一印象が悪すぎる。でもそこを乗り越えたらぜひKaoriやKenを使ってあげてほしい。
……という、煮え切らないオチで締めようと思います。

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