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ニンジャスレイヤーTRPGキャンペーン「クローム・オア・ゴールド」第二話

「死は金になる。お前にとっても、お前の敵にとっても」
――ストリートの警句

これは2020/5/23-5/27にT1000GさんをGMとして行った、ニンジャスレイヤーTRPGのキャンペーンリプレイ小説です。
第一話

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キャラクター紹介

インフェイス(PL:uzi)
カラテ:4  	体力:4
ニューロン:3	精神力:3
ワザマエ:6 	脚力:4
ジツ:0   	生い立ち: ○堕落マッポ
◇装備とサイバネ
カタナ
◇スキルとジツ
◉常人の3倍の脚力、◉トライアングル・リープキック
◇コネクション
交渉: 1、脅迫: 4、虚言: 1
仲買人Lv1、ドージョーLV1、マッポLv1
◇補足
ネオサイタマのフリーランスニンジャ。
元々強い正義感を持っていたレッサーマッポで、チーフマッポの不正を許容できずジキソした時に署長にもみ消され暗殺された。
その時ディセンションし、不正を働いていたチーフと署長を惨殺した後にそのまま逃走した。その後ネオサイタマで夜な夜な犯罪者をツジギリしている。
たまに出される賞金首などを狩りながら生活費を稼いでいる。
非常に快活な性格で、アンタイマッポ制服の上に「信念」とショド―されたハッピを着ている。
サイバーブロンド(PL:ANIGR)
カラテ:5  	体力:5
ニューロン:5	精神力:5
ワザマエ:4 	脚力:3
ジツ:0   	生い立ち: ○サイバーゴス
◇装備とサイバネ
▶生体LAN端子、▶▶▶テッコ+++、▷内蔵電磁ダガー
キーボード・オブ・ゴールデンエイジ
◇スキルとジツ
-
◇コネクション
交渉: 1、脅迫: 5、虚言: 2
サイバネ技師Lv3、ハッカーLv1
◇補足
サイバーブロンドはサイバネ傭兵ニンジャである。
大小問わず仕事を適当に受けて日銭を稼いでは趣味のサイバーゴス・ギアに費やしている。
将来の夢、いつからニンジャになったのか、彼女はそういった複雑なことを考えるのが苦手だ。
ブラボースリー(PL: Wolfram)    
カラテ: 4  	体力: 4
ニューロン: 5 	精神力: 5
ワザマエ: 5  	脚力: 3
ジツ: 0  		生い立ち: ○サイバーゴス
◇装備とサイバネ
湾岸警備隊アサルトライフル、グレネード
サイバーサングラス、タクティカルニンジャスーツ
アサルトハーネス
オーガニック・スシ、トロ粉末
◇スキルとジツ
-
◇コネクション
交渉: 2、脅迫: 1、虚言: 5
情報屋: Lv1x2、仲買人: Lv1、ハッカー: Lv1
◇補足
キョート共和国との国境地帯での作戦中にニンジャと遭遇し部隊は全滅。戦死扱いとなる。
ネオサイタマに戻ってからは小規模ヤクザ組織や企業の依頼を受け傭兵稼業で生計を立てている。
湾岸警備隊で様々な技能を身に着けており何でもそれなりにこなす。悪く言えば器用貧乏。
軽い性格だが、戦闘では派手を好まず堅実を好む。
ブロックヘッド(PL:lizardfolk)
カラテ:5  	体力:9
ニューロン:4	精神力:4
ワザマエ:4 	脚力:6
ジツ:2   	生い立ち:-
ソウル: ☆ビッグカラテ(体力+2、回避-2、脚力+1)
◇装備とサイバネ
▶ヒキャク、▷ローラーブレード
◇スキルとジツ
◉挑発、●突撃、●頑強なる肉体
◇コネクション
交渉: 4、脅迫: 2、虚言: 1
ドージョーLv1、サイバネ技師Lv1、情報屋Lv2
◇補足
愚鈍者を自称する女ビッグニンジャ。元オイラン。
キョートのアンダーガイオン出身者であり、奇妙な訛りが特徴的。
夢は金を溜めてまともな大学に行き、一流企業に就職し、カチグミになること。

第二話
「フューネラル・オブ・ケオス」

 おれは何年かぶりに高級めし屋にいる。バイオじゃない牛を食わせる洋食屋だ。なんせここはすごい。明らかにストリートとは店の構えから違う。まずコンクリじゃなくて煉瓦作りだし、ショーウィンドーは磨かれていてひび割れをテープでくっつけて修理とかそういうことはされていない。食品サンプルは日焼けしているがこれくらいなら十分うまそうだし、実際おれはこれを見ながら生唾を飲み込んでいる。今日はおごりだと聞いているから朝飯を食っていないのだ。
 店の中身もきれいなもんだ。べたべた壁に黄ばんだメニューが張られているわけでもないしテーブルクロスにはしわがなく飯粒やショーユのシミがくっついているようなこともない。普段使うストリートの店が悲しくなってくる。子供の頃何度か家族に連れられていったレストランを思い出しておれはわくわくした。
 がぜんおれは仕事内容に興味が出てきた。葬儀場という場所なのだからおそらく平和的だろう警備というのは悪いやつを殺すことの次に好きなのだが、こういうレストランが付いてくるなら悪いやつを殺すよりも好きになるだろう。ただ面倒くさいことにブロックヘッド=サンとブラボースリー=サンがすごく口やかましかったから、おれはいつもの装束のかわりに窮屈なスーツを着なければいけなかった。面倒くさいなあ。
 おれはぐるっと周りを見た。きれいな店、きれいなテーブル、テーブルから離れた場所で注文を待っているウェイター、いつものコートにホットパンツと違って黒スーツを着ているブロックヘッド=サン(タッパがでかすぎて男物しか合うサイズがなかったのか、胸と尻のあたりが苦しいことになっていた)、いつものサイバーゴスファッションとピカピカ光るタトゥーじゃなく白シャツに黒スカートのサイバーブロンド=サン(タトゥー自体はあるが、ネオンは抑えめになっているようで、オーガニックホタルみたいに弱く光っている)、いつものミリタリーファッションからやっぱり黒スーツになったブラボースリー=サン(拳銃を呑んでいるのだろう胸のあたりにかすかな膨らみが見える)、それからおれたち全員の本日の衣装代を足したよりずっと高そうなスーツにブランドもののサングラスの金髪ヤクザ。
 おれはそいつがヘルカーネイジ・ヤクザクランのボス、タツヨシ=サンと知っている。だがまだアイサツはしない。ヤクザはアイサツの儀式を持っている。マッポ時代には知らなかった。あいつらはマッポにペコペコ頭を下げてきたからだ。こういうことはブロックヘッド=サンがくわしい。ニンジャになる前はオイランをやっていたからあいつは口が回る。それに従うのが大事だとブロックヘッド=サンが言っていたのでおれは従うことにする。そういうものなら仕方ない。
「ドーモ、ブロックヘッドです。このたびはゴシュウショウサマでした」
 ブロックヘッド=サンはそう言いながらうやうやしくタツヨシ=サンにフクサ包みを差し出した。彼のオヤブンが死んだ哀悼の意をまず示さないといけない。
「ドーモ、アリガトウゴザイマス」
 タツヨシ=サンはそう言いながら包みを開ける。中には塩――カデトラルで清めてきたものだ――をブロックヘッド=サンに少量掛け、順番に俺たちに掛け、最後に自分に掛けた。ふつう葬儀場から出てきた人間は自分に塩を掛けるのだが、身内とそれ以外を厳密に定めるヤクザスタイルでは、まず外部の客に塩を掛けなきゃならず、それを相手が用意しないとならない。それで一緒に葬式に行ったことになるらしい。よくわからんがそういうものなのだろう。
 これで儀式が終わったようで、その後についてはとりあえず礼儀正しくしておけとしか言われていなかったので、おれはさっさとメニューを手に取って写真を見た。どれもうまそうなものばかりだ。隣にいるサイバーブロンド=サンもメニューが気になっているようだったので、一緒に見ることにした。ブロックヘッド=サンとブラボースリー=サンがものすごい目でこっちを見ている。何故かはよくわからない。ここはレストランでレストランというのは飯を食うための場所だからメニューを見るのは当然だ。それにおれは腹が減っているし、長話を始めているときに腹が鳴ったりするのが無礼なのはよく知っている。気にせずおれとサイバーブロンド=サンはあれが食べたいこれが欲しいと相談し始めた。
 タツヨシ=サンはその光景を見てクスクス笑った。ほら喜んでいるなら問題あるまい。
「申し訳ないが今回は既にコースを注文してあるんだ。ただ、ここで一番いいコースを頼んだから、心配しなくてもいい」
 おれとサイバーブロンド=サンがメニューのコースのところを見ると、オーガニック牛のステーキやらフレンチ・マグロ・スシやらが書かれていて、値段には0が山ほどついているのがわかった。ひゅうっとサイバーブロンド=サンが口笛を吹きかけ、あわててやめた。おれも頑張って我慢した。食事時に口笛を吹いたりしたらだめだと昔言われた覚えがある。そういうものなのだろう。
「ま、話は食べてからだ。楽しんでくれ。ここはいい店だ」
 タツヨシ=サンの言葉とともに前菜が運ばれてきた。おれとサイバーブロンド=サンは早速料理に飛びついた。

 おれもサイバーブロンド=サンもさんざん食べたが、ブロックヘッド=サンは輪を掛けて食べていた。お代わりし放題のパンで皿のソースまでぬぐい取って洗う必要がないくらい食器をきれいにした。彼女の前に置かれていたパンを詰め込んだバスケットは5回くらい空になったし、たくさん食べるのが礼儀に叶うだろうからおれは3回くらい、サイバーブロンド=サンも2回パンのお代りをした。ブラボースリー=サンは食が細くなっているようなのでおれとサイバーブロンド=サンが彼の分まで食おうとしたが、すねを蹴られたのでやめた。なぜだ!
 ブロックヘッド=サンはちょっと赤面しているようだったが、気持ちの良い食べっぷりだとタツヨシ=サンは笑っていたし、だいたい他人より5割り増しで背が高い人間が5割り増しで食べるのは当然だろう。不作法な手つきにも見えなかったし。
 オーガニックのコーヒー、マッチャ、紅茶(選択制だった)が運ばれてきたので、おれはがぶがぶ飲んだ。デザートのケーキも最高だった。おれは率直にうまいうまいと言い(そうするのが礼儀正しいと聞いたことがある)、紙ナプキンに誉め言葉とハイクを一筆したためてウェイターを呼びコックに送るように伝えた。これで礼儀正しくしろというルールはきちんと守ることができた。

「さて。食事も終わったところだから、これから依頼について伝える……前に。うちのスズリをありがとうございました」
 タツヨシ=サンは深々と頭を下げた。小さくサイバーブロンド=サンが誰だっけそれと言ったので、おれはこの前助けたオイランの名前だったはずと伝えた。それで彼女は合点が行ったようだった。
「頭上げておくれやすタツヨシ=サン。仕事で行き逢おただけですわ。何も、大したことはしてしまへん」
 ブロックヘッド=サンが声を掛け、タツヨシ=サンは頭を上げた。
「ハハハ! あなたたちも器が大きい! まぁ、助けていただいたのに依頼をするというのも変ですが、お許しを」
「いえ、いえ。仕事頂けるちうのは命綱が貰えるんと同じですわ。ほら、カネがないのは首がないのと同じですゆえ」
「ああ、女一人助けたくらいでいい仕事が貰えるなら安いもんだぜ……です」
 サイバーブロンド=サンは何故か上手くしゃべれないようで、いつもより歯切れが悪い。食べ過ぎだろうか。だが話していることには同意だ。
「うむ、問題ない! 仕事があるに越したことはないからな!」
 おれは大声ではっきりとそう伝えた。大声ではっきりとものを言うのはおれが5歳の頃から自分に決めているルールだ。それが美徳らしいからずっとそうしている。
「ええ。我々は傭兵だ。依頼人が増えたなら、助けた甲斐があったというものですよ」
 ブラボースリー=サンはおれのすねを軽く蹴りながら微笑んだ。痛い!
「そう言って頂けて光栄ですね。では、依頼の詳細について、ですが」
 タツヨシ=サンはサングラスを外した。

「ラメ=サンを通じてお話しさせていただいたように、私たちのレンゴウの"父親"が死にました。彼の葬儀が明日の昼過ぎに開かれる予定です。葬儀が大きな滞りなく無事に終わること、それが私の依頼です」
「まぁ、そりゃそーだ……ですね。ヤクザクランの葬儀会場って言や、抗争が起こる場所だよな……ですよね」
 サイバーブロンド=サンの言葉に、タツヨシ=サンは頷く。
「ええ。それに、ここしばらく私自身が襲撃を受けている。襲撃そのものは受けて立ちますが、"父親"の葬儀がそのせいでめちゃくちゃになることは避けたい。そのために一時的にでも私を護衛して欲しいのです」
「なるほど。葬儀会場について――要するに、十分建物が頑丈なのか、周囲には狙撃手や伏兵を配置できる場所があるかを教えてもらってもよろしいですか?」
 ブラボースリー=サンの質問に、タツヨシ=サンは答えた。
「葬儀会場は可能な限り頑丈な、ヤクザ葬儀に慣れた場所を選んでいます。ツチノコ・ストリートの「花散る」という会館でして。壁は鉄筋コンクリートで分厚く、窓はほとんどない上に防弾で填め殺し、ドアは鋼鉄です。武装車両で突っ込むか、爆弾で吹きとばしでもすれば別でしょうが、ちょっとした要塞になっています。職員は全員組関係者で構成されていて、外部の人間が紛れるのは簡単じゃありません。弔問客が入れるのは表口だけですから、入り込むにしても攻め込むにしても正面から入っていく必要があるでしょう。……ただ、会場周辺には植え込みがあります。狙撃対策にはなりますが、そこに隠れることも不可能ではないでしょうね」
「なるほど。となれば、俺たちは場のクリーニングよりタツヨシ=サンに付き添うのが良いでしょうかね……もちろん、タツヨシ=サンの希望次第ですが」
 続いてブロックヘッド=サンが尋ねる。
「武装霊柩車は頼まはったんですか?」
「ええ、つてのある中で一番腕の良い運転手を。少なくとも、乗り込んでからは私の命と、"父親"の遺体は無事だろうと確信しています。もっとも、あなたたちの契約は葬儀場に私たちが入り、葬儀を終えて無事に出てくるまでの間できるだけ滞りがないようにしてもらいたいというものですから、たとえ霊柩車の中で私が死んで、"父親"の遺体が奪われたとしても、それはあなたたちがしくじったことにはなりません。ええ、葬儀を台無しにされないなら、私の命については重要ではないと思ってください」
「根性のあるお人や……ほな、護衛の期間は葬儀の間だけ、そう考えたらよろしおすな」
「ええ。それで問題ありません」
 おれは手を挙げた。
「命を狙われていると言ってたな! 敵対しそうな相手についてできるだけ教えてくれ!」
 タツヨシ=サンはしばらく考えると答えた。
「……まず、ヤンクバイカーチーム『アイアン・ダコウ』ですね。複数回移動中に襲撃をされ、護衛が1人殺されています。それから、銀灰色の衣服を着たツジギリストが1度襲ってきました。とはいえ、ツジギリストは何人か斬った後、うちの兄貴分が兵隊を連れてきたので撤退しましたが……彼はあなたたちと同じニンジャでしょうね。葬式に現れるのはこのどちらかか、あるいは両方でしょう」
「ツジギリストのバックは知ったはりますか? ああいった手合いは、あたしら傭兵と同じで、誰かに依頼されて動くもんやから」
 ブロックヘッド=サンが質問する。
「残念ながらそれはわかりません。それだけじゃなく、アイアン・ダコウがなぜ襲ってきたのかもわからないんです。彼らは走り屋同士殺し合っていた連中で、ヤクザを襲うような真似はしなかった。どうして私を襲ってくるのか……」
 ブラボースリー=サンがぱちっとこちらに目配せした。意味がよくわからなかったのでおれは目をぱちぱちさせた。ブロックヘッド=サンには意味が分かったようだった。すごいな、テレパシー能力があるのか!
「分かりました。そんなら、"なんで"を洗うのもうちらの仕事、ちうことでよろしおますか」
「ええ、オネガイシマス」
 タツヨシ=サンは頭を下げた。
「どうせツジギリストなんて弱いものいじめが好きなサイコ野郎がカネで雇われてるだけだろ? 大したことないと思うけどなー……あっ、思いますけど……」
 サイバーブロンド=サンはつまらなさそうに足をぶらぶらさせつつ、そう言った。
 ブラボースリー=サンは諦めたように肩をすくめた。
「まぁそう言うな。これも仕事のうちだ」
「では、契約はこれで決まりということで。よろしいですか?」
 タツヨシ=サンの言葉に、ブロックヘッド=サンは頷いた。
「ええ。こちらからも、よろしゅうオネガイシマス」
「ドーモ。では……デザートはいかがですか?」
 タツヨシ=サンがぱちん、と指を鳴らすと、ウェイターがケーキとアイスクリーム、モチなどのデザートを運び込んできた。ブロックヘッド=サンが目の色を変えるのが見えた。むろんおれたちもすぐさまデザートに飛びついた。

 ツチノコ・ストリートの葬式場「花散る」はぐるりを分厚いコンクリート壁と電磁ショックワイヤで防御されていることを除けば、ネオサイタマでも有数の汚い場所にあってはずいぶんときれいだった。日本庭園風の庭、数寄屋風の茶室、ワーキツネの描かれた小さなシュライン、ブディズム・テンプルを模した本棟。特に庭が気に入った。バイオニシキゴイが泳いでいる。
「さあ鯉! 来い! 来い!」
パンパン拍手をしながら鯉に向けて叫んでいると、IRCが届いた。

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IRC CyberBlonde:> アイアン・ダコウのUNIXをクラックして、カレンダーを持ってきたぜ
IRC CyberBlonde:> あいつら、律儀に明日の襲撃予定を入れてた。とっときの防弾ヤクザベンツを使うらしい
IRC CyberBlonde:> IPも特定したから、ヤサに行って今のうちに何人か殺して車を潰すのもありだな
IRC Bteam3:> よくやった。ヘルカーネイジの事務所近くにヤクザ料理屋があったから、業界紙の記者のふりをして色々聞いてきた
IRC Infaith:> さすがだ! そういうのはおれにはできん!
IRC Bteam3:> そうだな。で、ヘルカーネイジの"父親"はカタナブレードツルギ・フェデレイションのデス・タカとかいうヤクザだ。
IRC Bteam3:> ヤクザじゃ珍しく畳の上で死んだらしいな。やつはデスイーグル・ヤクザクランとかいうクランのオヤブンでもあったらしく、そっちはタツヨシの兄貴分、タケヤマが継いだそうだ
IRC Bteam3:> で、今回の葬儀の後、遺言に合わせてカタナブレードツルギのリーダーについては決めることを決めるらしい
IRC Bteam3:> 敵対ヤクザクランはだいたい潰されるか吸収されて、このあたりはデスイーグルとヘルカーネイジが〆てる。調子に乗りつつあったブラッドカタナは俺たちが潰したしな
IRC Blockhead:> いかにもお家争いって感じやねえ。タケヤマ、ちう名前、こっちでも出たわ
IRC Blockhead:> 知り合いのオイランを端から当たってみたで。ツジギリストいうのは殺しの後は大概女か酒に走るさかいな
IRC Blockhead:> 灰銀色のツジギリスト、どんぴしゃやった。カギ・タナカて名乗っとるやつが、定期的にオイラン遊びに来とるらしいわ
IRC CyberBlonde:> てことは、オイラン遊びしてるところを襲えばいいのか?
IRC Blockhead:> あたしの顔潰す気か。それに、まだ耳寄り情報があるんや。そいつ、仕事のことについてちょっと漏らしてたらしい
IRC Blockhead:> 今のクライアントがクソやとかね。で、どうもそのクライアントとやらが、聞く限りやとこの辺の二大ヤクザクランの片割れ、タケヤマ=サンとしか思えんと
IRC Blockhead:> 要するに、キヨシとあたしらみたいなことになっとるのかもわからん。その場合はタツヨシ=サンへの襲撃はどうにかなるかもしれんな
IRC Bteam3:> そうか。できればコンタクトを取りたいな。上手く行けば敵の数が減る
IRC Infaith:> とりあえず、おれはどうすればいい? 警備を続けるか?
IRC Bteam3:> ああ。後で交代しよう。そのときにできればアイアン・ダコウを潰しに行って欲しい。
IRC Infaith:> 了解だ!!
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 おれがIRCを読み終え、もう一度鯉を呼び始めると、視界の端でびくっと動く影が見えた。これは怪しい。おれが鯉を呼び続けていると、安心したのかそいつは鞄から何かを取り出してコンクリート壁近くの地面に埋め始めた。おれは5メートルの距離をコンマ1秒で詰めてそいつの後ろに立つと肩に手をかけた。
「君!」
 そう言うとそいつはびっくり仰天して叫び声を上げた。本当に怪しいのでおれはカタナを抜いた。
「見かけない顔だな! 名前を教えてくれ!」
「こ、殺さないでください! 爆弾はまだ作動させていません!」
「爆弾! そうか君は悪い奴なんだな!」
 相手が悪い奴だと分かったら行動するのが一番なのでおれはそいつの片腕を切り落とした。切りたての腕から先をカタナで分割しながらそいつが黙るのをしばらく待つ。まだわめいているのでおれは鯉の池に肉片を放り込みながらそいつに蹴りを入れた。ぐすぐす泣きながら失禁し始めたのでおれはわかりやすいようにもう一度名前を言ってなんで爆弾なんか持っているのか説明しろと叫んだ。
「オ……オレはタカマジと言います……デスイーグル・ヤクザクランのタケヤマ=サンに頼まれて……アイアン・ダコウが葬儀の日に攻めてくる手伝いをしろと……」
 すぐに自白するのはいいことなのでおれはタカマジ=サンの肩口をテヌギーで堅く縛って止血した。池の鯉がまだ腹が減っているようなので残りの腕を池に放り込んで鯉が奪い合うのを横目で見ながらおれはタカマジ=サンの残った腕をつかむ。
「善良な市民の情報提供に感謝だ! タカマジ=サン! 君の言っていることはおれの頭ではよくわからない部分があるのでクライアントであるタツヨシ=サンのところに連れて行く!」
「それだけはやめてください! 確実に殺されます!」
 タカマジ=サンは泣き叫んだがおれはこういう相手がいつも泣き叫ぶのを不思議に思う。悪いことをしたのだから相手のところに行って謝るのは当然ではないか。だだをこねて暴れられても困るのでカタナの柄で思い切り殴って気絶させ、そのまま引きずっていく。庭の玉砂利に跡が残ってせっかくのきれいな庭がかなり汚れてしまったのでおれは悲しんだ。せいいっぱい元に戻しておこうか悩んだが時間がなかったためあきらめた。
 タツヨシ=サンのところにひきずっていったところ、彼はかなり喜んでいる様子だった。やはり良いことをすると気持ちが良い。タツヨシ=サンはタカマジ=サンに水をぶっかけて起こすと残った腕の指をへし折りながら事情を聞き始める。これにつき合うとアイアン・ダコウのところに行く時間がないのでおれは尋ねた。
「タツヨシ=サン、タケヤマ=サンについてはどうするべきかな!? 円滑に葬儀を行うために先に殺しに行ってもいいぞ!」
 タツヨシ=サンは指折りをやめて少し考えると言った。
「いえ、どういうわけで奴がアイアン・ダコウを葬式に呼び込もうとするのか、じっくり調べてください。ものごとをはっきりさせずに始末するとややこしいんでね……」
「了解だ!」
 おれはそう言うと、装束のたもとにいれた爆弾をいじくった。これはいいものだ。

 アイアン・ダコウの格納庫に来たときには日が暮れていた。格納庫近くの路地でおれのIRC端末がふるえる。定時報告の時間だ。

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IRC CyberBlonde:> 調べられるだけ調べてみた。面白いことが分かったぜ。デス・タカが死んだとき、あいつはレンゴウの次の"父親"を指名したらしい。それが誰だと思う?
IRC CyberBlonde:> タツヨシだ。で、その次代指名の遺言は葬式の時に正式発表される。それまでにタツヨシが死ねば、タケヤマがレンゴウの"父親"だ
IRC Infaith:> 真っ黒だな!
IRC Bteam3:> しかし、それならどうしてタツヨシはそのことを知らない?
IRC CyberBlonde:> デス・タカを看取ったのはタケヤマで、タツヨシはその時組の仕事に出ていたそうだ。デス・タカの最期の願いとやらで、事実の公表はタケヤマと側近の胸の内に納めなきゃならねえ。
IRC CyberBlonde:> デスイーグルの幹部のUNIXをクラックしたから分かるが、がっちり遺言にはパスが掛かってた。ま、オレからしたら大したセキュリティじゃなかったが。看取った相手から"お前はクランのボスになるが、レンゴウの次のリーダーは他のやつ"なんて言われたら、裏切るやつはいるよなあ?
IRC Blockhead:> 面目丸潰れやろうね
IRC Bteam3:> だな。警備ついでに葬儀場に来ていたヤクザ連中から話を聞いたが、デスイーグルはタケヤマが跡目を継いで次の日には万札が明らかにおかしな消えかたをするわ、新しい組長はこの前まで抗争やってた相手のブラッドカタナに連絡を取るわ、デタラメなことが起こったらしい
IRC CyberBlonde:> 万札が消えた?
IRC Bteam3:> ああ、金庫から売り上げの一部が。組の会計担当がケジメするハメになったそうだ
IRC Blockhead:> こっそり傭兵を手配するカネ……って感じやね。さて、あたしはカギ・タナカ、ニンジャとしてはシルバーカラスて名乗っとるみたいやけど、こいつについてできるだけ聞いた
IRC Blockhead:>調べといて良かった。こいつはサイバーツジギリの中じゃトップのワザマエ持ちらしいわ
IRC Infaith:> ほう! 腕が鳴るな!
IRC Blockhead:> やり合うのはごめんやね。まぁ、おそらくはやり合う必要なさそうやけど。
IRC Infaith:> むっ、そうなのか!?
IRC Blockhead:>どうもタケヤマともめてるらしいわ。問題は、カギ・タナカが葬式会場でタケヤマをぶった斬るかもしれへんことやね。そうなったら葬式はむちゃくちゃになり、仕事は失敗。あと、写真は手に入れた。送るわ
IRC Bteam3:> おおっと
IRC CyberBlonde:> なんかあったのか?
IRC Bteam3:> さっきこいつが会場の周りにいたのを見た。ニンジャ衣装じゃなく、ダークスーツでヤクザ風の格好してたからその時は気づかなかったんだが
IRC Blockhead:> 「かもしれへん」は「ほぼ確実」になったわけやね
IRC CyberBlonde:> OK。カラスのIPアドレスを探そう。コンタクトが取れないかやれるだけやってみる。交渉はブロックヘッド=サン、頼んだ
IRC Blockhead:> 分かった。やれるだけやってみるわ
IRC Infaith:> 頑張ってくれ! おれは格納庫近くに現地入りして準備できている! ブラボースリー=サン、指示を頼む!
IRC Bteam3:> よし。じゃ、こっからは音声でやる。無線機はちゃんとセットしたな?
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 おれは耳にテープで貼り付けた無線機をこつこつ叩いた。
《聞こえたか?》
《ああ、大丈夫だ》
 ミハル・オプティの小指サイズの無線機は、かなり上手く動いているようだった。こんな小さいものがよく音を拾えるものだと感心する。
《いいか、声を出さず、そっと一人ずつ始末していくんだ。いいな、見張りから順番に。派手にやるとややこしいことになるからな》
《むっ、カラテシャウトもだめなのか!?》
《当然だ、というか、もうちょっと小さい声で返事してくれ、今でもびくびくものだ》
《むぅ……難易度が高いな》
《声を出さないだけだぞ? とりあえず見張りは見つけたか?》
《おう! おっとすまない。ではやるぞ……!》
 おれは飛び込んでカタナを振った。声を出さないことに全力で意識を向けていたおれは、相手が攻撃に気づいた瞬間に腰を抜かしてすっころんだのに対応できなかった!
「アイエエエエ! 敵だ!」
《おお、ブラボースリー=サン! ばれてしまったぞ! もう声は出しても良いな!》
《ば、バカ野郎! ええい、もうこうなりゃ突っ込んで皆殺しにしてしまえ! プランBだ!》
《承知した!》
 そう言うとおれは思い切りカラテシャウトをしながら、鉄パイプで殴りかかってきたヤンクの首をすっぱりと切り落とした。うむ、やはりシャウトがないとどうも物足りない!
 おれはそのまま走ると、ガレージのシャッターをカタナでこじ開ける。錆だらけのシャッターはさほど苦労なく切断できた。向こうから何人かのヤンクが銃を向けてきた。おれは叫び声を上げながら天井めがけて飛び上がり、壁を蹴ってヤンクのところに行くと、そいつの頭を串刺しにした。
「ドーモ、アイアン・ダコウのみなさん! インフェイスです! 今日は皆殺しにきた! イヤーッ!」
 シャウトと共に弾丸を弾き、そのまま1人を殺しておれはまた跳んだ。横並びになった3人に向けてつっこみ、1人の首を刎ねながら1人の首を蹴り折り、1人の上に着地する。転んだギャングがもがくので、カタナを頭に突き刺して動きを止めた。
 おれは叫び声をもう一度上げてみたが、特に周囲に気配がなさそうなので、カタナを振って血を落とすと鞘にしまった。そこここに置かれたバイクのタイヤに穴を開けていき、ヤクザベンツの前に来る。さて、ここに爆弾を仕掛ければ後は物事は完了なのだが、かなり綺麗なベンツを吹き飛ばしてしまうのはもったいないんじゃないかとおれは思った。おれはベンツの窓ガラスを鞘に収めたままのカタナでぶん殴った。窓が割れ、マイコ音声がヒステリックな警告音を出す。おれはドアのロックを開いて座席に座ると叫んだ。
《今からおれのIRC端末を車につなぐ! サイバーブロンド=サンはそこにいるか! いるならおれの端末越しにハッキングしてくれ!》
《無茶苦茶しやがる! くそ、今呼び出す!》
 数秒でサイバーブロンド=サンから返答があった。
《……急になんだよ! ああもう、オレは上手く行くかどうか知らないからな! くそ、車は前の持ち主の意識がくっついてべたべたするから嫌いなんだよなあ……!》
 ピコッとおれのIRC端末にサイバーブロンド=サンのアスキーアートが表示され、それと同時におれは端末のLAN端子を突き刺した。
 やかましいマイコ音声がカン高くなり、低くなり、滅茶苦茶にメーターが動き回った後でぴたりと音声は止まった。
《おしまいだ。子供でも開けられそうなチョロいロックだったぜ》
 それと共にどもりながらマイコ音声が再起動した。
「ドドドドーモ、エラー・ユーザー名を入れるドスエ=サン、運転の準備ができましたエ」
《マジか。もう乗って帰っちまえ》
 何故かあきれたような声で言うブラボースリー=サンにおれは答えた。
《無論! 安全運転で帰る!》
 おれは割った窓ガラスを見た。このくらいの破損ならネオサイタマにはよくある。安全運転さえしていればマッポには目を付けられないだろう。

 アジトに帰るとサイバーブロンド=サンがフートンに横になり、ブロックヘッド=サンがソファに倒れていた。おれがどうしたんだと声を掛けるとブロックヘッド=サンがどうにか起きあがって話した。
「カギ・タナカと話付けてきた……はぁ、めちゃくちゃしんどかった……」
 台所の炊飯器がピーッと鳴った。彼女はよろよろと起きあがると冷蔵庫に頭をつっこみ安いスシ・パックを取り出して、それから炊飯器の中身をドンブリに盛る。それからスシが真っ黒になるまでショーユを掛け、スシをおかずに白飯を平らげながら、話し始めた。
「あたしらはIRCを見つけた時点でシルバーカラスにメッセージを送った。"こちら2名、非武装、ツチノコ公園、鷲の子育てについて"ってメッセージをサイバーブロンド=サンが送ってくれたから。あいつはきっちり時間通りに公園にやってきた。よっぽど吸うんやろな、安もんタバコの煙いにおいがえげつなかったわ」
真っ黒なスシ1つを飯の上にのせて飯に味を付けながらまとめてほおばり、飲み下した後にブロックヘッド=サンは続けた。
「あいつは鷲の子のうちおまえらは不出来な方に雇われたのか、出来のいい方に雇われたのか、て最初に聞いてきてな。出来のいい方で、あんさんと一緒で出来の悪い方に迷惑掛けられとります、て答えて、そっからはなんとか上手いことなった」
箸を動かしながらブロックヘッド=サンは言う。
「あいつはヤクザに前金だけ支払われてな。殺しのためにタツヨシ=サンのとこに突っ込んだあたりで、タケヤマ率いる護衛が意気揚々とやってきた。裏切りに気づいて奴はいったん退いた」
「そんでもって、"不出来な兄貴が鷲の跡継ぎになることはあらへんよって、そいつがしくじって道に放り出されてから報復したらどうでっか"て提案した。ついでにサイバーブロンド=サンがラメの連絡先をあいつの好きなタバコと一緒に渡してな、"こっち通した方が金になるからよかったら"ってな。それで何とか合意して、帰ってこれた。あんなやつ、首がいくつあっても足らんわ」
「お疲れさまだ!」
 おれはブロックヘッド=サン(と、既に寝ているがサイバーブロンド=サン)をねぎらった。彼女らはおれにはできないことができるためとてもすばらしい。
 そこでむくりとサイバーブロンド=サンが起きあがった。よく見れば彼女はIRC端末にLAN端子を直結していた。寝ていたのではなかったらしい。
「どやった? この前のデータの解析はいけたか?」
 尋ねるブロックヘッド=サンに、サイバーブロンド=サンは頷く。
「ああ。クソみたいに堅いセキュリティ掛かってたが、なんとかやっつけたぜ」
 なんのことだかさっぱりわからないおれを見て、ブロックヘッド=サンがこの前のブラッドカタナへのカチコミの時に手に入れた暗号化データがあっただろうと解説する。それで思い出したが確かによくわからないデータが残っていたっけ。
「中身はIRC通信ログだった。あのクソキヨシとタケヤマの通信記録で、葬式の日にカチコミに来てヘルカーネイジの連中を全員殺してこいって内容だな。結構な額の金がブラッドカタナに流れてる」
「消えた金の使い道ってわけかいな。あほはあほとつるむんやね」
 ブロックヘッド=サンはドンブリを空にすると呆れた顔で首を振った。
「この前キヨシ=サンを殺しておいて良かったな! しかし跡目争いとはそこまで必死になるようなものなのだろうか! おれにはよくわからないぞ!」
「ヤクザ組織ってのは上下関係が激しいからな」
 そう言いながら扉を開け、ブラボースリー=サンが部屋に入ってきた。ガチャガチャと装備をはずすと床に放り投げてソファの空いた場所に座り込みタバコに火を着けると話し始める。
「あの手のヤクザというものは親の命令には絶対服従だ。頭に立ってる人間がバイオカラスは白いと言えば『はい、カラスは白いです!』と答えるのがヤクザってもんだ……というか、インフェイス=サン、元マッポならそっち方面には詳しいんじゃないのか?」
「あいにくだがおれは犯罪者の事情を斟酌しないことに決めているのだ!」
「あー……あんたがどんな警官だったのか何となく想像がつくぜ」

PLたちはまさかの裏切り者同士のつながりに「"サンズ・オブ・キヨシ"だ!」「SoK!」と面白がっていた。前回手に入れた謎データの中身、IRCのつながりでことが露見するところもそういえばちょっと似ている。

「ともあれ警護はやった。葬儀場で諸々の手続きやらアイサツを終えて、タツヨシ=サンは事務所に帰還。明日が葬儀の本番だ。それと、ヘルカーネイジの組員にアイアン・ダコウとやりあった奴がいた。曰く、頭のハイウェイローニンのバイクは我流のチューンがされててな。早く走るのに特化させすぎて、車体の強度が低いらしい。特に前輪は脆いそうだ」
「つまり、前輪を集中的に狙えばバイクは潰せるということか?」
「ああ。モータルならしんどいだろうが、おれたちはニンジャだからな。そういう真似もできる」
 ブラボースリー=サンはあくびをすると、肩をぽきぽきと鳴らした。
「警護任務をすると昔っから肩が凝って仕方ない。シャワー浴びてくるぜ。ああ、早いとこちゃんとした風呂を作りたいもんだ」
「とまれ、事前の情報収集はここまでだな。後は作戦か。頼んだぜ、ブラボースリー=サン」
 サイバーブロンド=サンはLANを引き抜き、伸びをした。
「ああ。ま、だいたいの動きは考えてる。喪服用意しとけよ」

「で」
 ブロックヘッド=サンは言った。
「買うのはもったいないさかいに現地調達?」
「だってさあ、ヤクザの葬式じゃん。そんなののためにスーツ買いたくねえもん。この前のシャツとスカートだとダメだって言うしさあ」
 彼女の前ではユーレイゴスの男が下着一枚で気絶している。サイバーブロンド=サンが通行人を路地に連れ込んで服をくれと言ったものの拒否されたので殴ったのだ。彼女の着ていた服の裾をソーイングセットで詰めながら(あんな大きな手でよく器用に縫えるものだ)黒スーツに黒コートのブロックヘッド=サンはため息をついた。
「ほい。とりあえずこんなもんでええやろ」
「サンキュ。んん、ハッパ臭いなこの服」
 そう言いながら喪服スーツを着たサイバーブロンド=サンはその場でくるくる回って見せた。裾がかなり余っているためダブダブになっている。
「ファッションショーしてる場合じゃないだろ。行くぞ」
 黒スーツのブラボースリー=サンが急かす。乗っているベンツのおれが割った窓は取り合えずテープで止められている。
「ちぇっ」
 つまらなさそうに舌打ちをするとサイバーブロンド=サンはベンツに乗り込んだ。おれも黒スーツを着てこいと言われたので、おれ含めた全員がこれで葬儀にふさわしい格好になっている。ネクタイが黒じゃないとダメとか言われたのでショドー用の墨で黒く塗ったが今のところ誰からも気づかれていなさそうなので大丈夫だ。

 契約で決めていた時間より早くきたのだが葬儀場には既にかなり人が集まっていた。頬傷やサイバーサングラスや角刈りや戦闘的チョンマゲといったいかにもなヤクザがあまりに多数おりヤクザ濃度が高すぎるので昨日の葬儀上の雰囲気は台無しになってしまっていた。ただ玉砂利はきれいに掃除されていたのでそこだけはいいところだった。鯉で遊ぼうと思ったがブラボースリー=サンに引っ張られたのでやめた。
 おれたちはヤクザ連中に向けてアイサツした。ドーモドーモ護衛ですご安心を我々が着いています。タツヨシ=サン今日はゴシュショサマでございました先祖に恥じない平和なお見送りができればいいですね、とブロックヘッド=サンとブラボースリー=サンを中心としてペコペコ頭を下げて回る。ヤクザどももいえいえセンセイ本日はどうぞよしなにとペコペコアイサツする。定型文の繰り返しだからアイサツはつまらなかったがヤクザの中に片手を赤漆塗りの鋏型テッコにしたカニマサ=サンとかいうあまりにそのままな名前の男がいて、しかもしゅうしゅう息を吹きながらしゃべる度に口元からあぶくを出すのでそれだけは面白かった。
 アイサツが終わるときおれはタケヤマ=サンの顔をちらっと見た。笑顔を作っていたが明らかにひきつった顔をしていて、おれたちが離れると途端にタケヤマ=サンに向かって身内の葬式にヤクザでもない護衛を雇うなんて昨日総議会場に俺がいたら止めていたぞなどと文句を言い始めた。モータルならともかくニンジャには聞こえる距離なのだが彼は知らないのだろうか。
「露骨ぅ」
 サイバーブロンド=サンが呆れたように呟く。
「ともあれ、作戦通り動くぞ。俺とインフェイス=サンが外、ブロックヘッド=サンとサイバーブロンド=サンが中だ。危ないのが2人いるから言っておくが、食い物には手をつけるな、毒が盛られてるかもしれないから……」
 そこでブラボースリー=サンはケータリングのオードブルをじっと見つめているブロックヘッド=サンを眺めた。
「いや、危ないのは3人だったか」

「えー、我々が血のつながった父親以上の情愛を、デス・タカ会長に対して感じていたことは言うまでもありません。会長は私が12歳の時、ドス・ダガー1本だけを持って20人ものリアルヤクザを襲撃し……」
 サイバーブロンド=サンのサイバネアイを通じて葬儀会場内部の映像が中継され、かなりつまらないヤクザの武勇伝がだらだらと流れてくる。司会進行を行っているのはタケヤマで、ことあるごとにちらちらとニンジャの護衛、そして時計に向けて視線を送っていた。時間を気にしているにしては話が長い。どちらかといえば何かが起こる時間を待っているようだった。
 おれはどうでも良かったのでひたすら鯉に餌をやっていた。さっきタツヨシ=サンからもらったのだ。5本こっきりの餌だから暇つぶしにちょうど良くなるよう考えて投げ込まないといけない。ヤクザたちがぎょっとしたような目で見ているが一体どうしたのだろう。たかが指ではないか。この前は同じ人物の腕を丸ごとやったのだし餌として問題がないのはわかっている。
 おれたちがタツヨシ=サンに今朝情報を伝えると彼はものすごくにっこりと笑って、葬儀そのものは予定通りやると言った。釣り餌として己を差し出すそうだ。根性があってすごい。
 3本目の餌を投げ込んだところで遠くからバイクの音が聞こえてきた。俺は餌を油紙に包み直すと、刀を抜いた。ブラボースリー=サンもライフルを構えた。
 IRC画面のタケヤマ=サンが言った。
「えー、それでは、会長の遺言を読み上げたいと思います」
 彼はそう言うと小型の端末を取り出し指先で操作した。どうもそれは遺言のデータを探しているというよりも何かを打っているようだった。
 サイバーブロンド=サンがぼそっと呟いた。
「イ・マ・ス・グ・バ・ク・ハ・ツ・ス・ル……残念でした」
 タケヤマ=サンは戸惑ったように辺りを見回した。
 ブロックヘッド=サンがにっこりと笑いながら言った。
「どうしたん、タケヤマ=サン。なんかが爆発しそうな顔したはるけれど」
 タケヤマ=サンの顔が紅潮し、何かを喋ろうと口を開き、閉じた。タツヨシ=サンが指をぱちんと鳴らすと、タケヤマ=サンを取り囲んだヤクザが一斉にチャカ・ガンやオートマチックヤクザガンを抜いた。
「あんたも昔はいい兄貴分だったのにな」
 タツヨシ=サンは冷たく言った。
 タケヤマ=サンは端末に向けて叫んだ。
「ハイウェイローニン=サン! 殺せ! 殺せ!」
 どん! という音とともに塀が揺れ、時代錯誤の大鎧をバイクウェアにしているニンジャが乗った1台のバイクと、その後ろからいかにもなごろつきが乗ったバイク2台が花散るを囲む塀を越えて飛び込んできた。それと同時に、地面からお揃いの灰色衣装を着たそっくりの顔の2人組のニンジャが飛び出した。
 おれはカタナを構えて地面を蹴った。がきん! と音を立ててハイウェイローニン=サンのカタナとかち合う。おれは塀を蹴ってその上に着地した。
「ドーモ、ブラボースリーです。どうやってあの壁を飛び越えた? 4メートルはあるよな?」
 ブラボースリー=サンの言葉にハイウェイローニン=サンは答えた。
「ドーモ、ブラボースリー=サン。ハイウェイローニンです。踏み台を何人か用意しただけだ」
 塀の向こうには塀にぶち当たった車がありその中からにじみ出す血が見えた。
「ドーモ、ハイウェイローニン=サン! おれはインフェイスだ! 塀の外の車は誰のものだ?」
 おれが聞くと彼は答えた。
「あ? そりゃここまで来る道中で連れてきたどっかの家族連れだ。ちょうど踏み台に良さそうな車高だったからな。プランBくらい用意しとくのは当然だろ」
「そうか! つまり君は善良な一般市民を殺したわけだな! ということは君は悪人というわけだ!」
 そう言うとおれは笑った。
建物の中から色付きの風が二つ飛び出してきた。
「ドーモ、サイバーブロンドです。けっ、ニンジャは3人、あとはモータルだけか、つまんねえ」
「ドーモ、ブロックヘッドです。計画は漏れて、あんたらへの依頼人は捕まった。もう終いやで、投降したらどうや」
「わかってねえな」
 ハイウェイローニンは(フルフェイスの兜ヘルメットを被っていたからちょっと自信はないが)笑った。
「投降したところでヤクザどもは俺たちを殺そうとする。あるいは死体に賞金をかける。どっちにしろ死ぬわけだから投降はクソの意味もねえよ。コイン投げと同じでここで戦うか、死ぬか以外の選択肢はねえ訳だ」
 ここでようやく灰色ニンジャ装束のニンジャ二人がアイサツした。
「ドーモ、グレイソードです」
「ドーモ、グレイソードです」
「違う、お前はグレイサーベルだっただろ! オレがグレイソードだ!」
「そうだったか! ドーモ、グレイサーベルです! しかし4対3だ! 兄ちゃんこれは大変だ!」
 おかしなことに急に他のメンツが黙った。おれには理由がよくわからないがおずおずとサイバーブロンド=サンが口を開いた。
「そいつら、身内か?」
「いや、前払いの報酬で雇った……」
「そうか……あんまり人のこと言えねえけど大丈夫か?」
「まぁ……うん……」
 なにかおかしな表情でお互いを見た二人はそれはそれとして気を取り直したようにキアイを上げるとイクサを始めた。

◆ハイウェイローニン (種別:ニンジャ)
カラテ    6   体力    6
ニューロン  4   精神力   4
ワザマエ   6   脚力    3
ジツ     0   万札    10
近接ダイス:7 遠隔ダイス:6 回避ダイス:6
交渉ダイス:2 脅迫ダイス:3 虚言ダイス:1
◆装備や特記事項:
装備:*カタナ・オブ・ローニン*(業物のカタナ)、大型バイク
スキル:『連射2』『滅多切り』『ツジギリ』
◆『大型バイク』:
大型バイクが破壊されるまでの間、ハイウェイローニンは【脚力】8とみなされる。
この状態にある間、彼は『連続側転』は行えないが、敵がいるマスを通過しながら移動できる。
またハイウェイローニンは、この移動時に通過した敵最大2体に対して、
自動的に1ダメージを与える(『回避難易度:NORMAL』、カウンターカラテ不可)。
この状態にある間、ハイウェイローニンの行う『回避判定』の難易度は全て+1され、
受けたダメージはハイウェイローニン本体ではなく大型バイクに与えられる。
合計5ダメージを受けた時点で、大型バイクは破壊される。
バイクに乗った状態でハイウェイローニンを攻撃できるのは、【精神力】への直接攻撃しかない。
◆コネクション:
ストリートギャング(ヤクザ読み替え)(アイアン・ダコウ)Lv3:リーダー
ヤクザ(デスイーグル・ヤクザクラン)Lv2
◆グレイソード (種別:ニンジャ)
カラテ    5   体力    5
ニューロン  2   精神力   3
ワザマエ   2   脚力    3
ジツ     2   万札    10
近接ダイス:5 遠隔ダイス:2 回避ダイス:5
交渉ダイス:1 脅迫ダイス:1 虚言ダイス:0
◆装備や特記事項:
装備:カタナ
スキル:『滅多切り』
ジツ:『☆ドトン・ジツLv2』
◆グレイサーベル (種別:ニンジャ)
カラテ    5   体力    5
ニューロン  2   精神力   3
ワザマエ   2   脚力    3
ジツ     2   万札    10
近接ダイス:5 遠隔ダイス:2 回避ダイス:5
交渉ダイス:0 脅迫ダイス:2 虚言ダイス:0
◆装備や特記事項:
装備:カタナ
スキル:『滅多切り』
ジツ:『☆ドトン・ジツLv2』
◆二人乗りヤンクバイカー (種別:モータル)
カラテ    2   体力    3
ニューロン  1   精神力   1
ワザマエ   3   脚力    6
ジツ     ―   万札    2
近接ダイス:2 遠隔ダイス:3 回避ダイス:-
◆装備や特記事項:
装備:鉄パイプ:『近接武器』『ダメージ1』
チャカ・ガン:『遠隔武器』『ダメージ1』『拳銃』
◆『轢殺移動』:
敵がいるマスを通過しながら最大6マス移動できる。この移動時に通過した敵1体に対して、
自動的に1ダメージを与える(『回避難易度: NORMAL』、カウンターカラテ不可)。
この移動後は鉄パイプやゴルフクラブで攻撃できる。

 サイバーブロンド=サンは体を縮めると飛び上がり、後から続いてきた2人乗りのバイカーギャングのハンドルに着地した。とっさに手にした鉄パイプを振り回し掛けたギャングの動きより早く、サイバーブロンド=サンはダガーを振る。両腕が切り落とされると共に前蹴りを叩き込みそのまま反動で跳躍する。ギャングはバイクごと転倒し、その下敷きになった時には腕を切り落とされた方は死んでいて、そして飛び降りてきたサイバーブロンド=サンによってもう1人の頭は踏みつぶされた。
 続いてブラボースリー=サンが動く。彼は肩付けしたアサルトライフルで狙いを付けこちらに向けて走ってくるギャングのバイクに2発撃ち込んだ。弾丸が正確にタイヤを撃ち抜き、バイクがよろめく。
 そこに突っ込んできたブロックヘッド=サンは機動力が落ちたバイクに向けて跳び蹴りを放った。相手の胴体ほど太い足がバイカーにぶち当たり、二人まとめて吹き飛ばした。転倒した相手の上にブロックヘッド=サンがストンプを掛けるまでもなく、ギャング2人は手足をおかしな方向にねじ曲げてうめき声をあげるだけになった。
 ハイウェイローニン=サンはそれを見て雄叫びを上げるとバイクのエンジンをフル稼働させた。部下を殺したサイバーブロンド=サンとブロックヘッド=サンめがけてバイクを突撃させる。サイバーブロンド=サンは飛び退いたが、ブロックヘッド=サンはバイクに真正面からぶち当たる。彼女はぐいとバイクのハンドルをつかみ、押し合いを始めた。ハイウェイローニン=サンはブロックヘッド=サンめがけてカタナを振るう。彼女のロングコートが裂けて血がしぶいた。苦痛の声を噛み殺してブロックヘッド=サンはハンドルを掴んだままだ。
 その背後に兄弟ニンジャが回ったのを見ておれはそちらを攻撃することにした。塀の上から飛び降り灯籠を蹴り飛ばして背中めがけてカタナを打ち下ろす。なぜかグレイソード=サンもしくはグレイサーベル=サンは両手でクロスガードしながら前転しこちらの攻撃の勢いを殺した。おれはザンシンしながら相手の出方をうかがう。おそらくはドトンからの攻撃が来るだろう。
「兄ちゃん! クロスガードは後ろからの攻撃には通じないって!」
 弟だからたぶんこちらがグレイサーベル=サンなのだろうもう一人がきいきい声を上げた。
「ええいわかってる! くそっザンシンなんかしやがって!」
 そう言うとグレイソード=サンは前転姿勢から地面に飛び込み、白い石が敷き詰められた庭をめちゃくちゃにかき回しながら潜り込んだ。そしておれの背後から飛び出すとカタナを突き込んできた。振りの大きい突きはかんたんに回避できそうだったが、足を運ぼうとしたとき地面がぐずぐずになっていることに気づく。とっさにカタナの茎で逸らしてそのまま肘で顔を殴ろうとしたが、相手は再び地面に潜り込んだ。厄介なジツだ。
 入れ替わりにグレイサーベル=サンが地面に飛び込む。おれの足下からカタナが突然突き出して足を突き刺そうとする。だがそのときには既におれは玉砂利から飛び離れていた。飛び上がった際に思い切り発したシャウトがかすかに返ってくる。それはグレイサーベル=サンがターゲットを変え、ブラボースリー=サンの足下から飛び出そうとしていることをおれに伝えた。
「目の前に行ったぞ! ブラボースリー=サン!」
「ありがとよ!」
 おれの声に彼は反応すると、足下から飛び出るグレイサーベル=サンめがけて銃の台尻を打ち付けた。グレイサーベル=サンはめちゃくちゃにカタナを振り回したため、カウンターの台尻とカタナの刃がかち合った。グレイサーベル=サンは相手が不意打ちに見事対応したのに目を剥くと再び地面に潜った。
 サイバーブロンド=サンが姿勢を低くして飛びかかり、電磁ダガーをハイウェイローニン=サンのバイク前輪へと突き刺そうとする。バイクを発進させようにもブロックヘッド=サンががっちり捕まえている。とっさに彼はカタナで前輪をかばう。
 それに合わせてブラボースリー=サンがアサルトライフルを発射する。カタナで守れるのは一方向だけだ。弾丸は前輪にぶち当たり繊細なパーツをまき散らす。前輪がへしゃげてバイクがぐらりとゆらぎ暴れ馬めいてハイウェイローニン=サンを跳ね上げ、綺麗に腹を見せて転倒し燃え上がった。
 飛び離れたブロックヘッド=サンは燃え上がったバイクから飛んでくる大小の破片は意にも介さずバイクから跳ね飛ばされたハイウェイローニン=サンに突進する。そして起き上がりかけた彼の頭めがけて強烈なパンチを入れた。ハイウェイローニン=サンは辛うじて頭は避けたものの思い切りパンチは肩にぶち当たった。
「俺の車を!」
 怒鳴りながらハイウェイローニン=サンは後転して立ち上がり、サイバーブロンド=サンめがけて走るとカタナを振り下ろす。だが肩への一撃が効いたのか太刀筋はろくなものではなかった。見え見えの攻撃にサイバーブロンド=サンは歯をむき出して笑いながら身を屈めて避け、そのまま懐に潜り込むと強烈な肘鉄を顔に食らわせた。
 チャンスだ。おれは跳躍するとハイウェイローニン=サンめがけて跳び背中側からばっさりと斬ろうとした。だが跳ぶときにずるりと足下が崩れて狙いが狂った。その時にはハイウェイローニン=サンは体勢を立て直しており、おれの攻撃をカタナで受け止めた。
 グレイソード=サンとグレイサーベル=サンは再び地面に潜り込む。そして、乱戦から少し離れていたブラボースリー=サンめがけて飛びかかった。ブラボースリー=サンは咄嗟にコンバットクナイを抜き、攻撃を捌こうとする。だが2対1は分が悪く、ケブラーアーマーごしに力任せの一撃を喰らいせき込みながら側転して彼らをもぎ離す。
 サイバーブロンド=サンはブラボースリー=サンに追撃を行おうとしかけたハイウェイローニン=サンに飛びつくと、電磁ダガーを両手から爪めいて展開して切りつける。片手はフェイントでもう片手が本命だったが残念ながらハイウェイローニン=サンは本命側を受け止めた。
 ブロックヘッド=サンがつばぜり合いめがけて回し蹴りを放つ。当たっていれば顎を打ち抜いていただろうが彼は咄嗟につばぜり合いをやめて地面を転がった。
 蹴りで体勢が崩れた隙を見計らいハイウェイローニン=サンは下から突きを入れる。彼女はそれを爪先で受け止めた。靴先に仕込まれた鉄板にぶち当たり、がきん! と音を立ててカタナが折れた。ハイウェイローニン=サンの驚愕がおれに伝わってきた。
 おれは再び跳躍して灯籠を蹴るとその勢いのままにカタナを振り抜いた。ハイウェイローニン=サンの首が断ち落とされる感覚が見事に伝わってきた。我ながらなかなかの一撃だった。くるくる宙を飛んでいくハイウェイローニン=サンは口をぱくぱく動かした。おれの耳にはその振動がなんなのか伝わってきた。
「アイアン・ダコウ・フォーエバー……サヨナラ!」
 ハイウェイローニン=サンの爆発四散。中々いいハイクを読んで死んだものだ。英語入りだからセンスがいい。
「兄ちゃんどうしよう! ハイウェイローニン=サンが死んだ!」
「ええい! ここで退かないのが真の男だ!」
「すげえ! サムライ探偵サイゴだ!」
 双子のニンジャはそう言いあいながらおれたちに向かってきた。先ほどとどうもお互いの兄弟関係が入れ替わっているようで兄ちゃんと呼ばれているのがグレイサーベル=サン、呼んでいるのがグレイソード=サンになっているようだったがおれにはどうでもいいことだった。それに敵ながらあっぱれではないか。
 グレイソード=サンはブロックヘッド=サンめがけて突っ込むとめちゃくちゃにカタナを振り回す。カタナを受け止めた後で体勢が立て直せていなかった彼女のコートにカタナが突き刺さり黒コートに染みが広がっていく。
 グレイサーベル=サンもブロックヘッド=サンに向かおうとしたところでサイバーブロンド=サンがスリケンを投げつけてこう言った。
「こっちに来いよ! 今なら出血大サービスで受けてやる!」
 グレイサーベル=サンは即決し、まっすぐ向かうと思い切りサイバーブロンド=サンを切りつけた。鮮血が散り、サイバーブロンド=サンは楽しそうにケタケタ笑った。瞳孔が猫のように細くなりダガーが鉤爪のように飛び出す。彼女がぐるぐるとうなり声を上げると体内のサイバネ機構が共鳴するように稼働し、ネオンタトゥーがオレンジから赤へと色を変えた。
 そのまま彼女は電磁ダガーを深々とグレイサーベル=サンに突き刺した。電撃が流れ込みグレイサーベル=サンはばたばた体を痙攣させる。
 ブラボースリー=サンが先ほどのお返しにライフルを撃ち込む。ダガーを辛うじて抜いたグレイサーベル=サンは震えながら弾丸を避けるが膝から崩れ落ちた。
 ブロックヘッド=サンがグレイサーベル=サンにストンピングを行う。思い切り肩を踏みつけられておかしな方向にねじ曲がる。
 おれは跳びあがりグレイソード=サンの背中を軽く蹴った。彼を踏み台として更に跳躍すると深々とグレイサーベル=サンの脳天にカタナを突き立てた。
「に、兄ちゃん、仇を……サヨナラ!」
 先ほどとまた兄弟が入れ替わったようでもうどちらがどちらなのかおれにはわからない。
 推定グレイソード=サンは怒りに満ちた目でおれを睨むとカタナで切りかかる。大振りで正確性に欠ける攻撃をおれは簡単にかわした。
「よくも兄貴をーっ!」
 カタナをめちゃくちゃに振り回す彼は目に付いたものを当たり構わず攻撃しようとした。そのカタナを両手のダガーで弾いてサイバーブロンド=サンは笑った。そのまま深々と彼の腹に片手のダガーを突き刺しもう片方の手で頭を掴んだ。
「GRRRRR!」
 獣じみて叫ぶと彼女は思い切り頭突きを食らわせ、その勢いで推定グレイソード=サンのはらわたを引き裂いた。
「アバーッ! サヨナラ!」
 推定グレイソード=サンは爆発四散した。

 部屋に戻るとちょうどタケヤマ=サンのケジメが終わっていた。両腕が地面に転がり呆然とする彼の横でタツヨシ=サンがカタナを拭き、鞘に収めた。
「さて。あんたらに頼まれたとおり、命だけは助けることにした。これで文字通りテウチだ、いいな?」
 おれがちらりと「花散る」の正面入り口を見ると煙草をくわえた男が通りの向こうから歩いてきてのんびりとした様子でこちらを見ていた。彼はこちらの視線に気づくといっそにこやかに笑って手を挙げた。ブロックヘッド=サンが軽く会釈した。
 タツヨシ=サンの周囲にいた若いヤクザがタケヤマ=サンを立たせると足下に向けてチャカ・ガンを撃ち始めた。彼は必死で「花散る」の入り口、いや彼にとっては出口に走り、通りへ一歩出た時にシルバーカラス=サンがアイサツをした。タケヤマ=サンの顔が歪み失禁する。彼が何か話そうとした時には既にシルバーカラス=サンはカタナを納め終えていた。タケヤマ=サンの首がずり落ちて地面に転がるのを見ておれは感服した。すごいワザマエだ。
「多少のアクシデントはありましたが、無事つつがなく葬式を終えられそうです。身内の恥を晒してしまい申し訳ありませんね」
 タツヨシ=サンとその周囲のヤクザたちはおれたちに丁寧にお辞儀をした。ブロックヘッド=サンを代表としておれたちも頭を下げた。
 ブロックヘッド=サンが顔を上げた瞬間よろめいて倒れた。かなり酷くそこら中を切られていたせいで相当血が出たらしく貧血を起こしたようだ。慌ててスシが用意されるがカニマサ=サンとかいうヤクザがカニ・スシを持ってきたのがおもしろかった。
 おれはスシを食いながらタケヤマ=サンに言った。
「あの腕貰っていいか?」
 タケヤマ=サンは聞いた。
「何に使うんですか?」
 おれは答えた。
「指10本じゃ足りなさそうだったんでな! 鯉に餌をやりたい!」

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葬儀は終わり、裏切り者は死んだ。傭兵たちはヤクザからの信頼を得る。次のビズはさらなる闇からのもの。傭兵たちはどう切り抜けるのか。

――クローム・オア・ゴールド第二話「フューネラル・オブ・ケオス」終


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