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雑記:牛丼が食べたいわけじゃなかった

1

久しぶりに一人で遠出した。
リモートワークをしていると、平日にどこかに行くことがなくなっていく、多分人は外出して人に会う方がいいのだろう。そんな当たり前のことすら、当たり前ではと考えてしまうようになるのがリモートワーク。

この日の要件は会社から貸与されているPCのWindows11対応が必要になったので交換することだ。今使っているものに不満があるとかそういうことではなく、セキュリティ的に交換の時期だからというものだ。

PCをカバンに入れ南武線を縦断して川崎まで向かった。
南武線はいつもそこそこ混んでいる。
終点まで行くのだから座って文庫本なんかを読んでいきたいものだ。
いつもはあまり座れないのだけど、この日はタイミングよく数駅立っていたら座ることができたので、持参した文庫本を読み耽った。

リモートワーク前は通勤電車で本を読んで過ごしていた。
だからあの頃の方が読書量が多かったと思う。
今は夜寝る前やら、娘の習い事を待つ間なんかに本を読んでいる。
リモートワークと娘の成長によって、読書習慣がガラッと変わったのだ。

持参した文庫本の1節を読み終えたら、少し眠くなってしまった。
電車に揺られるのも久しぶりだから、こんな風に文庫本を読んでて眠くなってしまう事象も久しぶりだった。
気分を変えるために、以前に購入して未読だったマンガをKindleで読んだ。

電子書籍と文庫本、どうせなら電子書籍にまとめた方がいいのはわかっている。
でも、ちくま文庫はその文庫本自体の装丁が好きで本を買うようにしている。本屋に行った時もちくま文庫のコーナーは新刊をチェックするようにしている。
なぜだろうかと、よくよく考えてみた。

2

若い頃、ブックオフでバイトをしていたことがある。
今思うと、あんなに本を大切にしない本屋(かどうかの議論は一旦置いておく)もなかったと思う。
建前としては、古い本も大事に、というのはあったと思うが、売れない本を満載した段ボール箱が満載された倉庫にはなんとも言えない不気味さがあった。
その倉庫は霊暗所のようでもあり、墓場のようでもあり。
働く人たちも本が好きなわけでもなく、社員は妙に体育会系だった。
本を綺麗にして陳列すると言って、本を削るが栞(スピン)もそのまま削られて落ちていくのも悲しい光景だった。

そんな中、ちくま文庫だ。
昔のちくま文庫にはオリジナルの栞が入っていることがあり、そのバリエーションは数多とあった。
ちくま文庫が入ってくると、私はパラパラっと栞が入っていないか確認していた。
そして見つけた栞は作業着のエプロンに入れておいて、もらって帰っていた。
今でも本棚の片隅にちくま文庫のオリジナル栞が積んである。私は出かけるときに服を選ぶように、文庫本と栞を選んで持っていく生活がしたかったのだ。

そんなことを思い起こしていたら川崎に到着した。
要件はPCを渡すだけ、待ち合わせ時間に手渡しして近況など少し立ち話して完了、そのまま来た道を戻るのだ。
何かもっと、いい手段はなかったのだろうかとも思った。
ほんの一瞬だけ、「食事でもして帰る?」というような問いかけを誰かがすべきかという空気があった。
多分、皆そういうのが礼儀かなと思ったんだろう。
でもその一瞬の隙間の後、誰も発言しなかったので解散となったようでもあった。
私自身も行きに読んでいた文庫本の続きが気になっていたので、さっさと折り返しの電車に乗りたいという気持ちが強くて、
そんな一瞬の隙間については、登戸あたりで思い当たったのだった。

3

用事も済んだのだし、夕飯を食べて帰ろうと思い、乗り換えの駅で途中下車した。
なんでもいい。特に食べたいものがあるわけではないのだ。
食べたくないものはある、でも究極なんでもいい。(ただしそれなりの量が必要) 駅を降りて少し歩くが、めぼしい店はなくて、少し戻って一度通り過ぎたチェーンの牛丼屋に入った。

牛丼屋はそこそこ人が入っていた。
店員さんは研修中の外国人店員に仕事を教えながら進めているようだった。
これは時間がかかるかもしれない、でもいいか、文庫本の続きを読めるから。

持参した文庫本の続きを読みつつ、牛丼を待つ。
なぜ牛丼にしたのか、食べる前に後悔が始まる。なかなか提供されない、特に食べたいわけでもない牛丼を待ちながら。
持参した文庫本にはスピンはなく、あの時のちくま文庫の栞もなかった。
そういえば、家を出る時にちゃんと栞を選び忘れていたのだ。
外出を彩る一つを欠いていたことに、ようやく気付いた。

食べたかったわけでもない牛丼の、最後は白米だけになったその牛丼だったものを平げて退店。
これは一種のセルフネグレクトというものなのかと考えながら帰路につく。
では、何が食べたかったのか、やはり会社の人と食事すべきだったのか、栞を忘れたことが問題だったのか、など
取り止めもなく考えてしまい、その後は文庫本の続きを読まないままに家に着いた。

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