#56 マッキンダーの地政学

地政学の第一人者であるマッキンダー先生の大著。昨今のロシアの侵攻の背景にある思想、アメリカがここまで大きくなれたことへの学術的な説明、また中国の政策の裏への思惑に対してもある程度の精度を持って地政学を学ぶことによって著述できるという観点から、地政学の重要性を再度確認させられる一冊。また同時に、地政学は、位置関係を所与とした際にどのような振る舞いが戦略的に功を奏するのかということへの示唆、また戦略を考える上では、所与となっているものへの正確な理解とそれを自分たちの利益として利用するためにできる事をピンポイントで行うことが重要であることをも教えてくれる。

・社会が成立し存在するのは、人間が諸々の習慣の創造者だという事実に基づいている。多くの人々の様々な習慣を巧みに組み合わせることによって、初めて社会は運転中の機械に比べられるような昨日をもつ。

・社会の改革は次のような順序を持って行われる。啓蒙的な人物の登場と、恐怖による支配。(国土が侵攻されている場合はなおさらこの傾向が強い。)整然としている場合には、秩序が第二の天性となるが、混沌とした時代の中においては、一人の人の強い個の力に左右されることがある。

・組織者は、自国の社会福祉の充足に十分な力をつけられるように手配するだろう。マン・パワーがなければ国家戦力はおぼつかなくなる。

・一方で、デモクラシーと組織者の利害は不一致であるため、ここがズレた場合には、デモクラシーは組織者の徹底した支配欲、または、盲目的な効果追求の態度から、最高の復讐を受ける羽目になる。

・シーパワーの発達にとってはかなり大きな基地を必要とするということは、クレタ島が世界で最初の根拠地になったことから想像することができる。イギリスは、沿岸が崖で囲まれ上陸されにくい上に、平野部が海岸から程よく離れていたこと、豊富な炭鉱と鉄鉱石の存在、また財産権を認めた世界最初の国であることがシーパワー国家建設には事欠かせないのである。シーパワー存続のためには、よく整備され、生産力に優れたきちが欠かせないのだ。あらゆる沿岸地帯がたった一つのランドパワーに占められるといった場合がその例で、ギリシャの力の源とも呼べるだろう。

・ヨーロッパという概念はユニークなものであると考えられる。砂漠地帯の存在と、北には氷河が存在していた。また、船乗りからするとスエズ運河を渡らなければいけなく、外界に出る動作が必要。

・ヨーロッパが恵まれていた点としては、中央アジアから襲来した遊牧民族は、無尽蔵のマンパワーを持っていたわけではないこと、また、北のバイキングの脅威も、また取り立てていう程に大きなものではなかったからである。(改宗もしたので。)

・ランド・パワーという視点からものを見た際には、アラビア半島は世界島のアジアとヨーロッパを繋ぐ中心部と言える中継地点でもある。この観点からすると、エルサレムが戦略上重大な地点であるといえる。

・ランド・パワーでは、自然の障壁の存在しない交通の便がスムーズに行くところでの領地拡大が中心的な活動になる。インドの北西には中央アジアの騎馬隊が攻め込むことのできる地理的な要因があるが、例えば中国は、西側から攻め込まれる要素はほとんどない。

・ナポレオンの敗北は、彼のランドパワーのその他の基地が悉くイギリスのシーパワーに包囲されていたことに起因する。オランダ、スペイン、イタリアへの機動的な軍力の供給が可能であった。

・東欧における領土の再編成にあたって安定を期すための条件は、国家群を3つに分けることである。すなわちドイツとロシアの間には複数の独立国家からなる中間層を入れること。

・国際管理の最も効果的な方法は、ある一定の国を人類全体の受託者として、これに全てを委任すること。ある国際機関にこれを任せることが必ずしも得策とはならないのである。

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