#39世界牛魔人 米国、欧州、そして世界経済のゆくえ

非常にわかりやすく本質を捉えた父が娘に語る経済の話の著者であるヤニス・バルファキスの著作であるということで手に取った本。現在の世界経済秩序を理解する新たな視点を世界牛魔人という比喩を通して本書では描いている。具体的には、ブレトンウッズ体制の崩壊に伴い、ニクソンショックへと移行する中で、米国が赤字を垂れ流して各国へと供給されたドルは、各国にて投資成果を上げて、米国へと循環し返ってくると言うもの。その流れがいかに生じたか、またこの流れを通して見た時に見える新たな世界経済像をまとめる。

・2008年の危機は今までの金融の流れを一変させる大事件だが、どうして起こったのかという説明は今も多くのものが複数の解釈をするものとなっている。例えば、新商品は数式によってリスクはマネージできると言うもの。一番大きかったものは、規制の虜となったこと。CDOは諸銀行の資本収益計算の対象にならなかったこと、また中央銀行に質入れし、それと引き換えに得た資金でもCDOを購入できたことから、時限爆弾のようにCDO のリスクが市中に広がった。

・資本主義そもそもの限界を見る考え方もあるが、これは現在のアメリカが敷いた体制の限界と捉えるのが適切。1971年以降、アメリカは二重赤字を積極的に増やした。この赤字は、アメリカ以外の、世界最高の黒字国が払う。黒字国からのアメリカの資本循環によって、アメリカの成長は継続し、アメリカにきた資金はウォール街へ環流し、株式発行、新商品の開発、融資へと発展していった。

・封建社会の終焉と共に、土地と労働が一挙に商品化された。この商品の売買を通して新たな富が蓄積されていった。共同生産された余剰の分配を規定するのは承認なくしては成し遂げられない。機動的な社会の成就にの基盤には並行する二つの生産過程がある。余剰の製造と承諾の製造。資本主義は承諾をベールに包むことで発展したと見ることができる。誰が余剰を取っても構わないからだ。

・過酷な危機の定期生成は資本主義の本質とシュンペーターはとく。資本は独占力を持つ巨大企業へと結晶する傾向があり、成功企業は自己満足、自己欺瞞に陥り、新たな勢力によって落ちる。

・1930年フーヴァー大統領は、金本位制からの脱退を頑なに拒否。国内生産物への内需を回復しようと、関税増額法案を強行採決。各国も関税を強化し、経済戦争、そして第二次世界大戦へと移っていくのだった。

・IMFとIBRDはブレトン・ウッズ体制を通して設立された。IMFは世界資本主義制度における消防団に任命された。IBRDは戦後復興を要する国々に生産的投資をする任務を与えられた。

・米ドル圏は黒字再循環が少なくとも二つはあるが、欧州は一つもないことが共通通貨圏がうまく行かないことの理由である。(異なる通貨間であれば、赤字国の通貨は黒字国に対して貿易赤字をオフセットする為に減価しなければいけないが、同通貨であれば、これは黒字を通して行われなければならない。)米国は、マーシャル・プランを通して、ドイツを産業立国として立ち上がらせた。

・世界牛魔人は、米国の黒字あってこそ成り立つものであった。さもなければ米ドルでの蓄積は焦げ付きになってしまう。また、この米ドル覇権の状況では、危機の際に一番のダメージを受けるのは、欧州、日本である。

・米国二重赤字の補填に当たっては、国内生産力の増強と競争相手国の相対的生産費の引き上げを通じた、米国企業の相対的強化、そして米国に大型資本を呼び込むような魅力的な金利設定をする必要があった。

・日本経済躍進の理由の一つは、相互関連型企業とその周りを取り巻く金融インフラの存在。投資が常に賃金の上昇をうわまる局面では、需要を外に求めるしかなかった。そのため、米国の経済が転覆しかけると、日本経済も大きな影響を受けることになった。プラザ合意は、日本が自国だけで独立して立ててしまう状況を阻止するため、円高ドル安を招くドル減価を目指したとも取れる。

・アジア通貨危機の原因の一つには、米ドル安に伴う日本のアジア諸国への投資の急激な増加とその巻戻しによるもの。

・世界牛魔人、1970年代以降世界の余剰工業製品の大半を吸収し、ウォール街は米国への信用提供、直接投資、赤字の補填に使うという流れを維持してきたが、これは2008年以降の時代もまだ続いている。これが現状を理解する大きな枠組みとなっている。

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