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なぜ現代アートが日本で流行るのは、時間の問題か。【巨大化する現代アートビジネス】

【ローマ人の読書 vol.002】本:巨大化する現代アートビジネス 著者:ダニエル・グラネ&カトリーヌ・ラムール

 現代アートの父は、フランス人のマルセル・デュシャンと言われている。1915年に彼が発表した署名付きの“工業品アート”は、それまでのアートに対する人々の見方を根本的に変えた。「アートであるかどうかを決定するのはもはや文化機関ではなく、アーティスト自身である」と彼が宣言したその時から、現代アートの時代は始まった。今現代アートと呼ばれるものは1960年代から現在までに創られたものと境界線が引かれており、これは1998年に世界的なコレクターであるフィリップ・セガロにより提唱されたものである。

 世界の現代アーティストの中でとりわけ目立っているのがイギリス人のダミアン・ハーストだろう。チャールズ・サーチに見出された彼がそれほど有名なのは、彼の作品自体が突飛なことにも理由はあるだろうが、何よりも彼が今までのアート界の常識を初めて打ち破り、ギャラリーを通さずに直接コレクターへの競売を実施したことにある。2008年にあったこのアート界での革命を機に、今の現代アーティストは、ただものをつくるだけではなく、作品の商品化からPR・マーケティングにまで関わりたいと望む人が多くなったようだ。

 現代アート文化の主流は、欧米にある。確かに村上隆、草間彌生といった世界的な評価を受け活躍する日本人の現代アーティストは存在するが、実際の活躍の場はその多くが海外であるし、また動く人の数やお金の規模は海外の方が圧倒的で日本はまだまだGDP比率でみても小さいものである。それは逆に成長の余地があるともいえる。

 世界ではどのように現代アートが盛り上がっているのだろうか。例えばNYでは「アート・ウィーク」という街をあげてのお祭りが3月に開催され、多くの若者が参加するのがお決まりの光景だ。流行の最先端をいく彼らは、同じく若いクリエイターのインスタレーションや同じ関心をもつ人との偶然の出会いを楽しむ。そしてパリでも、週末は多くのカップルや若者グループで、芸術の都に点在するギャラリー等のアートプレイスは賑わう。アートは出会いの場でもあり、いつの時代の若者にとっても流行りなのである。

 多種多様な表現方法が生み出されている現代アートをフォローすることは、今の画一的な社会で生きる人にとって大きな意義がある。それは自分がユニークな個性の持ち主であることを主張したい欲望と、承認欲求を得られるグループに所属したいという欲望、2つの社会的欲望をスマートに満たすことができるからだ。そうなると、現代アートが日本に文化として浸透する日は案外近いかもしれない。


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