ココア好きの美容師さん
「とっきーくんに、言わなあかんことがあんねんけど」
2年前に出会ってからずっと担当してもらっている京都出身の美容師さんが申し訳なさそうに言ってきた。
「え、何?襟足切りすぎた?」
美容院でてるてる坊主状態の僕は、鏡越しに彼女にそう聞き返した。
「ちゃうねん。うち、またお店変わるんよ。」
彼女に髪を切ってもらい始めて2年目になる。
彼女の勤めるお店が変わるのはこれで2回目だ。
もともと担当してもらっていた美容師さんが、沖縄に移住するということで前のお店で紹介してもらったのが彼女だった。
髪を切るという技術的なことは正直よくわからないけど、手際がいいので多分上手いんだと思う。
しかも切りながら周りのことをよくみている。
それは、比較的若い同僚が周りに多いからなのか、彼女の性格なのか、はたまたその両方なのか、本当に色んなことによく気づく。
のに、なんか抜けててお金の計算を間違えていたり、オーダーを忘れてたり、
「うち、ココア好きなんよ。粉のままいってるわ。」
とかいうぶっ飛んでる好みを持っているけど、なんかそんなところも人間味があって好きだ。
だから、最初に「お店が変わる」と言われた時も、アクセスは30分長くなるけど異動先に行くことにした。
今年、人生で初めてパーマをかけたのも、彼女に薦められたからだった。
短くすると幼く見えて、長くなるともっさりしてなんか重く感じるのに悩んでいるのを打ち明けると
「とっきーくん、びっくりするくらいど直毛やねん。しかも硬いし。軽くでもパーマかけたらええねん。朝とかも楽よ。」
と提案してくれた。
これまでの人生で長く担当してもらった美容師さんは子供の頃から数えて5人いる。
その全員にパーマを勧められていたけど、いまいち勇気が持てなかった。
でも彼女にそう言われた時、不思議とかけてみようかな、という気持ちになった。
最初は見慣れず、道明寺か?と目を疑ってしまったが、
意外と好評で嬉しかったので、以降味をしめてパーマをかけ続けている。
よくよく異動の話を聞いてみると、「内装とかも自分で考えてお店やりたいんよ」なんて話を以前していたのが現実になったようだ。
次のお店は、どうやら今よりもアクセスが悪くなる。正直通いにくい。
でも、すぐこう答えた。
「そっちのお店に行きますよ。」
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コンフォートゾーン、という言葉を聞いたのはいつだっただろう。
物覚えの悪い僕は、もう思い出すことは出来ないけど、
「成長をするためには、居心地の良い環境から外に出ないとだめだ」
という言葉が学生時代に響いたことだけは覚えている。
僕はどちらかといえば、居心地の良さを求めてしまう傾向にあるけど、
思えば彼女はいつもアクティブだった。
京都から東京に出てきて、
東京でも目標のために武者修行をして、
成長のためにお店を変えながらスキルを磨いて、
今、念願である自分のお店を構えようとしている。
そんな彼女の様子を見ていると、
自分はどんな一歩を踏み出していくべきだろう?
と考えさせられる。
今年、勝手に自分で決めたテーマは
「やったことのないことに挑戦をする」だった。
そうすれば、今まで出会ったことのない人と出会うことができて、
何か停滞している自分を変えられると思ったからだ。
年始からはドラムを始めてみたし、
筋トレが大嫌いなのに、パーソナルトレーニングを始めた。
資格の試験にも挑戦してみた。
ドラムは面白かったし、初めて知る知識を学べて新鮮で楽しかったけど、「ハマるか」と言われたらそこまでではなく、辞めてしまった。
パーソナルトレーニングは、フットサルの練習もあるからとても勉強になって今も続けているけど、その効果を実感するのはもう少し先になるだろう。
でも、食べるのが好きな僕からすれば、食事制限が本当にきつい。
それなりに毎日頑張って食べるものに気をつけて続けているけども。
資格は、実技は合格できたけど、筆記があと1点で不合格だった。
原因ははっきりしていて、単調な反復勉強に飽きてしまったのと、膨大な試験範囲にモチベーションが続かなかった。
どれをみても、「なんか自分に甘い」というところが存分に露呈されていて、目を塞ぎたくなる。
でもある意味、普段の自分と違うことをしたからこそ、自分の弱い部分に改めて気づくことが出来たし、それを乗り越えようとなんとか習慣化しながら頑張ることが出来ている。
次のフェーズは、環境を変えることだ。
家と職場の往復。いつも通うカフェ。いつも寄るスーパー。
ついつい、いつもと同じ風景、いつもと同じ居心地のいい場所を選んでしまう。
もちろん、そういう「居心地のいい場所」を多く持つことは大切だと思うけど、たまにはそのルーティーンを壊して初めての場所に行ってみることも大切かもしれない。
そうすれば、何か違うことに気がつくかもしれないし、
思いもかけない人と出会えるかもしれない。
そういう意味では、彼女が新しく開くお店に足を運ぶのは、
自分にとっても何かいい出来事なのかなと思っている。
開店祝いには、大きな森永のココアを持って行くつもりだ。
おしまい。
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