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読書感想『水を縫う』

手芸好きをからかわれ、周囲から浮いている高校一年生の清澄。一方、結婚を控えた姉の水青は、かわいいものや華やかな場が苦手だ。そんな彼女のために、清澄はウェディングドレスを手作りすると宣言するが、母・さつ子からは反対されて――。「男なのに」「女らしく」「母親/父親だから」。そんな言葉に立ち止まったことのあるすべての人へ贈る、清々しい家族小説。第9回河合隼雄物語賞受賞作。

登場人物が手芸、中でも刺繍好きという前情報があったので、最近はしばらく針を持っていないけど、刺繍好きの私にハマるんじゃないかなと楽しみにしていた一冊。

手芸の描写が美しくて、自分の好きなことがこんな素敵な描き方をされるうれしさと共感と。手芸メインの本というわけではないけど、手芸好きには刺さる人多いんじゃないかな。

糸だったものが、刺し重ねていくことによって、面になる。すこしずつかたちになっていく、その過程に興奮する。染めたり、絵を描いたりした布とも、織った布とも違う、糸を重ねていくことでした生み出せない色や質感がある。それがおもしろくてたまらない。


手芸が趣味だと言うとだいたい「女性らしい」とか「家庭的」なんてイメージを持たれるのが嫌で、そんなふりをしたくてやってるんじゃなくて、好きだからやってるんだぞ!という気持ちがあったり。
ハンドメイド販売をしている人を見て、私も作ったものをお金という成果で残したい!と思い、でも販売を主目的に考えたらコスパタイパを考えて一気に楽しさがなくなってしまったり。
お金にならなくとも何か形に、成果に、実用的なものに、なんて考え出したり、仕事や家事や勉強やらを優先していたらだんどんと刺繍から遠ざかっていった。

「大切なことやから、自分の好きになるものをはやってるとかいないとか、お金になるかならないかみたいなことで選びたくないなと、ずっと思ってきた」

自分の中で時期じゃなくて遠ざかるのもあり、やりたくなったタイミングでやるのでいい、成果なんか求めなくて好きの気持ちだけで楽しめればいいじゃんって当たり前のことを今さら思ったら
あの図面をこれに刺したら素敵だよな、糸の色は何色にしようかな、なんて考えてうきうきしていたあの気持ちに戻りたくなってきた。


「女/男らしさ」や「妻/夫、母親/父親だから」みたいなしがらみがあるのは事実だけど、じゃあ誰がしがみつけているのかというとそれは世間だけではなく、無意識に自分自身でストイックに押さえ込み我慢していて、でも案外周りはなんとも思っていない、みたいなこともあるんだろうな。
書き残しておきたい素敵な言葉が多い、読み終わった後にすっきり清らかな気持ちになる家族小説。


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