見出し画像

『いやな男』(1)

店内は酔っぱらいと、まだ酔っぱらっていない人々で賑わい、熱れでかなりむんむんとしていた。木曜日とは思えない混み具合。偶然に空いた入り口の扉そばのテーブルに座った。


 『ラジオ』は犬小屋を大きくしておめかしさせたようなこじんまりとしたバーで、そこには学生がたくさん集まった。行けばだれかしら知り合いに会えるようなところだが、一度顔を赤くしただれかに絡まれればたいてい陽が出るまでは酒宴が続くことになった。店内にはどうやらその日も今風の服装を着、赤や黒のコート、ジャケットを椅子の背もたれにかけた学生らしい若者が多く散見された。


 あらゆるテーブルから狼煙のようにたばこのけむりが上がっている。けむりの奥にはたいがい、いやらしい眼つきを光らせてあちこちを見やる男の学生が、いやらしくなければ、暗い希望を抱えた人々、他人に関心のある素振りをして実は内心ではまったく無関心な人々ばかりがこのバーを訪れ、グラスを互いに打ち合っていた。…

#小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?