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チューバの話#2「Theon Crossとヲタコミュニティ」

東方洸介です。遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。

今日は最後に大事なお知らせがあるので、面倒な方はせめて読み飛ばしてスクロールで1番下にいってください。

チューバの話をします。


ここ数年のあいだでクラブ音楽界にてUKジャズブームが起きて、チューバ奏者のTheon Cross(テオン・クロス)氏が話題になってます。

もともとジャズを専門とするチューバ奏者ですが、最近はトラックメイカーとしても力を伸ばしていて、2021年ついにゴリゴリのエレクトロ作品「Intra-I」を発表しました。


このアルバム、個人的にめちゃくちゃ衝撃だったんです。

※以下の解釈は20年以上チューバと一緒にいたのが原因で一般感覚がバグってしまった僕によるものです。あと書いてて自分で「何様だお前は」と思ったので諸々で不快になった方は申し訳ありません。


アルバム「FYAH」での役割


そもそもチューバがポピュラー音楽で日の目を見なかった要因って、チューバがベースギターより「音色のクセが強い」「クセのある音しか出せない!」なのは結構でかい気がします。扱いづらいんです。

そんななか、テオン・クロスが前リーダー作品「FYAH」でチューバの認知を広めるに至ったのは、サックスやドラムが(クセのあるチューバの音がしっくりハマる)親しみやすい曲を演奏したことだと思います(こう言うとサックスやドラムの功績のように聞こえますが、結局この世界観を作り上げたクロスの作曲とプロデュースの力です)

なので楽曲のなかのチューバも「どうだ!これがチューバやで!」というよりも「こんな曲作ったので変わった音のベースで参加しました」みたいなアプローチで演奏しているのが「FYAH」の印象でした。


「Intra-I」で解放されたヲタ精神


ところが最新作「Intra-I」はボーカルやシンセサイザーなんかが入っているとはいえ、チューバがベースどころかメロディ、ハーモニー、部分的にリズムすらも担っている、なんかもうチューバがマシマシに盛られたものになっていました。


ニッチすぎでは!?


チューバがフロントとしてフィーチャーされた作品はこれまでも様々なジャンルでたくさんありました。
古くはヴォーン・ウィリアムズ作曲の「チューバ協奏曲」やジョン・コルトレーンと共演した奏者レイ・ドレイパーのジャズアルバム、巨匠ロジャー・ボボやオースティン・ボーズウィックによるソロ作品らはチューバ業界に激震が走りました。

…ただ結局それらを聴いて盛り上がったのはもともとからチューバが好きな人だけだった事実も否めません。
「〇〇がチューバの1stソロアルバムを出した」「今度〇〇フィルの首席チューバ奏者が来日するですぞ」とか、なんというか、チューバ好き人間たちはクラスの隅っこに固まってヲタトークを繰り広げてたんです。この100年くらい。


前回までサックスやドラムに寄り添った立場だったはずのクロスが、今回の「Intra-I」にて「うえーい!!あれもチューバ!!これもチューバ!!」みたいな感じでガンガンにチューバを前に押し出してやって来るのは、実は想像以上に大きな掛けだったんじゃないでしょうか。

結果としてこれも大衆に受け入れられる作品になったということで、同じ業種の僕は

「え、こんなにチューバって前に出して良いんだ」

「いや、これはそれまでテオン・クロスがチューバを大衆に近づける土壌をじっくり育てたからだ」


「すごい(小並感)」

と色んな感情がグニャア!となったのが半年前でした。


さて、なんで今更こんな話をしようと思ったのかというと、昨日久しぶりにウイーンのチューバ奏者Jon Sass(ジョン・サス)のソロアルバム「Sassified」を聴いたんです。

これって10年以上前にリリースされたんですが、作風やアプローチが「Intra-I」ととても似ている気がします。
チューバのことよくわからんけど「Intra-I」か気に入ったリスナーの方はきっと好きになると思うので是非「Sassified」聴いてみてください。


ただ結局このアルバムも上記のようにチューバ好きが聴くアルバムというポジションで盛り上がりが止まったんですよ。カッコ良いのに。
「Intra-I」が音楽的に素晴らしいものだというのはさておき、それ以前にテオン・クロスのこのアルバムがチューバ好きのためだけに収まらない商業的成功を収めたということは過去だれも成しえなかったのではないでしょうか。

クロスが切り抜いたこの獣道は、今後のチューバ奏者たちによってさらに変化していくはずなので僕も勇気づけられたり、焦ったり、ワクワクしたりしています。




そして、最後になりましたが重大発表。


そんな僕が所属するユーフォニアム、チューバ、ドラムによるトリオバンドPedal Voxの1stアルバムが遂に今月末発売されます。

詳細はすぐに発表できると思います。というか月末って、いま1月半ばなのに我ながらノンビリしすぎです。

チューバが好きでもそうでなくても、今日話したアルバムたちが好きな人は気に入ってくれる作品だと思います。おたのしみに!

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