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口腔(歯科)インプラントの現状

 近年、歯科インプラントの普及に伴い上部構造の咬合に問題がある症例が散見されるので、咬合について考えて見たい。

 歯牙(歯冠)を治療目的に切削・修復する行為が法的に認められるのは歯科医師(歯科医師法)のみである。人が食物を切裁臼磨して、食塊を形成(咀嚼)するには、正しい咬み合わせ(咬合)が不可欠だ。

 私が歯科インプラント(Implant)を治療に導入したのは1978年である。当時は京セラのサファイヤインプラントが国産の始まりで、その後スウェーデン学者のペル・イングヴァール・ブローネマルクの開発によるデンタルインプラントが輸入され、オッセオインテグレーション(Osseointegration)の定義に適合するインプラントを応用してきた。

 咬合は、上下顎の歯牙を咬み合わせる動作によって営まれ、その機能は歯牙・歯周組織・咀嚼筋群・顎関節・口蓋・頬・口唇・舌・唾液腺などの咀嚼器の総合作用で、神経筋機構に支配される。その機能が不全である場合の障害は、単なる食物摂取に困難をきたすにとどまらず、人体に数多く問題を引き起こす結果になる。生理的な機能回復は歯科医師の最大の仕事になるので、歯科医師がインプラント治療をする場合、咬合・咀嚼機能をとりまく生物学的な条件やその変化様相について充分な知識の担保が保証されてはじめて、行うべきである。

 しかし、高齢化時代の到来に伴い欠損補綴の増加が予想され、着脱式補綴装置を拒む患者や機能的、審美的な要求度が強い患者には避けて通れない、これからの歯科治療として人工臓器としての歯科インプラントに期待するところが大である。歯科インプラントは、tissue integrationすなわち光学顕微鏡レベルで荷重を加えたインプラント表面に活性組織が直接接触するという概念が導入されて以来、急速な進歩を遂げている。

 だが、咬合の再構築の目的が咀嚼系の機能回復とするならば、歯根膜というレセプターを持たないインプラントを咀嚼システムに調和させるには、咬合圧や圧感覚に対する咀嚼筋群の制御機構をはじめとする解決すべき多くの研究課題が残されている。

 しかし、わが国の臨床の現場においては一部の臨床医においてこれらの問題が未解決のまま、日常、歯科インプラントが安易に実施されているのが実態である。

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